離設とは、介護施設や事業所の入居者・ご利用者が、職員の知らない間に施設や事業所の外へ出てしまうことです。認知症による帰宅願望や見当識障害がきっかけとなることもあり、発見が遅れると転倒や交通事故、行方不明など命に関わる事態につながることがあります。
警察庁の統計によると、令和6年中に届出を受理した認知症に係る行方不明者は18,121人にのぼり、同年中に491人の死亡が確認されました。
(参照:「警察庁 令和6年における行方不明者届受理等の状況」)
「うちの施設で離設が起きたらどう対応すればよいのか…」
「どこまで対策を取れば十分なのか…」
と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、離設の意味や発生する原因から、起きたときの対応手順、予防対策、さらに2025年に厚生労働省が周知した事故予防ガイドラインの考え方まで、現場で押さえておきたいポイントをまとめました。日々の業務にぜひ役立ててみてください。
目次
離設とは

離設は、介護施設や事業所の管理下にあるご利用者が、職員が気づかないうちに施設や事業所の外へ出てしまうことを指す、介護現場で用いられる業界用語の一つです。
自治体によっては、離設・行方不明を事故報告の対象として明示しています。たとえば横浜市では、事故報告の範囲として「離設・行方不明」が明記されています。
(参照:「横浜市 介護保険事業者からの事故報告について」)
認知症のある高齢者が増えるなかで、離設は施設・事業所のリスク管理において重要なテーマとなっています。ここでは、離設の基本的な意味と、混同されやすい関連用語との違いを整理します。
離設の意味と読み方
離設は「りせつ」と読みます。介護施設や事業所の入居者・ご利用者が、職員の知らない間に無断で施設や事業所の外へ出てしまうことを意味します。「施設を離れる」ことから「離設」と呼ばれています。
自治体によっては、離設を事故報告の対象として定めています。横浜市の事故報告取扱要領では、離設・行方不明が発生し、周辺を捜索しても見つからず外部への協力を求めた場合には、所管課へ報告することが定められています。また、離設・行方不明に伴うケガや死亡事故も報告対象に含まれます。
(参照:「横浜市 介護保険事業者における事故発生時の報告取扱要領」)
ただし、事故報告の基準は自治体ごとに異なります。所属する施設・事業所が所在する自治体の要綱を確認しておきましょう。
徘徊・無断外出・行方不明との違い
離設と似た言葉に「徘徊」「無断外出」「行方不明」がありますが、それぞれ意味や視点が異なります。以下の表で整理してみましょう。
| 用語 | 意味 | 視点 |
| 離設 | 施設や事業所の管理下にあるご利用者が、職員の把握しないうちに施設・事業所の外へ出てしまうこと | 施設・介護者側の視点 |
| 徘徊 | 認知症の行動・心理症状の一つとして見られることがある歩き回りなどの行動 | ご利用者本人の行動 |
| 無断外出 | 職員や施設の許可・把握がないまま外出する行為 | ご利用者本人の行為 |
| 行方不明 | 所在が確認できなくなっている状態 | 発生後の結果・状態 |
「離設」は、職員の把握がないまま施設や事業所の外へ出た事実を表す言葉であるのに対し、「徘徊」や「無断外出」はご利用者本人の行動や行為に着目した表現です。また「行方不明」は、離設が起きたあとに所在がわからなくなった状態を指す言葉です。
現場で報告書を作成する際には、これらの用語を正確に使い分けることで、状況を関係者に伝えやすくなります。たとえば「離設が発生し、施設周辺を捜索したが発見できず行方不明となった」のように、経過に沿って表現を使い分けると記録の精度が高まるでしょう。
離設が発生する主な原因と起こりやすい場面

離設の原因は一つではなく、認知症の症状や心理的なストレス、施設内の環境など、さまざまな要因が重なって起こることがあります。特定のご利用者だけに起こるものではなく、利用者の状態や環境によっては起こり得るという前提で考えることが大切です。
原因を正しく理解することが、予防への第一歩になります。ここでは、離設につながり得る主な背景と、特に注意が必要な時間帯・場面について整理します。
認知症や帰宅願望が関係する
離設の背景として考えられるものに、認知症の中核症状があります。見当識障害によって「自分がどこにいるのか」「なぜここにいるのか」がわからなくなり、不安から施設や事業所の外へ出ようとするケースがあります。
また、記憶障害により施設に入居していること自体を忘れてしまい、自宅に帰ろうとする行動につながることもあります。
なかでも帰宅願望は、離設につながる背景の一つとして注意したい行動・心理症状です。帰宅願望の背景には、記憶障害や見当識障害といった中核症状に加え、不安や環境の変化などが関係することがあります。
「家で夕飯の支度をしなくては」「家族が待っている」など、ご本人なりの理由や目的があることが多く、その気持ちに寄り添った対応が求められます。
帰宅願望への具体的な声かけや対応方法については、以下の記事もあわせてご覧ください。
環境変化や心理的なストレス
施設への入居・入所直後は、環境の変化によって不安や戸惑いが生じやすく、離設リスクに注意したい時期です。住み慣れた自宅から環境が大きく変わることで、孤独感やストレスを感じることがあります。
集団生活に馴染めないことへの不安や、「家に帰りたい」という気持ちが強まることで、職員の見守りが届かないまま、施設や事業所の外へ出てしまうことがあります。
こうした心理的な要因は、認知症の有無にかかわらず起こり得るものです。新しい環境に慣れるまでの期間は、ご利用者の表情や言動の変化に注意を払い、こまめに声をかけるなど、安心できる関係づくりを意識してみてください。
職員の目が届きにくい時間帯・場面
離設は、職員の見守りが手薄になりやすいタイミングで注意が必要です。以下のような時間帯・場面では、特に意識しておきましょう。
・夕方の時間帯:認知症のある方では「夕暮れ症候群」により、落ち着かなくなったり、「家に帰る」と言って外へ出ようとしたりすることがあります。
・夜間帯:施設によっては職員の配置人数が日中よりも少なくなるため、見守りの目が行き届きにくくなる場合があります。
・面会時や送迎時:玄関や出入口の開閉が増え、人の出入りに紛れて施設や事業所の外へ出てしまうことがあります。
・行事やイベント時:準備や運営に職員の意識が集中し、特定のご利用者への見守りが薄くなることがあります。
こうした場面を事前に把握しておくことで、重点的に見守りを行う時間帯を共有したり、配置を工夫したりといった具体的な対策につなげられるでしょう。
離設が招くリスクと施設に求められる対応
離設が発生すると、ご利用者の命に関わる重大な事故につながることがあります。ただし、離設対策はリスクをゼロにすることを目指す取り組みではありません。起こりやすい状況を把握し、発生の可能性を下げるとともに、万が一の際に早期発見・早期対応できる体制を整えることが大切です。
2025年に厚生労働省が周知した「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」でも、防ぐことが難しい事故も含め、介護サービスの提供中には事故が起こり得ることをご本人やご家族に説明し、理解を得る重要性が示されています。
(参照:「厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1436」)
ここでは、離設に伴う具体的なリスク、認知症高齢者の行方不明に関するデータ、施設が責任を問われる可能性があるケースについて整理します。
行方不明や事故につながる具体的なリスク
離設が起きた場合、ご利用者が屋外で思わぬ危険にさらされることがあります。特に認知症の症状によって見当識障害や判断力の低下がある場合、自分の居場所や状況を把握しにくく、周囲に助けを求めることが難しくなることがあります。
具体的には、以下のようなリスクが考えられます。
・転倒や骨折:慣れない道路や段差につまずき、転倒してケガをする
・交通事故:信号や車両を認識できず、道路上で事故に巻き込まれる
・溺水:河川や用水路に転落する
・低体温症や凍死:冬季に屋外で長時間過ごすことで体温が低下する
・脱水症や熱中症:夏季に水分をとれないまま屋外にいる
発見が遅れるほどリスクは高まります。離設に気づいた段階でいかに早く対応できるかが、ご利用者の安全を守るうえで大きなポイントになるでしょう。
認知症高齢者の行方不明データ(警察庁 令和6年)
離設のリスクを考えるうえで参考になるのが、警察庁が公表している行方不明者のデータです。
令和6年中に届出を受理した認知症またはその疑いに係る行方不明者は18,121人(前年比918人減)でした。このうち、同年中に491人の死亡が確認されています。
注目したいのは、死亡が確認された方の77.8%にあたる382人が、行方不明となった場所から5km圏内で死亡確認されているという点です。また、死亡が確認された場所の内訳では、河川・河川敷が115人、用水路・側溝が79人、山林が71人で、これらが全体の54.0%を占めています。
(参照:「警察庁 令和6年における行方不明者届受理等の状況」)
このデータからは、死亡確認された方の多くが、行方不明となった場所の周辺で確認されていることがわかります。施設周辺のエリアを中心に、迅速な捜索を行うことの重要性がうかがえます。
施設が責任を問われる可能性があるケース
離設に伴う事故が発生した場合、施設が法的責任を問われることがあります。ただし、事故が発生したからといって直ちに施設の責任が認められるわけではなく、個別の事案ごとに安全配慮義務違反の有無が判断されます。
責任の有無を判断するうえで軸となるのが、「予見可能性」と「結果回避可能性」という考え方です。
予見可能性とは、離設が起こり得ることを施設側が事前に予測できたかどうかを指します。結果回避可能性とは、適切な対策を講じていれば事故を防げたかどうかを指します。
裁判例を紹介した法律事務所の解説では、ご利用者に徘徊歴や帰宅願望があることがケア記録に残されており、離設の可能性を予見できたにもかかわらず、当該ご利用者に対する具体的な動静の見守り(注視)が不足していたとして、施設側に賠償が命じられたケース(福岡地裁平成28年9月9日判決)が取り上げられています。
(参照:「グロース法律事務所 徘徊事故編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】」)
一方で、すべての離設で施設側の責任が認められるわけではありません。事前に予見することが難しかった事案では、責任が否定されることもあります。
大切なのは、日頃からご利用者の状態を把握し、記録に残し、組織として対応策を講じておくことです。万が一離設が発生した場合にも、事実関係を確認し、ご家族や関係機関に説明できるよう、記録と対応手順を整えておきましょう。
離設が発生したときの対応

離設が発生した場合、初動の速さと組織的な動きが、ご利用者の安全を守るうえで重要になります。一人の職員だけで対応しようとするのではなく、施設全体で役割を分担しながら段階的に対応を進めることが大切です。
ここでは、離設に気づいた直後の行動から、警察やご家族への連絡、地域との連携、事故報告と再発防止までの流れを順を追って整理します。
離設に気づいた直後の確認と捜索
離設の可能性に気づいたら、まず施設内および周辺をすみやかに確認します。初動が遅れるほど捜索範囲が広がり、発見が難しくなるためです。
すぐに行うべきことは、以下のとおりです。
・全職員への共有:フロアや他部署も含め、離設の発生を速やかに伝える
・施設内の死角の確認:居室、トイレ、浴室、倉庫、階段、非常口周辺など、見落としやすい場所を確認する
・出入口の確認:玄関だけでなく、窓や裏口、非常口など施設外に通じるすべての出入口を確認する
このとき注意したいのは、思い込みで捜索範囲を限定しないことです。「あの方はいつもこの場所にいるから」「外に出るはずがない」と決めつけてしまうと、発見が遅れる原因になることがあります。先入観を持たず、考えられる場所を幅広く確認しましょう。
警察・ご家族への通報・連絡
施設内の確認と並行して、屋外へ出た可能性が高い場合は早めに警察へ相談・通報しましょう。前章で紹介した警察庁のデータでも、死亡が確認された方の多くが行方不明場所の周辺で確認されていることから、早期の通報と捜索が命を守る重要な行動であることがうかがえます。
「施設の評判に影響するのでは」と通報をためらうケースもあるかもしれませんが、施設の体面よりもご利用者の命を最優先に考えることが大切です。
あわせて、ご家族(キーパーソン)への連絡も速やかに行います。連絡する際には、離設に気づいた時刻、最後にご利用者を確認した時刻・場所、現時点での捜索状況を簡潔に伝えましょう。
地域の見守りネットワークと連携して早期発見につなげる
自治体によっては、認知症の方が行方不明になった際に地域で発見・保護につなげる「見守り・SOSネットワーク」などの仕組みを整備しています。
(参照:「兵庫県 認知症高齢者等の見守り・SOSネットワークについて」)
こうしたネットワークに協力を求めることで、自治体や地域の仕組みによっては、近隣住民や地域の事業者などにも情報共有の範囲を広げられる場合があります。
早期発見につなげるためには、日頃からの準備も欠かせません。離設リスクのあるご利用者については、以下のような情報をあらかじめ整理しておくとよいでしょう。
・顔写真、全身写真
・身体的な特徴(身長、体格、歩き方など)
・よく口にする言葉や口癖
・馴染みの場所、以前住んでいた場所
・当日の服装
こうした情報を事前にまとめておくことで、警察への通報時や地域への協力依頼時にスムーズに共有できます。
自治体への事故報告と再発防止策
離設が発生した場合、自治体への事故報告が必要になることがあります。「離設とは」の章でも触れたとおり、報告の基準は自治体ごとに異なるため、施設が所在する自治体の要綱を事前に確認しておくことが大切です。
事故報告を行う際には、厚生労働省が示した事故報告様式の項目も参考にしながら記録を整理すると、報告に必要な情報を確認しやすくなります。
(参照:「厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1332」)
記録すべき主な内容は以下のとおりです。
・発生・発見時刻と最終確認時刻
・発見場所と発見時の状態
・事故発生時の施設・事業所の対応
・ご家族・警察・自治体への連絡状況
・事故の原因分析
・再発防止策
事故報告は「起きてしまったこと」を記録するだけにとどまりません。原因を分析し、再発防止策を検討して組織全体で共有することが、次の事故を防ぐための重要なステップです。
日常的なヒヤリハット記録の活用も、離設の予兆を把握するうえで役立ちます。ヒヤリハットの記録・活用方法について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
離設を防ぐための予防対策

離設を予防するには、個別の対応だけでなく、組織的・体系的な取り組みが求められます。ここでは、アセスメント、環境整備、心理的サポート、職員配置、身体拘束への配慮という5つの観点から、現場で取り組める予防対策を整理します。
個別アセスメントと情報共有
離設を予防するうえで土台となるのが、ご利用者一人ひとりの状態を把握する個別アセスメントです。
入居時・入所時のアセスメントでは、帰宅願望の有無や徘徊歴、認知症の症状や程度、生活歴などを丁寧に確認しておきましょう。こうした情報はケアプランに反映するとともに、申し送りや日々の記録を通じて職員間で共有することが大切です。
情報が特定の職員に偏っていると、担当が不在のときにリスクを見落とす可能性があります。危険予知トレーニング(KYT)などを活用し、「どのような場面で離設が起こり得るか」を職員全体で話し合っておくと、日常業務のなかでリスクへの意識を高めやすくなるでしょう。
KYTの進め方や例題を詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
環境整備とICT機器の活用
施設や事業所の物理的な環境を見直すことも、離設リスクを下げるために役立つことがあります。
たとえば、玄関や非常口に開閉を感知するセンサーを設置したり、離床センサーでご利用者の動きを把握したりすることで、離設の兆候を早い段階でとらえやすくなります。GPS機器を活用すれば、万が一施設外に出てしまった場合にも位置情報をもとに迅速な捜索につなげられます。
近年は、見守りカメラや各種センサーなど、テクノロジーを活用した見守り対策を導入する施設もあります。AI顔認証などを活用したシステムを検討するケースも見られるようになってきました。こうした機器を適切に組み合わせることで、職員の見守りを補助し、リスクの早期把握につなげることが期待できます。
なお、2024年度介護報酬改定では、生産性向上推進体制加算が新設され、見守り機器等のテクノロジー活用を含む業務改善の取り組みが評価される仕組みも設けられています。
ただし、機器に頼りすぎず、日頃の見守りや声かけと併用することが大切です。また、GPS機器やカメラを活用する場合は、ご本人・ご家族への説明と同意の取り方、個人情報やプライバシーへの配慮、運用ルールの整備もあわせて確認しましょう。
心理的サポートと役割・活動の提供
離設の背景には、ご利用者が施設での生活に不安や居心地の悪さを感じていることがあります。「ここにいたい」と感じられる居場所づくりは、離設予防の観点からも大切な取り組みです。
レクリエーションへの参加や簡単な家事活動への関わりなど、ご利用者が役割を感じられる機会を設けることで、生活に張り合いが生まれ、落ち着いて過ごせる時間が増えることがあります。
また、帰宅願望が見られる場合には、「帰りたい」という気持ちを否定せず、まずはその思いに耳を傾けることが大切です。「お気持ちはよくわかります」「少しお茶を飲みませんか」など、ご本人の不安を受けとめたうえでさりげなく気持ちを切り替えられるような声かけを心がけてみてください。
職員配置とシフト体制の見直し
「離設が発生する主な原因と起こりやすい場面」の章で触れたとおり、夕方や夜間、行事の時間帯など、見守りが手薄になりやすいタイミングには注意が必要です。
リスクの高い時間帯を把握したうえで、職員の配置を重点的に調整することが離設予防につながります。申し送りの際に「この時間帯は特に注意が必要」といった情報を共有しておくと、チーム全体で見守りの意識を高められるでしょう。
適正な配置を実現するには、シフト管理の仕組みも重要です。シフト管理システムを活用して配置のバランスを可視化することで、手薄な時間帯を事前に把握しやすくなります。
(参照:「介護業界向け シフト管理システム【シンクロシフト】」)
身体拘束にならない配慮とご家族との合意形成
離設を防ぐ目的であっても、身体拘束は原則として禁止されています。玄関や居室の施錠、行動を制限する器具の使用なども、状況によっては身体拘束に該当する場合があります。
やむを得ず身体的な制限を行う場合には、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
・切迫性:ご利用者本人や他の方の生命・身体に危険が及ぶ可能性が著しく高い
・非代替性:身体拘束以外に代わる方法がない
・一時性:身体拘束は一時的なものである
これらの3要件を満たすかどうかは、個人の判断ではなく組織として慎重に検討し、その経過と理由を必ず記録に残す必要があります。
ここで注意すべき重要な点があります。ご家族の同意があったとしても、それは身体拘束を正当化する根拠にはなりません。ご家族が身体拘束を希望された場合でも、3要件を満たさない行動制限は、緊急やむを得ない身体拘束としては認められません。
(参照:「厚生労働省 身体拘束廃止・防止の手引き」)
ご家族に対しては、離設リスクへの対策としてどのような取り組みを行っているかを丁寧に説明し、身体拘束によらない方法で安全を確保する方針について理解を得ることが大切です。
離設対策で押さえたい事故予防ガイドラインの考え方
2025年11月、厚生労働省は「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」を新たに策定し、介護保険最新情報Vol.1436として周知しました。従来の「特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン(平成24年度)」を見直し、内容をアップデートしたもので、介護保険施設サービスを主な対象としつつ、居宅系サービスや高齢者住まい等の居住系サービスの安全管理に関する内容も新たに盛り込まれた点が特徴です。
ここでは、離設対策にも活かせるガイドラインの基本的な考え方を紹介します。
介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドラインとは
このガイドラインは、介護現場における事故予防と、事故が発生した際の適切な対応を支援する目的で策定されました。
改訂の背景には、要介護度の高い高齢者や認知症のある高齢者の増加、介護テクノロジーの進歩など、介護現場を取り巻く環境の変化があります。
ガイドラインでは、リスクマネジメントを『事故防止のみを目的としたものではなく、高齢者の尊厳を支えるケアを行うために必要不可欠な取組』と位置づけています。
(参照:「厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1436」)
つまり、事故をゼロにすること自体がゴールではなく、ご利用者の尊厳を守りながら、組織全体で安全を高めていく取り組みとして捉えることが求められています。
「防げる事故」と「防ぎにくい事故」を仕分ける視点
ガイドラインのなかで特に注目したいのが、介護現場の事故を「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」に分ける考え方です。
職員のケア行為に伴う事故は対策を取り得る事故に分類される一方、ご利用者の活動に伴う事故や加齢に伴う機能低下による事故は、自宅でも施設でも起こり得るものであり、防ぐことが難しい場合がほとんどとされています。
離設対策を考える際にも、この視点は参考になります。アセスメントや情報共有、環境整備といった対策によって予見できる範囲のリスクは下げられますが、すべての離設を完全に防ぐことは現実的には難しいといえます。
大切なのは、「防げる事故」と「防ぎにくい事故」を仕分けたうえで、対策を取り得る部分に組織として集中的に取り組むことです。
なお、日本老年医学会と全国老人保健施設協会が2021年に公表した「介護施設内での転倒に関するステートメント」でも、事故を完全に防ぐことは困難であるとの考え方が示されており、こうした視点は離設対策にも通じるものがあります。
事故防止体制の整備で確認したいポイント
介護保険施設では、運営基準において事故の発生・再発を防止するための体制整備が求められています。具体的には、以下のような要素が求められます。
・事故発生防止のための指針の整備
・事故発生時の報告体制の構築
・事故防止に関する委員会の定期的な開催
・職員への研修の実施
・安全対策の担当者の配置
これらの体制が整備されていない場合、安全管理体制未実施減算の対象となり、介護保険施設では所定単位数から1日につき5単位が減算されます。
(参照:「高齢者虐待の防止/2021年4月1日 介護現場における安全性の確保、リスクマネジメント」)
安全管理体制未実施減算の詳細については、以下の記事で解説しています。
体制の整備は、減算を避けるためだけのものではありません。指針の作成、委員会での検討、研修による職員の意識向上といった一連の取り組みが、離設を含む介護事故の予防を組織的に進める基盤となります。
自施設の事故防止体制が十分かどうか、ガイドラインの内容と照らし合わせて確認してみてください。
(参照:「厚生労働省 介護現場におけるリスクマネジメントについて」)
離設に関するよくある質問
離設と徘徊はどう違いますか?
離設は、職員の把握がないまま施設や事業所の外へ出てしまった事実を指す言葉で、施設・介護者側の視点に立った表現です。一方、徘徊は認知症の行動・心理症状の一つとして見られる歩き回りなどの行動を指し、ご利用者本人の行動に着目した表現です。視点の違いを理解しておくと、報告書の作成や情報共有の場面で正確に伝えやすくなります。
離設が発生した場合、警察にはいつ通報すべきですか?
施設内を確認しても所在がわからない場合や、屋外へ出た可能性が高い場合は、早めに警察へ相談・通報しましょう。警察庁のデータでは、死亡が確認された方の多くが行方不明場所の周辺で確認されており、早期の相談・通報と迅速な捜索が、早期発見につながることがうかがえます。施設の体面を気にして通報をためらうのではなく、ご利用者の命を最優先に判断することが大切です。
玄関や居室を施錠することは身体拘束に当たりますか?
状況によっては、身体拘束に該当する場合があります。身体拘束は原則禁止であり、やむを得ず行動を制限する場合には、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす必要があります。安全確保が目的であっても、個人の判断ではなく組織として慎重に検討し、経過と理由を記録に残すことが求められます。
(参照:「厚生労働省 身体拘束廃止・防止の手引き」)
離設の事故で施設が責任を問われた裁判例はありますか?
あります。裁判例を紹介した法律事務所の解説では、ご利用者に徘徊歴や帰宅願望がケア記録に残されていたにもかかわらず、具体的な動静の見守り(注視)が不足していたとして、施設側に賠償が命じられたケースが取り上げられています。
(参照:「グロース法律事務所 徘徊事故編【介護事故の類型別対応策(裁判例を基に)】」)
ただし、すべての離設で施設の責任が認められるわけではなく、予見可能性と結果回避可能性が個別に判断されます。事前に予見することが難しかった事案では、責任が否定されることもあります。
離設が起きた場合、自治体への事故報告は必要ですか?
自治体によっては、離設・行方不明を事故報告の対象としています。たとえば横浜市では、事故報告の範囲として「離設・行方不明」が明記されており、取扱要領に基づく報告が求められます。ただし、報告の基準や様式は自治体ごとに異なるため、施設が所在する自治体の事故報告要綱を事前に確認しておきましょう。
まとめ
離設とは、介護施設や事業所のご利用者が、職員の把握がないまま施設や事業所の外へ出てしまうことです。認知症の中核症状や帰宅願望、環境変化によるストレスなど、さまざまな要因が背景にあり、利用者の状態や環境によっては起こり得るものとして備えておく必要があります。
離設が発生し、所在が確認できない場合や屋外へ出た可能性が高い場合には、施設内の確認と並行して早めに警察へ相談・通報し、ご家族や地域のネットワークとも連携しながら迅速な対応を行うことが大切です。
予防の面では、個別アセスメントと情報共有、環境整備やICT機器の活用、心理的サポート、シフト体制の見直し、身体拘束にならない配慮といった取り組みを、組織全体で進めていくことが求められます。
2025年に厚生労働省が周知した事故予防ガイドラインでも示されているとおり、介護現場の事故には「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」があります。対策を取り得る部分に集中して取り組むことで、リスクを下げることはできます。
ご利用者の尊厳と安全を両立させながら、施設・事業所として何ができるかを継続的に考えていきましょう。
介護事故防止の全体的な考え方や取り組みについては、以下の記事もあわせて参考にしてみてください。
この記事の執筆者![]() | Shift Life編集部 介護現場での実務経験を持つライターと、介護報酬・制度に精通した編集スタッフが連携し、現場で役立つ情報をお届けしています。 制度・加算に関する情報は、厚生労働省・自治体などの公的機関が発行する一次情報を優先的に参照し、掲載前にファクトチェックを実施しています。 |
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