介護現場での事故防止は、入所者や利用者を守ると同時に施設や従業員を守る大切な課題です。日々の業務の中で起こる小さなヒヤリハットが、重大な事故やリスクを未然に防ぐためのポイントとなります。
この記事では、実際に起こった介護現場のヒヤリハット事例を25例ピックアップし、それぞれの事例から学ぶべき教訓と対策を探ります。
介護職の皆さんが日々の業務で直面するリスクや課題について理解を深め、安全なケアの実践につなげる一助となることを目指しています。
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目次
- 1 介護現場のヒヤリハットとは
- 2 介護現場のヒヤリハット事例集
- 3 ヒヤリハット報告書の書き方・記入例
- 4 介護現場でヒヤリハットを放置するリスク
- 5 介護事故を防止するためにもヒヤリハット報告の有効活用を
- 6 まとめ
介護現場のヒヤリハットとは

介護現場におけるヒヤリハットとは、日常業務の中で起こる事故やトラブルなど、大きな事故に至る前の状況を指します。
例えば、入所者や利用者のいつもと異なる体調変化、転倒や転落などが起こりそうな状況、設備の不具合、コミュニケーションの不足などが考えられます。これらの小さなサインが、事故や健康リスクを未然に防ぐための重要な手掛かりとなります。
介護職員は、日常業務の中でこうしたヒヤリ・ハットに敏感に対応し、早期に適切な対策を取ることが求められます。
事故防止やヒヤリハットについて、ハインリッヒの法則というキーワードが登場します。ハインリッヒの法則は、労働安全に関する経験則で、「事故の根本原因は多くが安全でない行動や状況に起因する」という理論です。
具体的には、重大事故が1件発生する前に、軽微な事故や違反行動が30件、事故に至らなずにヒヤリとする状況が300件発生すると言われています。この法則により、事故防止や安全管理が重要で、早期の小さな事故やヒヤリハットの対応が重大事故を未然に防ぐ効果があるとされています。
介護現場のヒヤリハット事例集
この記事で紹介するヒヤリハット事例は以下のとおりです。気になるカテゴリーから確認してみてください。
| 事例番号 | カテゴリー | 場面の概要 |
| 事例1 | 転倒・転落 | トイレ内での転落 |
| 事例2 | 転倒・転落 | 椅子やベッドからの転倒 |
| 事例3 | 転倒・転落 | 車椅子からの転落 |
| 事例4 | 転倒・転落 | 浴室内の転倒 |
| 事例5 | 食事・嚥下介助 | 食事中の誤嚥 |
| 事例6 | 食事・嚥下介助 | 入れ歯を付け忘れる |
| 事例7 | 食事・嚥下介助 | 熱いお茶がこぼれ身体にかかった |
| 事例8 | 服薬 | 朝食後と夕食後の飲み間違え |
| 事例9 | 服薬 | 隣の利用者の薬を飲もうとした |
| 事例10 | 食事(食事形態) | 食事形態の制限があるが普通食を食べそうになった |
| 事例11 | 移乗介助 | ベッドから車椅子への移乗中に転落しそうになった |
| 事例12 | 移乗介助 | 移乗介助後に利用者の皮膚に内出血が生じた |
| 事例13 | 移乗介助 | ポータブルトイレへの移乗中に前のめりになった |
| 事例14 | 移乗介助 | 入浴介助のリフト使用中にスリングがずれた |
| 事例15 | 認知症 | 他の利用者の居室に入り込んだ |
| 事例16 | 認知症 | 食べ物以外のものを口に入れようとした(異食) |
| 事例17 | 認知症 | 施設外に出ようとした(離設の危険) |
| 事例18 | 認知症 | 服薬後に薬を口の中に隠していた |
| 事例19 | 夜間・就寝中 | 夜間にベッドから転落しそうになった |
| 事例20 | 夜間・就寝中 | ナースコールを使えずに床に座り込んでいた |
| 事例21 | 夜間・就寝中 | 夜間巡回時に呼吸異常に気付いた |
| 事例22 | 夜間・就寝中 | 夜間に自力でトイレに行こうとして転倒しそうになった |
| 事例23 | 皮膚ケア・環境・設備 | 褥瘡(床ずれ)の前兆サインを見落としそうになった |
| 事例24 | 皮膚ケア・環境・設備 | 屋外移動中に段差で車椅子が傾いた |
| 事例25 | 皮膚ケア・環境・設備 | 更衣介助中にファスナーで皮膚を挟んだ |
介護現場では、いつどこで事故が起こってしまっても不思議ではありません。インターネットで検索すると様々な事故の集計や調査結果を見ることができますが、居室や食堂など滞在時間が長い場所や、トイレや浴室などの普段とは異なる動作を行う場所で事故やヒヤリハットが多いことがわかります。
また、事故の統計を見て概ね毎年同じような傾向があり、転落や転倒事故、服薬に関する事故などが多いことがわかります。昨今は感染症による事故が増加していますが、コロナウイルスの拡大による影響と考えられます。
参考:青森県南部町「令和3年度介護事故・ヒヤリハットの発生状況調査の集計・分析結果」 P11

参考:福岡市「令和4年度福岡市 介護サービス事業所事故報告統計」 P2

介護現場のヒヤリハット事例【転倒・転落関連】

介護現場の事故やヒヤリハットで最も多いのが、転倒や転落による事例です。高齢者は足腰の筋力が弱まっていることや視力の低下、認知症状などにより思わぬ転倒や転落が起こります。
実際にどのような事例で、事故やヒヤリハットが起こっているのかを見てみましょう。
事例1【トイレ内での転落】
・内容
排泄介助中に尿取りパッドを取り行こうとして側を離れたところ、利用者が立ち上がろうとして便座から転落しそうになりました。
・原因
トイレ内の床が濡れて滑りやすくなっていたため、利用者がバランスを崩して転倒した。また、手すりの設置が不十分であった。
・対策
定期的に床の乾燥状態を確認し、滑り止めマットを設置する。また、トイレ内に手すりを増設し、利用者が安全に利用できるように環境を整える。
尿取りパッドを予め用意するなど、目を離さないで介助できるようにする。
事例2【椅子やベッドからの転倒】
・内容
利用者が椅子から立ち上がろうとした際にバランスを崩し、床に転落しました。腰部に軽い打撲を負いましたが、幸いにも重大な怪我には至りませんでした。
・原因
椅子やベッドの高さが利用者に適していなかったため、立ち上がる際に不安定になった。また、介助が不十分であった。
・対策
利用者ごとに適切な高さの椅子やベッドを選定し、立ち上がる際は介助を徹底する。また、転落防止のためのベッドレールや椅子の肘掛けを活用する。
事例3【車椅子からの転落】
車椅子からの転倒は介護施設の中でも最も多い事故のひとつと言えます。
・内容
ブレーキを掛けずに立ち上がりそのまま転落してしまった。
・原因
高齢者の力では、ブレーキを掛けづらい車椅子がある
麻痺のある利用者の場合、患側のブレーキを掛けにくく、しっかりとブレーキがかからない場合がある
認知症等によりブレーキを掛けることを忘れてしまい立ち上がってしまう
・対策
利用者の体格やADLに合わせた車椅子の選択
転倒防止バーの設置や自動ブレーキ機能の車椅子の選択
車椅子利用時の見守りや普通の椅子に腰を掛けてもらうなどの対応
事例4【浴室内の転倒】
・内容
介護施設の利用者が浴槽に入ろうとした際に足を滑らせて転倒し、膝を強打しました。幸い、骨折などの重傷は避けられましたが、痛みと腫れが生じました。
・原因
浴槽の縁が高く、また浴室の床が濡れて滑りやすくなっていたため、バランスを崩した。補助具の使用が不十分であった。
・対策
浴槽の縁に滑り止めを設置し、浴室の床に滑り止めマットを敷く。また、利用者が浴槽に入る際には必ず補助具や手すりを使用するように指導する。入浴中は服を掴んで支えることができないため、特に注意が必要となる。
介護現場のヒヤリハット事例【食事・嚥下介助関連】

介護施設において、利用者の食事は日々のケアの中で非常に重要な役割を担っています。食事中の誤嚥や嚥下障害に関連する事故は、命に関わる事故にも繋がります。
これらの事故を未然に防ぐためには、利用者一人ひとりの嚥下機能を的確に評価し、適切な食事形態や介助方法を提供することが不可欠です。
事例5【食事中の誤嚥】
・内容
介護施設の利用者が食事中に誤って食べ物を飲み込み、咳き込みました。すぐに対応したため、大事には至りませんでしたが、窒息の危険がありました。
・原因
食事の形態が利用者の嚥下能力に適していなかったため、誤嚥が発生した。また、食事中の見守りが不十分であった。
・対策
利用者の嚥下機能を定期的に評価し、それに応じた食事形態を提供する。また、食事中は必ず介護スタッフが見守り、適切な食べ方を確認する。体調が悪い時など、いつもと様子が異なる場合は特に注意して見守りを行う。
事例6【入れ歯を付け忘れる】
・内容
利用者が入れ歯を付け忘れたまま食事を開始し、食べ物をしっかりと噛むことが出来ずに誤嚥の危険が生じました。幸い、スタッフが早期に気付き大事には至りませんでした。
・原因
介助スタッフが入れ歯の装着を確認せずに食事を提供したため、利用者がそのまま食事を摂ってしまった。
・対策
食事前に入れ歯の装着を確認するチェックリストを作成し、介助スタッフ全員に周知徹底する。また、利用者にも食事前に入れ歯を確認するよう促す。
以前、介護老人保健施設で働いていた際に、「入れ歯の紛失」という事例を何度も見てきました。ご利用者様が食べ残しの汁物椀に入れ歯を入れてしまったり、ティッシュペーパーに包んで居室内のゴミ箱に破棄してしまったり、その度に職員と一緒にゴミ庫を探したり…ということもありました。入れ歯は高価なものなので、破損や紛失にも十分気をつける必要があります。
事例7【熱いお茶がこぼれ、身体にかかってしまった】
・内容
利用者が熱いお茶を誤ってこぼし、腕にかかって軽い火傷を負いました。応急処置を行い、大事には至りませんでした。
・原因
利用者が安定した姿勢でお茶を飲んでいなかったため、手元がくるってこぼしてしまった。また、お茶を入れすぎたことでカップが重く、うまく持つことができなかった。
・対策
利用者が安定した姿勢で飲み物を摂取できるよう、サポートする。また、取っ手付きの安定したカップを使用し、温度を適切に調整する。高齢者は握力が弱まっている場合があるため、飲み物の量を調整し入れすぎないようにする。
介護現場のヒヤリハット事例【服薬関連】

介護施設における服薬管理は、利用者の健康維持と医療の一環として非常に重要な役割を果たしています。しかし、高齢者は複数の種類の薬を飲んでいたり、服用時間が人によってことなったり、誤薬や服薬忘れなどのヒヤリハット事例が発生するリスクも高まります。
これらの事例は、利用者の体調を悪化させるだけでなく、命に関わる重大な問題となり得ます。
事例8【朝食後と夕食後の飲み間違え】
・内容
利用者が朝食後に飲む薬と夕食後に飲む薬を誤って服用しました。幸い、大きな副作用はなく、体調にも影響はありませんでした。
・原因
薬の管理が不十分で、朝食後と夕食後の薬が混在していたため、利用者が誤って服用した。
・対策
服薬カレンダーを導入し、薬の時間帯ごとに分けて管理する。また、スタッフが二重確認を行い、利用者に適切な服薬を徹底する。
薬を一包化することで、服薬が誤らないように徹底する。
事例9【利用者が隣の利用者の薬を飲もうとした】
・内容
介護施設の利用者が間違えて隣の利用者の薬を取り、飲もうとしました。スタッフが間一髪で防ぎ、被害はありませんでした。
・原因
利用者同士の薬の位置が近く、混同しやすかったこと。利用者が口に入れるまで見守らなかったこと。
・対策
各利用者ごとに明確な薬の収納場所を設け、間違いを防止する。薬の管理と配布は厳格に行い、スタッフが定期的に確認を行う体制を整える。しっかりと服薬が出来たか、口に入るまで見て、飲み込んだことを確認してから別の利用者の対応を行う。
介護現場のヒヤリハット事例【食事関連】
食事関連のヒヤリハットは、食事形態や食べ物の適温管理、アレルギーや禁食など様々な事例で起こります。食事関連の事故やヒヤリハットは、利用者の安全を脅かす可能性があるため、スタッフの正確な見守りと適切な対応が求められます。
事例10【食事形態の制限があるが普通食を食べそうになった】
・内容
利用者が食事形態の制限(例:嚥下障害での流動食)を忘れ、普通食を食べようとしました。幸いスタッフが気付くことが出来たので、大事には至らずにすみました。
・原因
食事制限の理解不足や、利用者自身の意識の低下が原因となった。また、厨房との連携が不足して厨房に情報が伝わっていなかった。
・対策
配膳時に食事形態が正しいかを毎回チェックする。適切なタイミングで厨房に食事箋を提出し、食事形態を書いたプレートを用意するなど、見た目でわかるような工夫を行う。
介護現場のヒヤリハット事例【移乗介助関連】
移乗介助とは、ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへといった、利用者の体を別の場所へ移す介助のことです。
介護現場でのヒヤリハットや事故は、この移乗介助の場面でも多く発生しています。
利用者の体格や身体機能の状態を把握し、正しい手順で行うことが大切です。
事例11【ベッドから車椅子への移乗中に転落しそうになった】
・内容
ベッドから車椅子への移乗介助中に、利用者がバランスを崩して転落しそうになりました。
スタッフが素早く支えたため転落には至りませんでしたが、一歩間違えば床への転落につながる状況でした。
・原因
車椅子のブレーキをかけ忘れたまま移乗を開始したため、車椅子が動いて不安定になった。
また、ベッドの高さが車椅子の座面と合っておらず、移乗時の段差が大きくなっていた。
・対策
移乗前に車椅子のブレーキがかかっているか、フットレストが上がっているかを必ず確認するルーティンを徹底する。
ベッドの高さを車椅子の座面に合わせてから介助を始める。
2人介助が必要な利用者については、必ず複数のスタッフで対応する体制を整える。
事例12【移乗介助後に利用者の皮膚に内出血が生じた】
・内容
移乗介助後に利用者の腕に内出血(皮下出血)が見つかりました。
移乗の際に腕を強く掴んでしまったことが原因と考えられましたが、利用者本人は痛みを訴えなかったため、発見が遅れました。
・原因
高齢者は皮膚が薄く、少しの摩擦や圧迫でも皮下出血が起きやすい状態にある。
スタッフが皮膚の状態を意識せず、通常の握り方で介助を行った。
・対策
移乗介助の際は腕を強く握らず、手のひら全体で支えるようにする。
移乗の前後に利用者の皮膚状態を確認する習慣をつける。
特に皮膚が弱い利用者については、ケアプランに皮膚保護の対応を明記し、スタッフ間で情報を共有する。
事例13【ポータブルトイレへの移乗中に前のめりになった】
・内容
ベッドサイドのポータブルトイレへ移乗しようとした際に、利用者が前のめりになりそのまま転落しそうになりました。
スタッフがとっさに体を支え、転落は防げました。
・原因
ポータブルトイレの位置がベッドから離れすぎており、移乗の距離が長くなっていた。
また、移乗を始める前に利用者の足底が床にしっかりついているかを確認していなかった。
・対策
移乗前に利用者の足底が床にしっかり接地しているかを確認する。
ポータブルトイレはベッドのすぐ横に配置し、移乗距離を最小限にする。
移乗時は利用者の重心の動きを注意深く観察しながら介助する。
事例14【移乗用リフト使用中にスリングがずれた】
・内容
重度の身体障害がある利用者のベッドから車椅子への移乗に移乗用リフトを使用した際、スリング(吊り具)の装着位置がずれており、吊り上げた後に利用者の体が不安定な状態になりました。
スタッフが気付いてすぐにベッドへ戻したため事故には至りませんでしたが、落下の危険がありました。
・原因
スリングの装着確認が1人のスタッフのみで行われ、ダブルチェックがされていなかった。
リフト操作の研修が定期的に行われておらず、スタッフによって習熟度に差があった。
・対策
リフト使用前のスリング装着確認は必ず2名以上で行い、ダブルチェックを徹底する。
リフト操作の手順をマニュアル化し、定期的な研修で技術を確認する。
介護現場のヒヤリハット事例【認知症関連】
認知症のある利用者は、記憶障害や見当識障害、判断力の低下などにより、一般的な注意では予測しにくいヒヤリハットが起こりやすいという特徴があります。
認知症の症状や行動特性を理解したうえで、環境の整備や見守り体制の強化が求められます。
事例15【他の利用者の居室に入り込んだ】
・内容
認知症のある利用者が夕方の時間帯に他の利用者の居室に入り込み、居室の利用者とトラブルになりそうな状況が発生しました。
スタッフが気づいて対応しましたが、もう少し遅ければ利用者同士の転倒や衝突につながっていたかもしれません。
・原因
認知症による見当識障害で、自室の場所がわからなくなった。
夕方(夕暮れ症候群が出やすい時間帯)はスタッフが夕食準備などで手が離れやすく、見守りが手薄になっていた。
・対策
各利用者の居室ドアに本人の写真や馴染みのある目印をつけ、自室を認識しやすくする工夫を行う。
夕方の時間帯は見守りスタッフを増やすなど、帰宅願望が出やすい時間帯の体制を強化する。
事例16【食べ物以外のものを口に入れようとした(異食)】
・内容
食事中に認知症のある利用者がティッシュペーパーを食べ物と間違えて口に入れようとしました。
スタッフが気づいてすぐに止めたため、誤飲には至りませんでした。
・原因
認知症の症状により、食べられないものを食べ物と誤認する「異食行動」が起きやすい状態だった。
食事のトレイやテーブル上にティッシュなど、誤食のリスクになるものが置かれたままになっていた。
・対策
食事中はテーブルまわりから食べ物以外のものを事前に片付けておく。
認知症がある利用者の食事は、スタッフが必ず側で見守るようにする。
異食リスクのある利用者の情報はスタッフ全員で共有し、居室内の小物管理にも気を配る。
事例17【施設外に出ようとした(離設の危険)】
・内容
認知症のある利用者が「家に帰る」と言いながら玄関から施設外に出ようとしました。
スタッフが声をかけて引き留めましたが、一時的に施設の外に出てしまっていました。
・原因
帰宅願望が強く出やすい夕方の時間帯に見守りが手薄になっていた。
玄関の施錠や離設防止の仕組みが十分でなかった。
・対策
帰宅願望が出やすい夕方の時間帯のスタッフ配置を見直す。
玄関などの出入口に離設防止センサーや施錠システムを導入し、外に出ようとした際に即座に気づける環境を整える。
離設リスクの高い利用者には、GPS端末の装着も選択肢として検討する。
事例18【服薬後に薬を口の中に隠していた】
・内容
認知症のある利用者が服薬したように見えたにもかかわらず、実際には薬を口の中に隠していたことが後から発覚しました。
隠していた薬をまとめて飲もうとしていたため、過剰摂取の危険がありました。
・原因
服薬後に口の中を確認する手順が徹底されていなかった。
認知症の症状により服薬の意味が理解できず、薬を飲みたくないという気持ちがあったと考えられた。
・対策
服薬後は「お口を開けてください」と声をかけ、薬が残っていないかを必ず確認する。
飲み込みにくい場合は薬の粉砕やゼリーへの混入など、服薬方法を主治医・薬剤師と相談して変更することを検討する。
介護現場のヒヤリハット事例【夜間・就寝中関連】
夜間はスタッフの人数が少なく、1人で多くの利用者を担当しながら対応しなければならないという環境です。
また、就寝中は利用者の状態変化に気づくのが遅れやすく、重大事故につながりやすい時間帯でもあります。
夜間特有のヒヤリハット事例を把握し、対策を整えておくことが大切です。
事例19【夜間にベッドから転落しそうになった】
・内容
夜間巡回の際に、利用者がベッドの端ギリギリの位置で眠っている状態が発見されました。
あと少し動いていれば転落していた状況で、スタッフが体の位置を安全な場所へ修正しました。
・原因
就寝中に寝返りを繰り返すうちにベッドの端に寄ってしまった。
ベッドサイドレールの設置位置が不十分で、転落を防ぐ機能が果たされていなかった。
・対策
就寝前にベッドサイドレールが正しく設置されているかを確認する。
転落リスクの高い利用者にはベッドセンサーや離床センサーを設置し、動きがあった際に即座に対応できる体制を整える。
ベッドの高さをできる限り低くして、万が一転落した際の衝撃を最小限にする。
事例20【ナースコールを使えずに床に座り込んでいた】
・内容
夜間巡回時に、利用者がベッドから自力で降りようとして床に座り込んでいる状態で発見されました。
ナースコールが手の届かない場所に落ちており、長時間そのままの状態でいた可能性がありました。
・原因
ナースコールのコードが短く、就寝中の動きでコードが引っ張られナースコールが床に落ちてしまった。
夜間の巡回間隔が長く、発見が遅れた。
・対策
就寝前にナースコールが手の届く位置(枕もとや柵)に固定されているかを確認する習慣をつける。
センサーマットや離床センサーを導入し、夜間の体動や離床をすぐに察知できる体制を整える。
事例21【夜間巡回時に呼吸異常に気付いた】
・内容
夜間巡回中に利用者の呼吸音が普段と異なり、「ゴロゴロ」という喘鳴(ぜんめい)が確認されました。
すぐに看護師に連絡して対応したところ、誤嚥性肺炎の前兆であることが判明し、早期対処につながりました。
・原因
就寝中の体位が仰向けのままで、胃内容物が逆流して誤嚥が起きやすい状態になっていた。
・対策
誤嚥リスクの高い利用者は就寝時の体位に注意し、上体を少し起こした姿勢(ファウラー位)を保つようにする。
夜間巡回時のチェック項目に呼吸の状態・呼吸音を含め、普段と異なる場合はすぐに看護師へ報告するフローを徹底する。
事例22【夜間に自力でトイレに行こうとして転倒しそうになった】
・内容
夜間にトイレに行きたくなった利用者が、スタッフを呼ばずに自力で廊下を歩き始めたところ、足元がふらついて転倒しそうになりました。
たまたま近くにいたスタッフが気づいて支えたため、転倒は防ぐことができました。
・原因
利用者がスタッフを呼ぶことを「迷惑をかけてしまう」と遠慮していた。
夜間の廊下が薄暗く、足元が見えにくい状態だった。
・対策
「夜間のトイレは必ずスタッフに声をかけてほしい」ということを日頃から利用者に丁寧に伝え、遠慮なく呼べる雰囲気をつくる。
廊下の足元灯を確認し、夜間でも安全に移動できる明るさを確保する。
夜間の頻尿が多い利用者には、居室にポータブルトイレを設置することも検討する。
介護現場のヒヤリハット事例【皮膚ケア・環境・設備関連】
皮膚トラブルや施設の環境・設備に起因するヒヤリハットも、介護現場では決して少なくありません。
日常的に繰り返す介助の中で、見落とされやすいリスクが潜んでいます。
小さなサインを見逃さないよう、日々の観察と確認の習慣が重要です。
事例23【褥瘡(床ずれ)の前兆サインを見落としそうになった】
・内容
定期的な体位変換を行っていた利用者の仙骨部(お尻の骨が出っ張った部分)に、わずかな発赤(皮膚の赤み)が確認されました。
申し送りを引き継いだスタッフが気づいて報告し、早期に対処することができました。
利用者本人は痛みを訴えていなかったため、申し送りがなければ見落とされていた可能性がありました。
・原因
同じ体勢を長時間続けたことによる圧迫が原因。
高齢者は皮膚の血行が悪くなりやすく、褥瘡が進行しても痛みを感じにくい場合がある。
・対策
入浴・清拭の際に全身の皮膚状態を確認し、発赤など褥瘡の前兆を早期に把握する。
褥瘡リスクの高い利用者は体位変換の頻度を増やし、エアマットの導入も検討する。
皮膚の状態をケア記録に残し、変化があればすぐに看護師・医師へ報告するフローを整える。
事例24【屋外移動中に段差で車椅子が傾いた】
・内容
外出支援の際に歩道の段差を乗り越えようとしたところ、車椅子が大きく傾き利用者が転落しそうになりました。
スタッフが支えて転落は防げましたが、利用者は非常に怖い思いをしました。
・原因
スタッフが段差の高さを事前に確認せずに進んでしまった。
車椅子の前輪を持ち上げるティッピングレバーの操作が習熟されておらず、操作が遅れた。
・対策
屋外移動の前にルート上の段差の場所と高さを確認する。
段差を乗り越える際の車椅子操作(ティッピングレバーの使い方)を定期的な研修で確認し、習熟度を統一する。
必要に応じて2名で介助する体制を整える。
事例25【更衣介助中にファスナーで皮膚を挟んだ】
・内容
更衣介助の際に衣類のファスナーが利用者の腹部の皮膚を挟んでしまい、小さな傷ができました。
利用者は声を上げなかったため、次の介助者が発見するまで気づかれませんでした。
・原因
介助スタッフが衣類にファスナーが付いていることを確認せず、素早く着替えさせようとした。
高齢者は皮膚が薄く、わずかな摩擦でも傷つきやすいことへの意識が不十分だった。
・対策
更衣介助前に衣類にファスナーや金属パーツがないかを確認する。
介助は焦らず丁寧に行う。
ファスナーのある衣類は避け、マジックテープや紐タイプの衣類を選ぶよう家族へ協力を依頼することも有効。
ヒヤリハット報告書の書き方・記入例
ヒヤリハット事例を施設全体の安全対策に活かすためには、報告書に正確かつ具体的な情報を記録し、スタッフ間で共有することが欠かせません。
ここでは、報告書に書くべき項目と記入のポイントを解説します。
報告書に書くべき6つの項目(5W1H)
ヒヤリハット報告書には、以下の5W1Hを意識して記載することが基本です。
| 項目 | 記載内容 | 記入のポイント |
| いつ(When) | 発生した日時 | 日付・時間帯(例:食事介助中、夜間巡回時)まで具体的に記載する |
| どこで(Where) | 発生した場所 | 居室番号・フロア・トイレ・浴室など場所を特定して記載する |
| 誰が(Who) | 関係者(利用者・スタッフ) | 利用者の状態(認知症の有無・ADLなど)も補足すると対策を考えやすい |
| 何を(What) | 起きた出来事・状況 | 起きた事実を客観的に書く。感情的な表現は避ける |
| なぜ(Why) | 発生した原因・背景 | 個人の「不注意」で終わらせず、環境・手順・体制など構造的な原因を探る |
| どのように(How) | その後の対応・対策 | その場の対応だけでなく、再発防止のための対策まで記載する |
報告書の記入例
以下は転倒・転落のヒヤリハット事例を報告書に記載した場合の例文です。
発生日時:○○年○月○日(月) 14時30分ごろ
発生場所:2階 トイレ(102号室隣)
関係者:利用者 ○○様(80代・女性)/担当スタッフ ○○
内容(何が起きたか):
排泄介助中に尿取りパッドを取りにその場を離れたところ、利用者が立ち上がろうとして便座から転落しそうになった。
すぐに駆け寄り体を支えたため転落には至らなかった。利用者の体調に変化はなし。
原因(なぜ起きたか):
介助中に目を離してしまった。尿取りパッドを事前にトイレへ持参しておらず、その場を離れる必要があった。
また、トイレ内の手すりの位置が利用者の立ち上がりに合っていなかった。
対応・再発防止策:
今後は排泄介助前に必要な物品をすべてトイレに持参し、利用者のそばを離れないようにする。
手すりの設置位置については施設長へ報告し、環境改善を検討する。
報告書を書くうえで大切なこと
ヒヤリハット報告書を書くうえで、特に意識してほしいポイントが2つあります。
1つ目は、「個人の責任追及にならないよう書く」ことです。
報告書は誰かを責めるためのものではなく、施設全体の安全を高めるための情報として活用するものです。
事実を客観的に記録し、原因を「環境・手順・体制」の視点から探ることが重要です。
2つ目は、「書いて終わりにしない」ことです。
報告書を提出したあと、情報が上司の手元にとどまったままでは再発防止につながりません。
回覧・掲示・介護システムでの共有など、スタッフ全員が内容を確認できる仕組みをつくることが大切です。
・【介護】ヒヤリハット報告書の書き方を事例・例文でわかりやすく解説!
ヒヤリハットの重要性と報告書の書き方を事例で解説。例文も紹介します。重大事故を未然に防ぐためにもヒヤリハット報告はとても大切です。
介護現場でヒヤリハットを放置するリスク
介護現場でヒヤリハットを放置することは、更に大きな事故に繋がる可能性があります。例えば、利用者が転倒して重篤な怪我を負う、誤嚥によって窒息の危険が生じる、または薬の誤服用が健康に悪影響を与えるなどの事態が起こり得ます。
これらのヒヤリハットが放置されると、利用者の安全や健康に直接影響を及ぼすだけでなく、施設の信頼性や運営の質にも大きな影響を与えかねません。
介護事故を防止するためにもヒヤリハット報告の有効活用を
介護事故を防止するためには、ヒヤリハット報告の有効活用が不可欠です。ヒヤリハット報告は、日常の業務遂行中に気付かれたリスクや問題点を記録し、共有することで、将来の事故やトラブルを予防する役割を果たします。
これにより、スタッフ間での情報共有が促進され、安全対策が効果的に実施されると同時に、組織全体の意識向上にもつながります。
ヒヤリハット報告は、安全な介護環境を維持するための重要なツールであり、積極的に活用されることが重要です。施設によってどの基準がヒヤリハットで、どの基準が事故報告になるのか異なることもあります。
大切なのは、ヒヤリハットや事故報告は職員のミスとして片付けることなく、大切な情報として取り扱うことです。そして、ヒヤリハットを出すことを面倒なことと思わず、しっかりと提出してもらうことも大切です。
特に、ヒヤリハットを書いて上司に提出して終わりにしてしまっては、各スタッフに共有されませんので、常に目を通せるように回覧したり綴って誰でも読めるようにしたり、介護システムで共有してみんながみられるようにするなどの工夫も必要です。
自分たちの身を守るための記録の重要性
最近では、介護施設での事故により施設が訴訟に巻き込まれるケースが増加しています。現実的には限られた人員の中で最善を尽くしても、事故を完全にゼロにすることは現実的に難しいと言わざるを得ません。
しかし、家族からすれば、介護のプロに任せているのに事故が起こることに納得がいかない面もあるでしょう。特に最近では、感染症の拡大により面会が制限されている施設があり、家族は利用者の具体的な状態を把握しづらくなっています。
遠方に住む家族などは、まれにしか面会に来ないため、利用者の健康状態の変化に気付きにくいこともあります。その結果、以前の元気な姿をイメージしてしまうこともありますが、そうした状況で事故が発生し、施設が家族から訴えられるケースも起こり得ます。
そのような場合、施設や職員自身を守るためにも、適切な記録が重要です。日々の業務でヒヤリハットが発生している利用者は、事故の危険性も含んでいます。その際に、普段の記録があれば、客観的な事実として家族にも伝えることができます。
私自身も以前、勤務していた介護老人保健施設に入所中の高齢者が転倒して骨折し、家族から訴えられた経験があります。普段から頻繁に面会に来ていた家族は、利用者の健康状態を理解しており、事故について訴えることはありませんでしたが、遠方の親戚からは慰謝料を求める連絡がありました。
その際には、すべての介護記録を証拠として提出しました。ヒヤリハットや介護記録は、自己防衛のためにも、しっかりと残すべきであると強く感じました。
まとめ
ヒヤリハットは、日常の業務で発生する潜在的な危険や問題点を早期に把握し、それに基づいて安全対策を実施するための重要な手段です。これにより、利用者の安全を確保すると同時に、施設の信頼性と介護の質を向上させることが可能です。
積極的にヒヤリハットを報告・分析し、その結果をもとに教育や改善を行うことが、介護事故の未然防止につながると言えます。また、積極的にヒヤリハットを提出させるためには、管理者の意識も重要になります。
ヒヤリハット事例を施設内、職員間でしっかりと共有し対策を行うことによって、よりよい施設運営に繋がっていくことが一番の理想ではないでしょうか。そうした施設の文化を作っていくことも、管理者の大切な役割といえるでしょう。
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| この記事の執筆者 | 伊藤 所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士 20年以上、介護・医療系の事務に従事。 デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。 現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。 |
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