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【令和6(2024)年度 介護報酬改定】処遇改善加算 一本化!変更点とポイントを解説

処遇改善加算一本化 変更点とポイント

高齢化が進み生産年齢人口が減少する中、介護の現場でも人材不足は大きな問題となっています。その原因の一つに賃金の低さが上げられ、介護職員の賃金改善を目的に2009年10月から2011年度にかけて実施されていた政策が介護職員処遇改善交付金です。
 
そこで賃金改善された効果を継続するために2012年度から交付金を介護報酬に移行し、処遇改善加算が創設され介護職員の賃金改善にあてられています。
 
これまで何度か改定が行われ、さらなる改善がされてきましたが、2024年6月からは現状3つに分かれている処遇改善のための加算が一本化されることになりましたので、変更点やポイントなど詳しく解説していきます。

3種類の処遇改善加算が1本化される背景

介護職員の処遇改善は、処遇改善加算の創設から累次の改定により、加算率などの充実を図ってきました。2018年には介護職員等特定処遇改善加算を創設し、2022年には介護職員等ベースアップ加算が創設されています。

ただし加算を算定するには、計画や実績を都道府県や市区町村へ提出する必要があり、書類作成や料金の計算なども複雑になっている為、現場からは3つの加算を一本化してほしい旨の要望が多くあがっていました。

また、全産業の平均と比べても介護職員の給与はまだまだ高いとは言えず、賃金増・職場環境の改善などを求める声もあがってます。

2024年度の改定により、事業者の賃金改善や申請に係る事務負担を軽減する観点や利用者にとってわかりやすい制度とし、利用者負担の理解を得やすくする観点、事業所全体として、柔軟な事業運営を可能とする観点から、処遇改善に係る加算の一本化を行うことになりました。

〈新加算〉「介護職員等処遇改善加算」の概要

「介護職員等処遇改善加算」では、これまでの制度が一本化されたことに加え、以下の通り変更となっています。

〈新加算〉「介護職員等処遇改善加算」変更点

 
・新加算はこれまでの3加算の主要な算定要件を引き継ぎ、(Ⅰ)から(Ⅳ)の区分に集約される。
 
・2024年度に2.5%、2025年度に2.0%の介護現場で働く人のベースアップへ繋がるよう加算率を引き上げる。
 
・賃金改善の配分対象は「介護職員を基本とし、特に経験・技能のある職員を重点的に配分すること」を原則としつつ、事業所内で柔軟な配分を求める。
 
・月額賃金の改善に関する要件、職場環境など要件を見直す(2025年度から適用)

今回の改定により複雑化していた仕組みが整理され、事務負担の軽減や柔軟な運用が可能となったことで、加算を取得しやすくなっています。

加算算定の対象・非対象となるサービス及び加算率

(介護職員等処遇改善加算)

サービス区分
訪問介護・夜間対応型訪問介護・定期巡回・随時対応型訪問 24.5% 22.4% 18.2% 14.5%
訪問入浴介護★ 10.0% 9.4% 7.9% 6.3%
通所介護・地域密着型通所介護 9.2% 9.0% 8.0% 6.4%
通所リハビリテーション★ 8.6% 8.3% 6.6% 5.3%
特定施設入居者生活介護★・地域密着型特定施設入居者生活介護 12.8% 12.2% 11.0% 8.8%
認知症対応型通所介護★ 18.1% 17.4% 15.0% 12.2%
小規模多機能型居宅介護★・看護小規模多機能型居宅介護 14.9% 14.6% 13.4% 10.6%
認知症対応型共同生活介護★ 18.6% 17.8% 15.5% 12.5%
介護老人福祉施設・地域密着型介護老人福祉施設・短期入所生活介護★ 14.0% 13.6% 11.3% 9.0%
介護老人保健施設・短期入所療養介護(介護老人保健施設)★ 7.5% 7.1% 5.4% 4.4%
介護医療院・短期入所療養介護(介護医療院)★短期入所療養介護(病院等)★ 5.1% 4.7% 3.6% 2.9%

★介護予防含む

加算算定非対象サービス

サービス区分
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・福祉用具貸与
・特定福祉用具販売
・居宅療養管理指導
・居宅介護支援
・介護予防支援

「介護職員等処遇改善加算」の取得要件は?

介護職員の処遇改善

令和6年度介護報酬改定における改定事項についてより

処遇改善加算の算定要件は、月額賃金改善要件・キャリアパス要件・職場環境等要件の3つの軸に分けられます。また、3つの軸からより細かく分けられ、加算区分に応じて最大8つの算定要件を満たす必要があります。

1.月額賃金改善要件Ⅰ
新加算Ⅳの1/2以上の月額賃金改善

2.月額賃金改善要件Ⅱ
旧ベースアップ等支援加算額の2/3以上の新規の月額賃金改善

3.キャリアパス要件Ⅰ
任用要件・賃金体系の整備など

4.キャリアパス要件Ⅱ
研修の実施など

5.キャリアパス要件Ⅲ
昇給の仕組みの整備など

6.キャリアパス要件Ⅳ
改善後の年額賃金要件

7.キャリアパス要件Ⅴ
介護福祉士などの配置要件

8.職場環境等要件
掲げられた処遇改善の取り組みへの実施

「介護職員等処遇改善加算」(Ⅰ)

(例えば訪問介護では加算率24.5%(現在の3加算合計22.4%よりも2.1ポイントの加算率アップ)、一か月の総請求単位数に上乗せする(以下同))。

下記の(新加算II-IV)の要件に加えて、「経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合(例えば訪問介護では介護福祉士30%以上)以上配置する」ことを求める。

「介護職員等処遇改善加算」(Ⅱ)

(同じく訪問介護では22.4%加算率(現在の3加算合計20.3%よりも2.1ポイントの加算率アップ))。

下記の(新加算III、IV)の要件に加えて、「改善後の賃金年額440万円以上であるスタッフが1人以上」「職場環境の更なる改善、見える化」を求める。

「介護職員等処遇改善加算」(Ⅲ)

(同じく訪問介護では加算率18.2%(現在の3加算合計16.1%よりも2.1ポイントの加算率アップ))。

下記の(新加算IV)の要件に加えて、「資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組みの整備」を求める。

「介護職員等処遇改善加算」(Ⅳ)

(同じく訪問介護では加算率14.5%(現在の3加算合計12.4%よりも2.1ポイントの加算率アップ))。

「新加算IVとして得た収益の2分の1(1か月の総請求単位数×6.2%)を月額賃金で配分する」「職場環境を改善する(職場環境等要件)」「賃金体系等の整備、研修の実施」などを求める。

「介護職員等処遇改善加算」を取得するにあたってのポイント

下記の具体的なポイントについてしっかり確認をしておきましょう。

一本化により事務負担が軽減

これまでの処遇改善加算は3つに分かれていて、それぞれについて申請が必要で、事務負担が大きくなっていました。実際に申請までの負担が大きく、加算を取得しない事業所もあり、処遇改善加算の算定率は94.1%で、特定処遇改善加算になると72.8%と事務負担が大きな課題となっていました。

参考:令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要

そこで「介護職員等処遇改善加算」では、1本化し複雑さを解消することで算定する事業所が増えることが期待されています。また、新加算の算定にもいくつかの書類の作成が必要ですが、要件を満たしている場合、一部簡略化することができます。

以下のポイントを確認しておきましょう。

①複数の事業所を有する事業者は、処遇改善計画等を一括で作成できる
但し、提出先項目の書き換えを行う必要があります。

②同一法人内の事業所数が10以下の事業者などにおいては、処遇改善計画等を簡易的なフォーマットで作成することができます。

③2024年3月時点で旧3加算を未算定の事業所は、新加算のⅢ及びⅣの場合に限り各種書類を基本的なフォーマットよりも簡易的なもので作成することができます。

職場環境要件の見直し「生産性向上の取組み」がポイントに

すでに算定の要件となっていた「職場環境等要件」が具体的になり、新しい要件も追加されています。

職場環境要件

 
1.入職促進に向けた取り組み
 
2.資質の向上やキャリアアップに向けた支援
 
3.両立支援・多様な働き方の推進
 
4.腰痛を含む心身の健康管理
 
5.生産性向上のための業務改善の取り組み
 
6.やりがい・働きがいの醸成

新加算では生産性向上のための業務改善の取り組みを8項目に増やしたうえで、新加算(Ⅰ)・(Ⅱ)では6区分から各2つ以上を選択し、かつ生産性向上に限り3つ以上を選択する必要があります。

新加算(Ⅲ)・(Ⅳ)では6区分から各1つ以上を選択し、生産性向上の区分に限り2つ以上選択する必要があります。

区分 項目数 処遇改善加算 特定処遇改善加算 項目数 新加算Ⅰ・Ⅱ 新加算Ⅲ・Ⅳ
入職促進に向けた取り組み 4 全体から1つ以上 6区分から各1つ以上 4 6区分から各2つ以上

生産性向上に限り
3つ以上
(選択必須項目あり

6区分から各1つ以上

生産性向上に限り2つ以上

資質の向上やキャリアアップに向けた支援 4 4
両立支援・多様な働き方の推進 4 4
腰痛を含む心身の健康管理 4 4
生産性向上のための業務改善の取り組み 4 8
やりがい・働きがいの醸成 4 4

 

特に生産性向上に関する項目がポイントになっていますので、生産性向上の下記8項目に関して確認しておきましょう。

①厚生労働省が示している「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善活動の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ、外部の研修会の活用等)を行っている

②現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している

③5S活動(業務管理の手法の1つ。整理・整頓・清掃・清潔・躾の頭文字をとったもの)等の実践による職場環境の整備を行っている

④業務手順書の作成や、記録・報告様式の工夫等による情報共有や作業負担の軽減を行っている

⑤介護ソフト(記録、情報共有、請求業務転記が不要なもの。居宅サービスにおいてはケアプラン連携標準仕様を実装しているものに限る)及び情報端末(タブレット端末、スマートフォン端末、インカム等)の導入

⑥介護ロボット(見守り支援、移乗支援、移動支援、排泄支援、入浴支援、介護業務支援等)の導入

⑦業務内容の明確化と役割分担を行った上で、間接業務(食事等の準備や片付け、清掃、ベッドメイク、ゴミ捨て等)については、いわゆる介護助手等の活用や外注等で担い、介護職員がケアに集中できる環境を整備

⑧各種委員会の共同設置、各種指針・計画の共同策定、物品の共同購入等の事務処理部門の集約、共同で行うICTインフラの整備、人事管理システムや福利厚生システム等の共通化等、協働化を通じた職場環境の改善に向けた取組の実施

①・②が必須項目となり、他1項目を選択することで生産性向上区分のクリアとなります。一方、見守り機器、インカム等の導入による加算取得があれば、それだけで生産性向上区分をクリアすることができます。

職種間の賃金配分ルール撤廃、柔軟な配分が可能に

新加算では、「職種に着目した配分ルールは設けず、自業所内で柔軟な配分を認める」とあり、配分ルールが撤廃され事業所の判断で配分を決めることができるようになります。

介護職員以外への配分も可能となっており、2024年4月・5月の旧処遇改善加算にも前倒しで適用されます。

新加算への移行時期、経過措置について

介護職員等処遇改善加算の施行時期は、一部のサービスで介護報酬改定が従来の4月施行から6月施行になることに合わせ、6月から施行されます。それまでは従来の3加算を算定することになりますが、新加算で定められた「加算収益の事業所内での柔軟配分」は、4月・5月の従来3加算の算定から適用されます。

算定要件等の整備でこれまでの加算率が算定できない、あるいは併算の合計加算率が低下してしまう場合については1年間の激変緩和措置を設け、従来の加算率を算定できるようにし、この間に要件を満たすことを求めます。

また、急激な要件変更を避けるため、職場環境要件の実施や月給改善比率の見直し(新加算Ⅳに相当する部分の1/2以上を月給配分にする)に関しても、令和6年度中に限り実施が猶予されています。

まとめ

2024年(令和6年)6月からの「介護職員等処遇改善加算」は厚生労働省的にはわかりやすさや実現性を重視したと言われていますが、実際はまだまだ作成する負担は多くある状況です。但し、こうした加算により介護職員の賃金は以前と比べ大きく改善されています。

処遇改善の目的は、賃金の改善であることが大前提ではありますが、介護業界の職場環境をより良くすることも含まれます。改善により人材の確保やサービスの維持向上が期待され、結果サービスの利用者、ご家族への大きなメリットへと繋がります。

しかし、加算で取得するという事は、利用者の負担増となる事を忘れてはいけません。

利用者等に処遇改善加算について理解が得られるように、厚労省のリーフレットを活用し、資料の配布、施設への掲示等をしながら「介護費用が高くなった」などのトラブルにならないように注意しましょう。

この記事の執筆者ペコ

保有資格:介護福祉士 介護支援専門員

これまで通所リハビリに2年、小規模多機能型居宅介護に17年勤務。その中でも小規模多機能では介護職4年、介護福祉士兼介護支援専門員を3年、管理者兼介護支援専門員を9年務め、現在は代表も兼任しています。

介護の話題を中心にライタ―活動を行っており、他には介護用の研修資料の作成なども行っています。

 

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