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【教えて!】介護施設のリスクマネジメント プロセスを分かりやすく解説!

介護施設のリスクマネジメント プロセスとは

介護施設では、大小様々な事故が起こるリスクがあります。そのリスクをどのように捉え、扱っていくかで、事故が起こった後の結果は大きく変わります。介護現場の事故は、人の命に関わることがあるため、リスクマネジメントは必須となっています。
 
本記事では、介護施設におけるリスクマネジメントプロセスを解説していきます。また、リスクマネジメントプロセスをどのように介護現場に反映していけばいいのか、具体例も取り入れながら解説しています。
 
リスクマネジメントは、正しい運用をして初めて効果を発揮します。ぜひ本記事の内容をご覧いただき、介護施設でのリスクマネジメント運用の参考にしていただけたらと思います。

介護施設のリスクマネジメントとは?

転倒した高齢者

介護施設のリスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理して、損失等の回避・低減を図るプロセスのことを言います。

リスクマネジメントと聞くと、リスクを回避することをイメージされる方も多いと思います。しかし、重要なのは被害損失を最小限に抑えるという考え方です。

介護施設の事故をゼロにすることは、非常に難しいのが現実です。事故が起こる原因は複数あり、必ず起こるものだと考える必要があります。そのため、事故が起きてしまった場合に被害や損失を最小限に抑えるという考え方が、非常に重要なのです。

それでは、どのように介護施設でリスクマネジメントを展開すれば良いのかを説明していきます。

介護施設のリスクマネジメントプロセスをわかりやすく解説

リスクマネジメントには、4つの原則があります。ここからは、それぞれの原則を解説していきます。

①リスク特定(発見する)

まずは、何がリスクなのかを特定することから始めます。リスク特定ができていないと、対処法は検討できません。リスクを特定(発見)する有効な方法として、ヒヤリハット報告書があります。

ヒヤリハット報告書が有効な理由は、ハインリッヒの法則(※1)の考え方にあります。

(※1)ハインリッヒの法則

 
1件の重大な事故の背後には、29件の軽微な事故と、怪我に至らない300件の事故がある。

次に特定したリスクを分類します。介護事故は、

「防げる事故(職員や環境によるもの)」

「防げない事故(危険予測が困難で、対策を行っても防ぎきれないもの)」

の2つに分類することができます。介護施設のリスクマネジメントでは、防げる事故に焦点をあてて考えます。さらに介護事故の要因を考えます。

介護事故の要因は3つあります。

・利用者に潜んでいる要因

・支援する側に潜んでいる要因

・ケアが行われる環境に潜んでいる要因

リスクの要因を考える時、利用者や環境を要因にすることをためらうこともあると思います。しかし、介護事故の要因は決して、支援側だけではありません。

様々な方向から介護事故を捉えることにより、適切な対策を考えることができます。リスクが特定できたら、次のステップに移ります。

②リスクアセスメント(分析・評価)

介護事故のリスクが特定できたら、次は特定されたリスクを分析・評価していきます。分析する視点は4点ありますので、分けて考えていきます。

・人的要因

・設備的要因

・作業環境的要因

・管理的要因

それぞれの要因をあげていくことで、自然と具体的な対応策が見えてきます。

③リスク対応(対処する)

次は分析・評価の結果から、具体的な対応を考えていきます。ここでは、介護事故を防ぐ対応策だけでなく、事故後の初期対応によって、その後の被害や損害の大きさが変わって来るので、起こってしまった事故の対応策を考えておくことも重要です。

例えば、事故防止マニュアルの作成や更新を行います。マニュアルは一度作ったら終わりではなく、必要に応じて更新し現状にあったものを作成していきます。また、分析結果から浮かび上がった、環境等の整備を行うことも有効です。

④リスクコントロール(周知・運用)

事故防止マニュアル等は作って終わりではなく、職員研修・回覧等で施設内において共有し、活用しなければなりません。そのため、介護施設内で周知する取り組みを行います。

業務にも取り込み運用することで、初めて適切なリスクマネジメントプロセスとなります。

また、継続的に運用する具体例としては、委員会等の設置を行うことが有効となります。構成メンバーは、職種・職位などが偏らないメンバーで構成することで、現場に即した実効性のある対策の議論・活動ができることが期待できます。

委員会では、ヒヤリハット・事故報告書の収集・分析、事故対策の検討・決定、定期的な評価、家族への報告、定期的な報告会などを実施します。

介護施設でリスクマネジメントが必要な理由

介護事故のリスクマネジメントに関する打ち合わせ

ここまで、介護施設のリスクマネジメントプロセスについて説明してきました。とはいえ、通常の業務だけでも多忙ですから負担に感じる職員、管理職も多いと思います。しかしリスクマネジメントはとても重要です。

多忙な毎日のなか、リスクマネジメントを行わなければならない理由は3つあります。

利用者の生活を守るため

心身機能の低下が予想される利用者のリスクを把握することで、介護事故を未然に防ぐことができ、安全な生活を送ることができる環境を作ることができます。

職員を守るため

介護事故が起こってしまったとき、職員は自責の念にかられます。このとき、職員のメンタルを守ることはとても大切なことです。

また、職員を守ることで、働く環境を守ることにも繋がります。介護事故による訴訟は、施設に対してだけではなく、職員個人に対しても起こされることがあります。

大切な職員を失わないためにも重要なことといえます。

施設を守るため

介護事故により家族から訴訟を起こされるケースも発生しています。事業所に対して高額な賠償金の支払いが命じられた判例もあります。

そして、具体的な統計はありませんが、介護事故に関する訴訟は、増加傾向にあると言われています。リスクマネジメントに取り組むことにより、介護事故の予防や訴訟されるリスクの低減を図ることができます。

このように、介護施設におけるリスクマネジメントでは、利用者・職員・施設の保護に意識して取り組みます。全てが適切に運用できていなければ、何も守れません。

健全な施設運営のために、リスクマネジメントは重要なのです。

リスクマネジメントプロセスと同時に重要なこと

リスクマネジメントプロセスは、一度取り組んで終わりでは不十分です。利用者や職員、施設内の環境等は日々変化します。そのためリスク対応やマニュアルなどは定期的に見直す必要があります。

見直しを怠ると、リスクマネジメントプロセスが適切に機能しません。

そのために、PDCAサイクル(※2)を活用し、職場全体の意識を高めることも重要になってきます。

(※2)PDCAサイクル

 
PLAN「目標設定」 → DO「実行」 → CHECK「検証」 → ACTION「目標の修正と実行」 → PLAN に戻るという手順。

    

継続的にリスクマネジメントに取り組む仕組み作り

継続的に取り組むためには、PDCAサイクルを活用して、マニュアルなどの定期的な見直しが有効となります。

PLAN 「リスクの特定→ヒヤリハットの活用」

DO  「リスク対応→マニュアル作成・環境整備」

CHECK「リスク分析・評価」

ACTION「リスクコントロール→周知・運用」

  
これが習慣・業務化できれば、日々の変化に沿ったリスクマネジメントの取り組みができるようになります。

また、マニュアルの重要性が周知でき、逸脱する行為が事故を招き、訴訟などの大きな問題に発展する危険性を、施設全体で理解することができます。

ヒヤリハットなど報告しやすい雰囲気

ヒヤリハットは、リスクマネジメントを行うにあたって、第一歩のリスク特定を行うために重要であることは、先述しました。

リスクマネジメントプロセスを機能させるためには、ヒヤリハットなどを報告しやすい雰囲気作りが大切です。間違っても、事故を発見した職員を責めたり、責任を追求してはいけません。

そのためには、職員の意見が発言しやすい雰囲気作り(心理的安全性のある職場作り)だけでなく、研修などを行い日頃から事故に関する意識を高めることで、リスク特定の重要さが理解できるなど、リスクマネジメントが運用しやすい環境が整います。

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リスク管理には介護業務の効率化が重要

介護現場は常に忙しく、職員は心身ともに疲弊しています。そうした中でのリスクマネジメントプロセスの運用は、非常に難しいことは想像できます。そのため、業務にかかる負担を軽減することを、同時にすすめていく必要があります。

介護現場の業務を見てみると、二度手間な業務が多く、無駄な業務の温床となっています。無駄な業務を解消する具体例としては、業務改善につながるシステムの導入や、ICT機器の活用が考えられます。

介護業務向けのツールは、必要な記録や書類を電子化するだけでなく、機器からインプットされた情報を、自動で書類に反映できるなど無駄な業務の削減が期待できます。

それだけでなく、情報を一元管理することで、情報の共有も容易に出来るようになり、ケアの質の向上にも繋がります。

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まとめ

リスクマネジメントは、適切に実施することで利用者だけでなく、職員と施設を守るための重要なシステムです。リスクマネジメントプロセスを運用して行くためには、繰り返し見直しをしていかなければなりません。

しかし職員も管理者も含め、毎日の多忙な業務の中では継続していくことが困難になりがちです。そのため、同時に業務の効率化も考えなければなりません。

介護施設の業務も多岐にわたります。業務フローの見直しを行い、業務効率化を進めていくことが必要です。そのためには、ICT化なども視野に入れた職場環境の改善も必要になってくるでしょう。

リスクマネジメントを行える体制を整え、事故発生時に冷静に対応できる施設運営を目指していきましょう。

この記事の執筆者yoko

所有資格:介護福祉士 介護支援専門員

介護職として、デイケア、訪問入浴、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、訪問介護、定期巡回随時対応訪問介護、ホームホスピスで計25年勤務。

25年の経験の中で、介護主任として介護職員の指導・育成・管理業務を経験し、さらに介護部長、管理者として施設運営も経験し、地域密着型特別養護老人ホームの開設にも携わる。

現在は介護老人保健施設で、一般介護職として勤務。今後は主任ケアマネを取得するために、特別養護老人ホームで、介護支援専門員としての勤務予定。

長い現場経験を活かし、介護特化のライターとしても活動中。

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