日本では近年、高齢化が進み要介護者が増加しています。介護離職も大きな社会問題となっており、防止するには仕事と介護の両立を可能とする支援が必要です。
今回解説する小規模多機能型居宅介護は、生活の一部だけでなく、生活全般を支援することができます。仕事と介護を両立し、在宅介護が難しくなっているケースでもその時の状況に合わせて、必要な分だけ支援を行うことが出来ます。
ただし介護施設では慢性的な人材不足に悩まされており、小規模多機能型居宅介護でもそれは同じ状況です。
介護施設では、各種別で人員基準が定められており、基準を下回ってしまうと減算となってしまうケースもあるので注意が必要です。小規模多機能型居宅介護では、幅広く支援を提供することができる為、人員基準も他の種別と比べると多少複雑になっています。
本記事では、小規模多機能型居宅介護の支援内容や人員基準、人員基準欠如減算などを解説します。
目次
小規模多機能型居宅介護とは?
小規模多機能は「通い」を中心に、「宿泊」「訪問」支援をその方の状態に合わせて組み合わせながら使うことができる介護サービスです。各支援の内容は、細かく定められてはおらず、極端な話をすれば色々な支援が受けられて、場合によっては制限なく使うことも可能です。
ただ、何でも好きなように使えるわけではなく、各自業所のケアマネージャーが暮らし全体を通して必要なことを支援計画として立てています。追加やキャンセルなどの変更や通所・宿泊・訪問支援を状態に合わせて組み合わせられ、出来る限り自宅で生活が続けられるように支援を受けることができます。
暮らしを支えるため、24時間・365日切れ目のない支援を提供しており、その人らしい暮らしを実現するために住み慣れた地域の中で、継続的な支援を提供しています。
小規模多機能型居宅介護のメリット・デメリットについて
小規模多機能型居宅介護は、必要な支援を必要なだけ提供することが出来るため、たくさんのメリットがありますが、デメリットもあります。
メリット
小規模多機能型居宅介護のメリットには、次のようなものがあります。
・「通所」「宿泊」「訪問」のサービスを臨機応変に組み合わせながら利用できる
朝の送迎時などに通所がキャンセルになった場合、午後から安否確認の為訪問することや家族の都合などで急遽宿泊することなどもでき、本人のその時の状態に応じて利用ができます。
・利用が増えても限度額を超えることが少ない
介護度によっては利用が増えた場合、限度額に気を付けなければいけませんが、小規模多機能型居宅介護の場合は月の利用料が定額な為、超える心配がありません。
・契約や連絡をする事業所が少なくてすむ
1つの事業所で複数のサービスが受けられるため、契約などを行う手間も減らすことができ、予定の変更や相談も1つの事業所に連絡することで伝えることができます。
・どのサービスも顔なじみのスタッフから支援が受けられるため、環境の変化が少ない
いつも通っている場所で、顔なじみのスタッフが支援してくれるので利用しやすい環境にあり、特に認知症の方などは環境の変化で病気が進行してしまうことを防ぐことができます。
デメリット
小規模多機能型居宅介護のデメリットとしては、次のようなものがあります。
・小規模多機能型居宅介護を利用する場合、主な介護サービスは併用できない
福祉用具貸与や購入や訪問リハビリ、訪問看護など医療系のサービスは併用することが出来ます。
・ケアマネージャーと契約している方は、小規模多機能型居宅介護のケアマネージャーに変更しなければならない
新規で利用される場合は問題ありませんが、長くお世話になっているケアマネージャーを変更しなければいけないことに抵抗を感じる方は少なくありません。
・利用料が定額なので、サービスをあまり利用しない場合は割高感がある
上記メリットをうまく活用していただいていればそんなこともありませんが、「通い」のみの利用であまり回数も必要がない場合はデイサービス等と比べて割高感があります。
小規模多機能型居宅介護の人員基準
小規模多機能型居宅介護の人員基準は、日中の場合通いの利用者3人に対し、介護職員が1人+訪問職員が1人となっています。
下記の表に小規模多機能型居宅介護の人員基準について詳しくまとめました。
代表者 | 認知症の介護従事経験若しくは、保健医療・福祉サービスの経験があり、認知症対応型サービス事業解説者研修を修了した者 |
管理者 | 3年以上認知症の介護従事経験があり、認知症対応型サービス事業管理者研修を終了した常勤・専従の者 |
看護職員 | 職員の内1人以上は看護師・准看護師であること |
介護職員 | 介護福祉士や初任者研修の資格は必ずしも必要としないが、2024年度より無資格の場合身体介助を行うことが出来なくなり、1年以内に認知症介護基礎研修の受講が必要になります。 |
ケアマネージャー | 介護支援専門員で、小規模多機能型サービス計画等計画作成担当者研修を修了した者 |
日中の人員基準
小規模多機能型居宅介護の日中の人員基準は以下です。
通いサービス | 常勤換算法で通いサービス利用者の数が3又はその端数を増すごとに1以上 | 1人以上は常勤であること |
訪問サービス | 常勤換算法で1以上 |
夜間の人員基準
小規模多機能型居宅介護の夜間の人員基準は以下です。
宿泊サービス(夜勤) | 時間帯を通じて1以上 | 宿泊利用者がいなければ配置は不要 |
訪問サービス(宿直) | 時間帯を通じて1以上 | 夜間及び深夜の時間帯における連絡体制が整っていれば必ずしも自業所内で宿直する必要はない |
人員基準の計算方法
介護職員の人員基準となる常勤換算とは、事業所に勤務する平均職員数を指します。雇用形態に関係なく、全職員の労働時間で計算し、常勤職員が何人勤務しているかに換算したものになっています。
小規模多機能型居宅介護での人員基準の確認は以下の通りとなっています。
【通いサービスの利用者数】
(前年度の通いサービスの利用者延数)÷(前年度の日数)=(通いサービスの利用者数 ※1)
※1 小数点第2位以下切上
【必要数】
(通いサービスの利用者数)÷3=(通いサービスの提供に当る者 ※2)
※2 小数点以下切上
(通いサービスの提供に当たる者)+1人=(必要数)
【常勤換算式 配置員数(月)】
(従業者の日中の勤務延時間数)÷(常勤の従業者が勤務すべき時間数 ※3)÷(当該月の日数)
※3 1日あたり
=(常勤換算後の員数)
小数点第2位以下切捨
小規模多機能型居宅介護での人員基準の確認方法は、各市区町村でもチェックシートなどを作成している場合がありますので、そちらもご参照ください。
小規模多機能型居宅介護での役割や仕事内容とは
ここでは小規模多機能型居宅介護で勤務する職員の役割や仕事内容を紹介します。
代表者
基本的には、事業運営している法人の代表格であり、理事長や代表取締役が該当します。
ただし、法人の規模等から、理事長などを代表者として扱うことに合理性を欠く場合には、地域密着型サービスの事業部門の責任者を代表者とすることができます。
管理者
管理者の役割や仕事内容としては、以下などがあります。
・適切な事業運営や介護サービスの提供のために利用者の状況を把握する
・場合によってはシフトの作成や調整
・職員の教育に関しての計画の作成、研修の実施
・利用者や職員の安全衛生管理
・行政への各種変更や更新の届出など
介護職員
■通所支援
・介護全般(食事、入浴、排泄、更衣、整容、移動・移乗支援など)
・諸活動(行事、アクテビィティ、日常生活訓練など)
・送迎支援
■訪問支援
・訪問介護(掃除、調理、買い物等の家事支援、排泄、入浴や清拭の支援等身体介護)
・安否確認
・送迎時の家事支援、身体介護など)
■宿泊支援
・介護全般(食事、排泄、更衣、整容、移動・移乗支援など)
・夜間巡回
■宿直支援
・必要時の訪問支援や事業所への応援
・宿泊者がいない場合の電話対応など
看護職員
・医療支援全般(バイタルチェック、点滴や注射、服薬管理、処置、)
・受診付き添い、処方箋受取り
・急変時の対応
介護支援専門員(ケアマネージャー)
・利用者の紹介や利用の希望があった際の相談、調整
・登録者の小規模多機能型居宅介護以外の居宅サービスを含めた居宅サービス計画の作成
・小規模多機能型居宅介護の利用に関する市区町村への届出の代行
・具体的なサービス内容を記載した小規模多機能型居宅介護計画の作成
小規模多機能型居宅介護の人員基準欠如減算について
介護施設を運営するにあたり、人員配置基準は必ず守らなければいけないルールです。人員基準を下回る人数のスタッフしか配置してなかった場合、人員基準欠如減算の処分が下されます。
人員基準欠如減算
人員基準欠如減算となる場合、以下の減算を行う必要があります。
発生した月の翌月から、解消した月まで介護報酬を100分の70に減算する
また、減算対象になったら届出をする必要があり、届出をしなかったり虚偽の人員報告をした場合、以下の処分が下る可能性がある為注意が必要です。
・介護請求の一部制限
・新規利用者の受け入れ停止
・事業所の指定取り消し
人員基準欠如減算に関する以下の記事もご覧ください。
・【教えて!】人員基準欠如減算とは?要件から対応策まで解説
減算を回避するには、人員基準欠如減算について正しく理解することが大切です。そして、対象となるサービス種別や具体的な要件、計算方法、さらには適用期間や対応策などについて解説。
まとめ
小規模多機能型居宅介護は、多様なサービスを一体的に提供できることから、そこで働く職員の動きも多様になり、様々な場面で支援を提供することが求められます。
介護業界は人材不足に悩まされており、多くの小規模多機能型居宅介護も同様です。今現在でも介護職員は足りないと言われていますが、2040年から2050年頃には更に70万人、80万人必要と言われています。
今後、介護現場で人員基準を遵守しながらサービスの質を維持していく為には、ICTの活用による業務効率化の推進が必要です。
介護・福祉現場のICT化事例に関しては、以下の記事もご覧ください。
今後、人員配置基準の見直しの可能性もあり、そうした変化にも対応できるように、今の基準をよく理解しながら減算などにならないよう注意しましょう。
この記事の執筆者 | ペコ 保有資格:介護福祉士 介護支援専門員 これまで通所リハビリに2年、小規模多機能型居宅介護に17年勤務。その中でも小規模多機能では介護職4年、介護福祉士兼介護支援専門員を3年、管理者兼介護支援専門員を9年務め、現在は代表も兼任しています。 介護の話題を中心にライタ―活動を行っており、他には介護用の研修資料の作成なども行っています。 |
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