人口の約5人に1人が後期高齢者となる、2025年は間近に迫っています。2030年には約3割が65歳以上を迎え、高齢化率の上昇と労働力不足、社会保障費の増大は大きな社会課題です。
そのように高齢者が増加する中で、介護事業者は労働力不足や人材の育成に頭を悩ませています。職員の不足により事業から撤退したり、縮小したりする事業所も増えています。
介護事業者にとって厳しい状況が続くなか、厚生労働省でもなんとか持続的な介護保険制度が維持できるよう、科学的に裏付けられた方法を用いた介護の推進に力を入れています。
ここでは、科学的介護情報システム(LIFE)について、その概要や仕組みについて解説します。ぜひ参考にしてみてください。
目次
科学的介護推進体制(LIFE)とは
介護保険制度のLIFE(Long-term care Information system For Evidence)は、
各事業所から介護に関するデータを集めることで、介護従事者の経験や知識だけではなく、科学的な裏付けに基づいた介護を行っていくことを目的として導入された仕組み
です。
具体的には、各介護事業所はADL(日常生活動作)や栄養状態、口腔・嚥下機能、認知症などの利用者に関するデータや、事業所で行われているケアやリハビリの情報などを登録します。それらのデータを厚生労働省へ提出し、データ解析によるフィードバックを受けて、情報を活用し科学的に裏付けられた介護を実現することでサービスの質の向上を図ることを目的としています。
これは、介護保険制度の目的である「利用者の尊厳を大切にしながら自立支援を行い、要介護状態の軽減や悪化の防止」を目指すための仕組みとして取り入れられたものです。
また事業所は、LIFEに情報を提出することで介護報酬では加算を取ることができます。そして、提出したデータのフィードバックを活用することで、PDCAサイクルを進め、ケアの質の向上を図る取り組みがLIFEの目的になっています。
科学的介護推進体制加算(LIFE加算)とは
科学的介護推進体制加算(LIFE加算)は、多くの介護サービスで導入されている加算です。加算の単位数はサービスにより異なりますが、一人あたり月ごとに40単位から60単位を算定することができます。
LIFE加算を算定するためには、LIFEへ登録してデータを提出することとフィードバックを受けることで、科学的に効果的なサービス提供や取組みを行うことを評価するものです。
令和5年9月の第27回社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会の資料では、令和5年4月でLIFE加算を算定している割合は、介護老人保健施設が77.7%と最も多く、在宅系のサービスでは50%に満たさないサービスが大半となっています。今後、事業所側の負担を減らしていかないとせっかく構築されたサービスも広がっていかないことも考えられます。
画像:LIFE の活用状況の把握および ADL 維持等加算の拡充の影響に 関する調査研究事業より
科学的介護推進体制加算(LIFE加算)対象サービス
科学的介護推進体制加算(LIFE加算)は、介護サービスの質を向上させるための重要な制度です。しかし、全ての介護サービスがLIFE加算の対象となるわけではありません。
例えば、訪問介護や訪問看護、訪問入浴介護、福祉用具貸与などのサービスは、現行の制度ではLIFE加算の対象外となっています。
しかし、LIFE加算が適用されないサービスを提供している事業者でも、LIFEの概要を理解しておくことは重要です。なぜなら、今後の制度改正により、これらのサービスがLIFE加算の対象となる可能性があるからです。
具体的に、どのサービスでLIFE加算を算定できるのかを見ていきます。
通所系・居住系・多機能型サービス
在宅介護サービスの多くでは、LIFEに登録することで科学的介護推進体制加算(LIFE加算)を算定することができます。サービスによっては、LIFEに登録して科学的介護推進体制加算(LIFE加算)を算定することで、更に単位数の高い加算を算定することができるものもあります。
・通所介護
・地域密着型通所介護
・認知症対応型通所介護(予防含む)
・特定施設入居者生活介護(予防含む)
・地域密着型特定施設入居者生活介護
・認知症対応型共同生活介護(予防含む)
・小規模多機能型居宅介護
・看護小規模多機能型居宅介護
・通所リハビリテーション(予防含む)
これらのサービスを提供する事業者は、LIFEに登録することで、更に単位数の高い加算を算定することも可能となります。これにより、事業者は介護報酬の算定に影響を与えるだけでなく、利用者に対するサービスの質を向上させることができます。
画像:ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)利活用の手引きより
施設型サービス
施設型サービスでは、LIFEに登録することで科学的介護推進体制加算(LIFE加算)を算定することでき、在宅サービスよりも複数の加算に繋げることができます。これは、介護の質を向上させるための重要な取り組みであり、データに基づいた科学的な介護を推進するための仕組みになっています。
施設型サービスでは、LIFEへの登録で在宅サービスよりも複数の加算に繋げることが可能でより高い単位数の加算を算定することができます。また、LIFE加算は(Ⅰ)と(Ⅱ)に分けられており、(Ⅱ)はより単位数の高い加算となっています。
具体的には、介護保険施設と言われる以下のサービスで加算を算定することができます。
・介護老人福祉施設
・地域密着型介護老人福祉施設入居者生活介護
・介護老人保健施設
・介護医療院
科学的介護推進体制加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の具体的な違いは、以下の通りとなっています。加算(Ⅱ)については、加算(Ⅰ)よりも情報の提出量が多いということが特徴です。
科学的介護推進体制加算(Ⅰ)
(1)入所者ごとのADL値、栄養状態、口腔(くう)機能、認知症の状況その他の入所者の心身の状況等に係る基本的な情報を、厚生労働省に提出していること。
(2)必要に応じて施設サービス計画を見直すなど、サービスの提供に当たって、(1)に規定する情報その他サービスを適切かつ有効に提供するために必要な情報を活用していること。
科学的介護推進体制加算(Ⅱ)
(1)科学的介護推進体制加算(Ⅰ)の(1)に加えて、入所者ごとの疾病、服薬の状況等の情報を、厚生労働省に提出していること。
(2)必要に応じて施設サービス計画を見直すなど、サービスの提供に当たって、加算(Ⅰ)に規定する情報、(1)に規定する情報その他サービスを適切かつ有効に提供するために必要な情報を活用していること。
画像:ケアの質の向上に向けた科学的介護情報システム(LIFE)利活用の手引きより
科学的介護推進体制加算(LIFE加算)の算定要件
科学的介護推進体制加算(LIFE加算)を算定するためには、LIFEへ登録して情報を提出する必要があります。それでは、具体的にどのような情報を提出する必要があるかを見ていきます。
利用者の基本的な情報を提出する
科学的介護推進体制加算(LIFE加算)を推進するためには、利用者ごとの基本情報の登録が必須とされています。具体的には、以下の項目の提出が必須とされています。
・基本情報
氏名や生年月日、性別などの情報
・日常生活自立度、認知症自立度
・総論
既往歴や服薬情報、ADL情報
・口腔・栄養
口腔機能や栄養状態などの情報
・認知症情報
認知症の診断や状態
LIFEへの登録については、ADLや栄養状態、口腔・嚥下機能、認知症といった幅広い項目について200項目以上を入力することが可能です。しかし、その全てを入力する必要はなく、30項目の基本的な項目及び算定する加算ごとに入力をしなくてはいけない項目がきまっているため、必要な項目を入力します。
LIFEの情報を活用してPDCAサイクルを回す
LIFEでは、PDCA(Plan→Do →Check→Action)サイクルを回すことで、質の高いケアに繋げていくことが期待されています。
具体的には、
・「Plan」では利用者の情報に基づいたサービス計画を作成
・「Do」ではその計画に基づいて介護を実施
・「Check」ではLIFEの情報等を活用して事業所の特性やサービス提供の在り方を検証
・「Action」では検証結果に基づいてサービス計画を見直し、サービスの質を向上
させます。これらの取り組みにより、利用者の自立支援や重度化防止を目指しています。
LIFEでは、入力した内容について各事業所のフィードバックがされており、それらをPDCAに活用することが期待されています。令和3年に開始された制度ですが、今後は時間の経過と共に膨大な情報が集まることが期待されていますので、それらのデータを活用しエビデンスに基づいた自立支援・重度化防止等の取り組みを進めていくことが期待されています。
LIFEへ情報を提出する頻度
LIFEへの入力はいつでも可能ですが、厚労省でデータが処理がされるのは該当月の翌月10日になります。利用者の基本情報は、利用の初月に入力することとされており、LIFEへの登録が必要な加算は、加算によってデータの提出頻度が異なります。
具体的には、科学的介護推進体制加算(LIFE加算)やADL維持等加算の場合は、従前では6か月ごとに登録でしたが、「3か月に1回」の登録が必要とされました。
参照:令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.7)(令和6年6月7日)
令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月 15 日)問 97 を次のと
おり修正する。(修正箇所は下線)
問 175 科学的介護推進体制加算のデータ提出頻度について、少なくとも6か月に1回
から3か月に1回に見直されたが、令和6年4月又は6月以降のいつから少なくと
も3か月に1回提出すればよいか。
(答)
・ 科学的介護推進体制加算を算定する際に提出が必須とされている情報について、令和
6年4月又は6月以降は、少なくとも3か月に1回提出することが必要である。
・ 例えば、令和6年2月に提出した場合は、6か月後の令和6年8月までに少なくとも
1回データ提出し、それ以降は3か月後の令和6年 11 月までに少なくとも1回のデータ
提出が必要である。
LIFEへの登録方法については、
・LIFEのサイト上から直接入力を行う方法
・使用している介護ソフトからデータを排出してサイトに取り込む方法
2種類があります。多くの介護ソフトで、LIFEの情報を出すことが出来るようになっていますが、まだ介護ソフトを導入していない事業所については、ICT導入補助金を活用できる場合がありますので、都道府県のホームページなどで確認してみるとよいでしょう。
LIFEが活用されていない主な原因
LIFE加算は、原則としてサービスを利用する利用者(入所者)全員のデータ提出が必要とされ、定期的な情報の提出が求められているため事業所側の負担を懸念する意見も多く聞かれています。
現在のところLIFEへの登録や報告は任意になっていますので、LIFEを活用していない事業所も多くあり、それは主に2つの原因があると考えられます。
LIFEへの入力の手間や労力
LIFEへの登録では、利用者、入所者の情報を一人ひとり入力する必要があります。
そのため小さな事業所などで、入力の時間を確保できない場合や、評価をすることが難しい事業所等では、導入が進んでないと考えられます。
労力に見合った単位数が設定されていない
LIFE加算は、利用者一人あたり40単位から60単位が設定されています。
利用者が50名の在宅サービスの場合、50名✕400円=20,000円(地域区分を加味しない場合)を算定することができます。これを大きいと見るか、小さいと見るかは判断の分かれるところですが、労力に見合った単位数になっていないことがLIFEへの登録の要因のひとつではないでしょうか。
LIFE加算を算定する際の注意点
LIFE加算を登録するためには、様々な情報を登録する必要があります。LIFEサイトの登録では、20分程度で自動的にログアウトされてしまうのでコマ目に保存をするなどしてデータが消えてしまわないように注意しましょう。
また、登録は初月に行った後、3ヵ月後や6ヵ月後など決められています。それぞれの利用者ごとに開始月が異なると、次回の入力日も異なるので、チェックリストを作成するなどして入力の漏れが起こらないように中止しましょう。
なお、LIFEへの登録については氏名や生年月日など個人情報を登録することになりますが、厚生労働省のQ&Aでは、情報を匿名化して収集するため利用者や家族に同意を取る必要はないとされています。
LIFE加算を取ることは今後の重要課題に
LIFE加算は、介護サービスの質を向上させるための重要な手段です。これは、利用者の心身の状況やエビデンス(根拠)に基づいたサービス計画を作成し、その計画に基づいて介護を実施することで効率的で質の高いサービスを提供するためです。
今後は、今まで以上に人手不足となり高齢者が増加することで、介護現場が疲弊することが予測されています。だからこそ、科学的に裏付けられたサービスを行うことで心身機能の維持や効率的で質の高いサービスが求められています。
令和3年から本格的に運用したLIFEですが、時間の経過とともに膨大なビックデータが集約されています。加算の重要性が増して効果が得られれば、加算点数があがる可能性もあり、LIFEに登録している事業所としていない事業所の点数の差が大きくなることも予測されます。
令和6年には介護報酬の改定が控えていますが、ここまでの結果からLIFEがどのように加算として評価されてくるかは今後の重要課題となるので、常に最新の情報を注視する必要があります。
まとめ
先日、書類を整理していたら平成15年の介護給付費サービスコードが出てきました。そこでは、認知症という言葉は使われておらず要支援1.2も分かれていませんでした。通所介護の入浴は、「入浴介助加算」と「特別入浴介助加算」に分かれており、今見ると加算の数も少なくとてもシンプルなものでした。
介護業界も時代とともに変化をしています。ここでは、LIFE加算について見てきましたが、今はLIFEへの登録は任意となっていますが、もしかしたら今後はLIFEへの登録は必須とされるかもしれません。今までも、加算として評価されていたものがいつの間にか「しなくてはいけないもの」とされてきたことが多くあります。
LIFE加算についても、その手間と比較して単位数が低いため導入を見送ったり、不満の声を聞くこともあります。しかし、介護保険制度の中で事業を展開する介護事業者は、その仕組みを活用し出来る限り新しい制度を取り入れて加算算定を進めていく必要があるのではないでしょうか。
なお、LIFEに限らず加算の解釈は保険者によって異なる場合があります。常に最新の情報を確認するようにしてください。当サイトでも、随時新しい情報をお届け出来るよう取り組んでいます。
この記事の執筆者 | 伊藤 所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士 20年以上、介護・医療系の事務に従事。 デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。 現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。 |
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