介護報酬改定で加算の対象になったICT機器の導入を検討しているけれど、「介護業界のICT導入率ってどうなのだろう?」と情報をお探しの担当者の方も多いのではないでしょうか。
ICTとは、デジタル機器やソフトウェア、通信ネットワークなどの情報技術を指す「IT]に、インタラクティブな意思疎通である「C」がプラスされたシステムやサービスの総称を指します。
介護業界は、他の業界と比べて、ICTの普及が遅れていると言われていますが、導入事例は増えつつあります。様々なICTツールの導入により、業務効率を上げ、人手不足を解消し、質の高いサービスの提供が出来るようになります。
本記事では、介護業界のICT導入率や導入をスムーズに進めるポイントを解説します。今後、介護業界全体でICT導入率は徐々に上がっていくことが考えられます。介護職に選ばれる施設となるためにも、業務改善に繋がるICT導入は重要です。
目次
介護業界のICTの導入率
公益財団法人介護労働安定センターが公表した「令和3年度介護労働実態調査結果の概要について」に、ICT機器の活用状況が掲載されています。それによると、8,742事業所のうち、「パソコンでケアプランや介護記録などの情報を共有している」と回答した割合が52.8%となっています。
また、「記録から介護保険請求まで一括している」が42.8%、「タブレットなどで利用者情報を共有している」は28.6%となっており、すべて前年と比べて上昇しています。
コロナ禍により働き方改革が加速したことが追い風となり、介護業界でも急速にICTの導入が進んでいます。
介護業界ではパソコンやタブレット端末の導入、勤怠管理や電子申請システムなどのソフトウェアや見守りシステムなどの導入が多く、他には介護ロボットを導入する介護事業所も増えてきています。
参考:令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について P.9
介護ソフトの導入率
介護ソフトの導入状況についても見てみましょう。介護ソフトは、介護事業所において利用者の情報や支援計画の作成、介護請求やシフトの管理などを効率化するためのツールです。
介護の現場では、業務効率化が課題となっており、介護ソフトの導入によって多忙な現場の負担軽減を図ることができます。
介護ソフトの導入を成功させるには、導入と運用の簡単さ、操作のしやすさも重要です。導入することで、例えば、記録をするためだけにしていた残業を削減するといったことができるでしょう。
厚生労働省の資料によると、調査対象の内、67.5%の施設で介護ソフトが導入されています。介護ソフトの種類としては、クラウド型が70.3%、オンプレミス型が27.0%と、インターネットを経由してアクセスするクラウド型が主流となっています。
また、ICT導入支援事業も活発化しており、数多くの介護事業所がICT導入支援事業を活用して介護ソフトを導入しています。
参考:ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告取りまとめ p.4
介護業界のICT化、介護ソフト導入が推進される背景
介護現場では深刻な人材不足と介護業務の負担増加が課題となっており、記録や情報共有を一括管理することで、事務作業における負担軽減が見込まれます。
介護業界のICT化、介護ソフト導入が推進される背景としては、主に介護人材の不足、そして人材不足に伴う業務量の増大があります。それぞれの課題について解説します。
介護人材の不足
介護業界でもICT化が求められる理由の多くは人材不足です。必要となる介護職員数は年々増加していきますが、実際の介護職員数は微増はしていても、必要数を満たすことはできていません。
2040年には約272万人の介護職員が必要と推測されているにも関わらず、現在の介護職員数は約215万人であり、約57万人が不足する想定です。介護職員の人手不足は年々、深刻度合いを増しているといって良いでしょう。現場で働く皆さんの中にも、人手不足感は強く感じている、といった方も多いのではないでしょうか。
介護職員の処遇改善も進んではいますが、まだまだ他業種と比較して平均年収は低い状況です。介護の仕事は身体的負担が大きく、賃金が低いといった理由から人材は慢性的に不足しています。
少子高齢化が加速する日本では、介護需要の増加と職員不足が重なり、今後さらに人手不足が加速する見込みです。介護人材の不足がもたらす問題は、職員の負担が増えることにとどまらず、ケアの質が低下したり、職員の離職が進んだりと職場内で悪循環をもたらします。
介護現場の負担軽減が求められている
現場で働く介護職員が抱える労働負担も大きな問題です。もともと介護職は夜勤や身体介護などによる身体的負担が大きい仕事ですが、高齢者への支援は精神的にも大きな負担がかかります。
人員基準ギリギリという施設も多いでしょう。次から次へと対応に追われ、一息つく暇もない状況が続けば、疲労からミスが増えるなど、利用者への介護サービスの質が下がってしまうリスクがあります。介護事故のリスクも高めてしまうかもしれません。
また、入居者や家族への対応、職場環境などを原因とする精神的な負担を抱えているスタッフも少なくありません。過重労働、精神的な疲弊はスタッフの離職にもつながりかねない、重要な問題です。
無駄な介護業務を見直し、ICTツールの導入で業務効率を向上させれば、職員の業務負担を軽減することが可能です。介護現場にICTツールを導入する際には業務の見直しも必要になりますから、無駄な介護業務を明らかにすることも期待できます。
ICT化することで負担が減る介護業務にはどのようなものがあるか、以下に紹介します。
情報の共有
iPadなどを利用し、ペーパーレス化を図ることで、職員間や外部のケア関係者との情報共有が正確にできるようになります。
また、利用者の身体状況などの情報共有がスムーズに出来るようにもなります。
勤怠管理
早番、遅番、夜勤と様々な働き方をする職員の出退勤記録やシフト管理は介護施設の大きな仕事の1つです。
ICT導入により、シフト作成業務が軽減でき、勤務時間や時間外、休暇状況の管理が簡単となり年末調整などの手続きもスムーズになります。
職員同士のコミュニケーション
オンライン会議ツールやチャット機能の活用で、業務連絡や打ち合わせも場所を選ばなくなり、災害時などの職員間の連絡や利用者の安否確認などの情報を、素早く正確に共有することができます。
今後の介護業界はICT導入しないと生き残れない?
介護人材の不足を補うために国も後押ししているのが、ICTや介護ロボットの活用です。介護現場でICT導入を進めることで、介護職員の業務効率化や負担軽減に繋がり、サービス提供にかける時間を増やすことが可能になります。
現場で働く職員の負担を減らすことで、人と人との間でしか成り立たない介護の本質的なサービスに注力できるようになり、ケアの質の向上にもつながります。職員も業務効率化により本来の仕事に注力できる時間が増えることから、仕事の納得感につながり、離職率の低下も期待されます。
今後も施設運営を継続していくために、ICT導入が重要な理由を以下に解説します。
旧態依然の介護施設運営のリスク
旧態依然の介護施設運営は、職員のモチベーションの低下や仕事へのやる気の低下をもたらす可能性があります。
今はSNSなどを通じて情報収集が容易にできます。昔ながらの方法を続けることで、「自分たちの職場、効率が悪い働き方をしているのかも」といったことも考えてしまうこともあるでしょう。
他にも、旧態依然の介護施設運営を続ける場合、次のようなリスクがあります。
利用者の情報共有がうまく出来ないリスク
支援記録や利用者情報を紙に書きファイルなどにまとめている場合、色々な場所に書き込みを行うなど事務負担も大きく、一括管理されていないので、どの情報がどこにあるのかもわかりづらくなってしまいます。
今は介護現場でも、職員同士のリアルタイムな情報共有や情報連携が求められるケースが増えているため、利用者の情報共有がスムーズにいかないリスクがあります。
人件費などの経費増加のリスク
旧態依然の介護施設運営を続けることで、記録に時間がかかり、転記ミスなどの事務負担を減らすことができなくなります。
業務効率化が進まないことで、残業時間が増加し業務負担が増えていきます。
そうした状況が続けば、職員の増員の必要が出たり、残業による人件費などの経費増加のリスクを抱えてしまう事になります。
サービスの質の低下のリスク
旧態依然の運営が続き業務改善が進まないと、職員の負担が増えていき疲弊してしまいます。そうした状況が続くと、職員の離職リスクも上がってしまうでしょう。
職員が離職してしまうとすぐには補充も難しい状況です。人手不足は、介護サービスの質の低下につながります。
介護職員から選ばれなくなる
介護職員の数は増加傾向にはありますが、高齢化が進み必要となる介護職員の数が増えると予想されており、人手不足は深刻化する見込みです。働きにくい職場だと思われてしまっては、採用も難しくなってしまうでしょう。
人手不足にならないために、処遇改善や人材育成のための研修体制の強化など様々な対策がありますが、その中に一つにICTの利用促進があります。
介護ソフトやタブレットなどの導入支援を行っている都道府県があったり、介護ロボット導入によって生産性向上を目指す目的で、補助が受けられるケースもあります。
ICT導入などに積極的な施設は、働きやすい職場作りに力を入れているというアピールにもなります。こうしたことから、ICT導入を進めていくことは、今後の事業所の生き残り対策としては非常に有効だといえるでしょう。
介護職員に働く場として選んでもらうためには、働きやすい職場作りが欠かせません。情報共有やデータ連携をスムーズに行い、業務効率化を進めることで、介護職員から働きたいと選んでもらえる施設作りをしていきましょう。
ICT導入をスムーズに進めるためのポイント
ICT導入で大切なことは、導入・設置がゴールではなく、新たなスタートだという意識を持つことです。
利用者の利便性が向上すると同時に、介護職員の業務負担軽減が必要だという事を一人ひとりが理解すると、導入に反対する職員も少なくなります。
ICT導入を成功させるには、いくつかのポイントを意識する必要があります。ここでは4つのポイントについて解説します。
ICT導入の意義・目的を理解してもらう
ICT導入の意義・目的を理解してもらうことがまず重要です。ICT導入は、あくまでも業務の効率化や生産性の向上など、課題を解決するための手段であって、導入後も運用体制の最適化や投資対効果の検証など、取り組むべき作業がたくさんあります。
ICTへのスキル不足などを理由に、導入することに反対する声も出ると思いますが、職員のための導入だという事を理解してもらうことで、反対の声も減り、システムに対する習熟も早くなります。
職員への継続した研修を実施する
どれほど素晴らしいツールを導入したとしても、うまく使いこなせなければ意味がありません。
職員の年代や経験などによっては、タブレットやパソコンの操作が難しい職員もいますので、必要に応じて職員にICTについて学べる研修を実施することが必要です。
研修を受け実際に経験を積んでいくことで、知識や自信が付いてシステムを自由に使えるようになります。
施設に合ったICTツールを選ぶ
介護施設のICT化は、その規模や特徴などで必要なツールも変わります。施設の規模に応じたICT導入のメリット・デメリットを確認し、ツールを選ぶことが必要です。
メリット
・小規模施設でのICT導入については、事務作業への負担軽減が見込まれ、勤務時間や残業時間の削減を行うことができます。
記録や情報共有の一括管理は業務効率化につながり、ICT化へ舵を切り始めた小規模な事業所にとっては成果が出やすい内容です。
・中規模以上の施設でのICT導入では、職員だけでなく利用者の方まで幅広く効果が期待できます。
見守り機器や排泄予測器などで業務効率も上がり、ケアの質も上げることができ、利用者の状況を即座に入力することで施設全体でより細やかなケアが出来るようになります。
ICTを導入し業務負担を軽減することで、働きやすい職場にすることができ、それが離職率の低下へと繋がります。また、現場に余裕がでることで質の高いケアが出来るようになり、利用者の満足度も向上させることができます。
デメリット
・小規模施設の場合、事務職員や一部スタッフの負担軽減は可能ですが、施設全体で業務負担を軽減することが難しく、部分最適にとどまるケースが多くなっています。
・中規模以上の施設では、ICT機器を日常的に使いこなすためのスキルが職員に不足していると、余計に時間がかかってしまったり、定着するまでに少し時間がかかってしまいます。
初期費用の問題も課題となることが多くありますが、ICTの活用を推奨している政府は、負担を軽減する支援を実施していますので、導入前には活用を検討してみると良いでしょう。
コストの負担が大きいなら補助金を活用する
ICT導入は、コストの負担が大きくなるので、多くの自治体では介護ソフト及びタブレット端末等に係る導入費用の一部を補助する事業を行っています。
補助金の交付を受けるには申請が必要となり、受付は自治体ごとに行われますのでホームページなどをご確認ください。
介護施設のICT導入は今後の重要課題
介護現場でICTを進めるには、一定のコストや時間がかかるため、なかなか導入に踏み切れないでいる事業所もあると思います。しかし、今後の高齢化により要介護人口が急増していくことが予想されており、介護業界の人手不足も続きます。
人材不足のなか現場を回さざるを得ず、急ぎの対応に追われ新人スタッフなどへの指導もおろそかになる恐れもあります。今後はICT導入によって人材不足をカバーする必要があり、本来人の手が必要な介護の部分に時間をかけるために、迅速なICT化が重要課題となっています。
まとめ
深刻な人手不足や職員の業務負担を軽減するには、ICTによる業務効率化が不可欠です。しかし、ただ単純な作業効率化だけではICTを十分使いこなしたとは言えません。
従来の業務フローを見直し、その上で業務効率化を進めることが大切です。ただ導入するだけでは本質的な業務改善につなげることは難しいでしょう。ICT化の目的を明確にし、導入を進めていくことが大切です。
国が推進していることもあり、介護業界におけるICT導入率は今後上昇していくでしょう。介護報酬の算定にもICT機器の導入や生産性向上が要件となってくるものが増えることが予想されます。
ICT機器も様々なものが開発されています。施設・事業所の目的に合わせて、適切なICT機器の導入を検討してみてください。介護業界のICT導入事例について以下の記事で紹介しています。合わせて参考にしてみてください。
この記事の執筆者 | ペコ 保有資格:介護福祉士 介護支援専門員 これまで通所リハビリに2年、小規模多機能型居宅介護に17年勤務。その中でも小規模多機能では介護職4年、介護福祉士兼介護支援専門員を3年、管理者兼介護支援専門員を9年務め、現在は代表も兼任しています。 介護の話題を中心にライタ―活動を行っており、他には介護用の研修資料の作成なども行っています。 |
---|
関連記事
・【シンクロシフト】無料で試せる介護シフト自動作成ソフト
シフト作成の負担を軽減!スタッフに公平なシフトを自動作成!希望休の申請も、シフトの展開もスマホでOK!「職員の健康」と「経営の健康」を強力にサポートする介護業界向けシフト作成ソフト。まずは無料期間でお試しください。
当サイトでは介護施設のICT化、ICTツール導入に関して、以下のような記事を掲載しています。
合わせてご覧ください。
・介護現場でICT活用による業務効率化、メリット・デメリットについて
・介護シフト管理 作成ソフト・アプリ10選!料金やメリットを紹介
・眠りスキャンで深夜業務の肉体的・精神的負荷を軽減!デメリットはないの?
・介護施設にインカムを導入するメリット・デメリットとは?補助金についても解説