みなさまの勤務されている介護施設では、ご利用者に安全に過ごしていただくためどのような取り組みを行われているでしょうか。
介護施設では、要介護状態のご利用者が入所されるため、転倒・転落や誤嚥などの事故の可能性があり、認知症状のあるご利用者では、誤飲・誤食などの様々な事故が起こる可能性を考慮する必要があります。
そのため、介護施設ではこれらの事故を未然に防ぐために、事故が起こり得る要因を予測し対策を考えることが求められます。また、万が一事故が起こった際には、事故が起こった要因を分析し、事故の再発を防ぐために再発防止策を検討する必要があります。
ご利用者に安心で安全に過ごしていただくために令和3年度介護報酬改定にて「安全対策体制加算」が新設されています。また、安全対策が不十分である場合には、「安全管理体制未実施減算」が適用されます。
本来であれば安全体制は加算・減算に関わりなく整えるべきといえますが、安全対策体制加算を算定して施設運営に役立てていきましょう。本記事は「安全対策体制加算」に関して解説をしますので参考にしてみてください。
目次
安全対策体制加算とは
「安全対策体制加算」とは、介護保険施設において事故の発生の予防と、万が一事故が発生した際に適切な対応を行うこと、いわゆるリスクマネジメントを推進する観点から、令和3年度介護報酬改定にて新設された加算です。
また同時に、事故が発生した際の予防対策などの措置が講じられていない場合には、「安全管理体制未実施減算」として、基本報酬を減算されることとなりました。安全管理体制未実施減算については、記事の後半でもう少し詳しく解説します。
安全対策体制加算の背景と目的
安全対策体制加算が新設された背景には、介護施設における事故のリスクが高いことが挙げられます。要介護状態となられた高齢者は、身体機能面の低下によって、転倒・転落や嚥下機能の低下による誤嚥、また認知機能の低下による誤飲・誤食などのリスクが高まっていることが考えられます。

出典:介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) の報酬・基準について(検討の方向性) P.40
上図の平成30年度の介護報酬改定検証・研究調査において、介護施設において「事故発生の防止のための指針」や「指針に基づくマニュアル」の作成状況はいずれも90%を超えているものの、定期的な見直しを行っている施設は全体の21%となり、見直していないと回答した施設は21.3%となっています。
国内人口の高齢化が進んでいる状況や、介護人材の減少、介護ロボットやICTの普及など、介護施設を取り巻く環境が大きく変わってきています。それに合わせ、介護施設においても事故発生の防止のための指針やそれに基づくマニュアルが更新されることは重要だといえるでしょう。
介護施設の設備・環境など状況の変化に合わせたマニュアルや指針などが整備されていないと、いざという時に対応が難しくなってしまいます。
社会情勢の変化に合わせて変化していく介護施設や業務の中で、事故を未然に防ぐことや、万が一事故が起こったとしても対策を講じ再発を予防することを評価し、施設が安全対策に注力することが求められます。
安全対策体制加算を取得することで、入居者へ介護サービスを受けながら、安心・安楽な生活を過ごせるよう、組織全体で環境や仕組みを整備することが目的となっています。
施設の安全体制能力を強化するためには、介護現場のヒヤリハット事例を学んだり、事例を元にしてヒヤリハットや事故発生の原因傾向を分析したり、危険予知トレーニングなどを行うことも効果的でしょう。以下の関連記事も参考にしてみてください。
安全対策担当者の配置が義務化
令和3年度介護報酬改定において、介護施設のリスクマネジメントの強化を目的に、運営基準における、事故の発生又は再発を防止するために講じなければならない措置として、
・事故発生防止のための指針の整備
・事故が発生した場合等における報告と、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制の整備
・事故発生防止のための委員会及び従業者に対する研修の定期的な実施
に加え、上記の措置を適切に実施するための担当者の設置が義務化されました。既に専任の安全対策担当者がいる場合には、新たに選任する必要はありません。担当者がいない場合には、1名選んで配置する必要があります。
安全対策担当者は上記のような内容を担当することになるため、経験や知識を持つ中堅以上の介護職員が適任といえるでしょう。
安全対策体制加算の対象サービス
安全対策体制加算の対象サービスは以下の通りです。
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
・介護老人保健施設
・介護療養型医療施設
・介護医療院
安全対策体制加算の算定要件
安全対策体制加算の算定要件としては、
・事故発生の防止のための指針の作成
・安全管理委員会などの設置・開催
・従業者に対する研修の実施及びこれらを適切に実施するための担当者の配置
を備えた体制に加えて、
・担当者が安全対策に係る外部の研修を受講し、組織的に安全対策を実施する体制
を備えている場合に算定が可能です。安全対策担当者を中心として、組織として事故防止に取り組むことが求められている算定要件といえるでしょう。
安全対策体制加算の単位数
安全対策体制加算の単位数は以下の通りです。
安全対策体制加算 :20単位
※入所時に1回に限り算定可能となっています。
また、安全対策体制加算は、算定要件を満たしている状態で新たに入所者を受け入れる場合に、入所時に限り算定することが可能です。既に入所されている入居者は算定の対象とはなりません。
安全管理体制未実施減算について
安全管理体制未実施減算は、以下の内容の施設の運営基準に定められた対策が実施されていない場合に適応されます。
介護施設の運営基準として、事故の発生又は再発を防止するため、以下の措置を講じなければならないと記されています。(参考:令和3年度介護報酬改定の主な事項について P.51)
・事故が発生した場合の対応、事故発生時の報告の方法等が記載された事故発生の防止のための指針を整備すること
・事故が発生した場合、またはそれに至る危険性がある自体が生じた場合に、それらの事実が報告され、分析を通じた改善策を施設職員に周知徹底する体制を整備すること
・事故発生の防止のための委員会、および施設職員に対する研修を定期的に行うこと
・上記の措置を適切に実施するための担当者を置くこと
上記の運営基準における事故の発生又は再発を防止するための措置が講じられていない場合には、安全管理体制未実施減算として「5単位/日」の減算が適応されます。
安全対策担当者養成研修(外部研修)とは
安全対策体制加算は、安全対策における担当者が外部の研修を受けることで、介護施設の安全対策についての専門知識を身に付け、事故防止検討委員会などで共有を行い、介護施設における安全管理体制をより一層高める場合に評価されることとなっています。
外部の研修としては、
・介護現場における事故の内容
・発生防止の取り組み
・発生時の対応
・施設のマネジメント
などの内容を含むものであり、
・公益社団法人全国老人福祉協議会
・公益社団法人全国老人保健施設協会
・一般社団法人日本慢性期医療協会等
などが開催する研修が「外部の研修」として該当します。
安全対策体制加算の算定は信頼性・サービスの向上にもつながる

安全対策体制加算を算定することは、介護施設内で起こることが考えられる事故に対して、入所者が安心して過ごすことができる場を作ることにもなり、職員も安心して働きやすい環境へとつながるでしょう。安全対策をしっかりと講じることで、加算算定に繋がり、また減算を防ぐといったように経営面の効果が期待できます。
また、安全対策体制をしっかりと構築していることは、入居されるご利用者やそのご家族にとっても、「この施設は安心して過ごすことができる」と、施設への信頼にも繋がるでしょう。施設職員が事故を未然に防ぐため安全対策を講じることで、施設全体でのケアやサービスの質の向上に繋がることも期待できます。
まとめ
令和4年度に行われた介護報酬改定検証・研究調査では、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設では約7割、介護医療院では約5割の施設が算定しています。加算算定要件はそれほど難しい要件ではないため、取得している施設も多くなっていることがわかります。

引用:高齢者虐待の防止/介護現場における安全性の確保、リスクマネジメント P.22
安全対策体制加算を取得することで、適切に安全対策を講じることができるでしょう。ご利用者にとっては安心安全な暮らしを、施設にとっては加算算定を、職員にとってはケアやサービスの向上をと、利用者・施設・職員のそれぞれに良い影響を与えることが期待されます。
なにより介護施設にとって、安全対策を講じていることで利用者や家族からいただける信頼はかけがえのないものです。未取得の事業所はぜひ安全対策体制加算の取得準備に取り組んでみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者 | こまさん 所有資格:作業療法士 経歴:作業療法士として医療分野では病院でのリハビリテーション業務に従事、介護分野では訪問リハビリテーション事業所を経て、現在は特別養護老人ホームの機能訓練指導員として従事。 入居者へ多職種で行う機能訓練の提供や、介護士への介護技術指導、LIFEや介護報酬改定に関わる業務などを担っている。 |
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