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第20回 介護経営サミット オンラインセミナー告知

【教えて!】介護現場におけるICTの課題について

介護現場におけるICTの課題とは

介護業界は様々な課題、問題に直面し経営状況の厳しい介護施設も数多く出てきています。
人手不足や物価の高騰、介護施設に求められる責任など、努力や工夫だけでは解決できない問題も数多くあります。
一方で、様々な工夫や努力で経営状態を安定させ、事業拡大を図っている施設も多く見られています。
その一端にICTツールの導入があります。
とはいえ介護施設は日々同じご利用者様と関わることが多く、新しい知識や技術を取り入れることが苦手なケースも多く、経営者や管理者と介護現場の温度差があるというケースも見られます。
 
ここでは、介護現場において、ICT(情報通信技術)の導入がもたらす可能性や課題解決方法、その影響について解説します。
ぜひ参考にしてみてください。

介護現場が抱える課題とは

ICTツールの導入に悩む介護施設管理者

介護現場は、介護職の人手不足や採用難、そして効率の悪い仕事のやり方など多くの課題を抱えています。

高齢者の増加に対して介護人材の採用、補充が追いつかず過重労働やサービスの質の低下も懸念されています。

新しい介護人材の確保も難しく、質の高いスタッフの採用も困難を極めます。

介護現場では、若い職員のみならず高年齢の職員が働いていたり、経験の浅い職員からベテランの職員が働いていたりと価値観や考え方などを統一するのはとても困難です。

長く働く職員は昔からの方法に固執したり、新しい技術や知識の導入に消極的であることも多いです。
そのため、業務の効率化が進まずに介護現場の負担が増大していることも、多くの介護施設に共通した課題になっています。

管理者や経営者は、稼働率や利用者数などの数字の管理もさることながら、スタッフの管理や業務の効率化など、働きやすい職場環境やスタッフの働きがいなどについても考えていく必要性が増しています。

介護職の人手不足

現在の介護業界で、採用に困っていないという施設はほとんどないでしょう。

人口減や最低賃金の高騰により介護業界のみならず、その他の業界においても同様の現象は起こっており、もはや一企業で解決できるような状況ではありません。

令和3年の介護保険施設(特養、老健、介護医療院)の数は、約13,000施設あり、在宅サービスの数はそれよりも遥かにたくさんあります。

一方で、介護福祉士を養成する学校(大学、専門学校等)の減少は著しく、令和3年3月度の卒業生は※約5,300人に留まっています。

卒業生約5,300人を数万の施設で、文字通り「取り合う」ことになるので、介護福祉士養成校の卒業生を採用できる施設は本当に運がよいことだと思います。
また、せっかく採用した職員は大切に育てていく必要があります。

なお、卒業生約5,300人のうち外国人留学生が1,400人ほど入っているので、日本人の卒業生は約4,000人ほどです。

コロナや円安の影響で、外国人留学生が減少しているという統計もあるため、今後は更に厳しくなっていくことも予測されます。

※参考 公益財団法人日本介護福祉士養成施設協会 養成施設卒業生の進路

介護職の採用難

介護職員の採用は、厳しさを増しています。

令和4年の有効求人倍率は、訪問介護員(ヘルパー)で15.53倍、施設職員で3.79倍と、求職者1人に対してヘルパーは15の求人、施設も4程度の求人が出ているくらい採用が困難になっています。※

介護福祉士養成校の減少も著しく、以前と比較しても相当数の学校が閉校に追い込まれています。

以前、介護福祉士養成校の専門学校の教員と話しをした際には、

「最近では、親が介護福祉士になることを反対するケースが増えている」

ということを聞きました。

未だに介護職は3Kの仕事であるというイメージが影響しているのかもしれません。

また、日本人の学生が集まらず、外国人を専門的に受け入れている学校も増加しているようです。

※参考 厚生労働省第220回社会保障審議会介護給付費分科会【資料1】訪問介護36ページ

効率の悪い昔ながらの仕事のやり方

介護施設では、経験の浅い職員からベテランの職員、若い職員から高年齢の職員まで様々な職員が協力して働いています。
そのため、古くからの考え方や、やり方を変えるのが難しいケースが多く見られます。

例えば記録をひとつ取っても、介護システムを使いパソコンで入力するケースもあれば、タブレットやスマホから記録をするというケースもあります。

一方で、今でも手書きで記録をしている施設もあります。

手書きをしてからタブレットで改めて入力など、2重業務になっているケースもあるかもしれません。

今の若い職員は、手書きで記録を取るということに抵抗を持つケースも多いですが、古くからの職員は効率の悪い仕事をそのまま変えられないということが多くあります。

これまでのやり方を変えるということは、誰にとっても抵抗がありますが今後は、職員数の不足などからそのようなことも言っていられなくなるのではないでしょうか。

ICT化で介護現場の課題は解決できる?

悩む介護職

介護現場のICT化だけで、全ての課題を解決できる訳ではありません。

ICT化は、施設系では日々の介護記録の入力やプランの作成に利用したり、訪問系では実施記録の電子化など職員の業務の効率化で、人手不足を補ってくれたり残業を減らしてくれたりと、補助的な役割として業務をサポートしてくれる存在です。

ICT機器や介護ロボット、センサーなどを導入すれば職員が少なくてもいい、職員の代わりになってくれると勘違いしている経営者もいますが、最終的には介護を担うのは職員の力ですので経営者や管理者は、勘違いしてはいけません。

今後は、ICT化が特別なものではなく、当たり前のものになってくるでしょうから早めに準備をしていくということも大切になってきます。

ICT機器の活用状況

公益財団法人介護労働安定センターの調査によりますと、多くの介護施設でICT機器が導入されています。

利用者情報の共有が約56%、グループウェアの導入が約23%など、多くの介護施設で導入が進んでいる一方で、いずれも行っていないと答えた事業所が19.3%と約5分の1も占めているのは非常に驚かされます。※

最近では、安価で導入が可能なグループウェアやオンラインで記録から請求まで一元的に行うことができる介護システムも数多くあります。

今後、ケアプランデータ連携システムが開始されてくれば、システムに対応できない事業所は避けられるようになってくるかもしれません。

また、全てが手書きの事業所は若い求職者から敬遠される可能性もありますので、今後ICT機器の導入は更に進むことが予想されます。

※参考 公益財団法人介護労働安定センター 令和4年度介護労働実態調査306ページ

訪問看護ステーションでのICT化の事例

ある訪問看護ステーションの事例ですが、スタッフは直行直帰で訪問に出るため事業所にきませんが、チャットアプリを導入することでリアルタイムで利用者の情報が共有される仕組みを取り入れていました。

また看護記録も各スタッフがタブレット端末に入力し、それを管理者が確認することで必要な情報を主治医やケアマネにも共有するということが可能になっていました。

出退勤などの勤怠管理も、各スタッフがクラウドで登録をすることで管理をしており、給与計算の効率化も図れたと言います。

そして、そのような働き方にやりがいを感じ、職員の定着率も高くなっているという副次的な効果も得られたそうです。

一方で、どうしてもスタッフ間のコミュニケーションが希薄になりやすいという課題もICTの導入で見えてきたと言います。

自分たちの介護現場には、どのようなICT化が馴染むのかは施設によって異なりますので、様々な事例を見てみることも有効かもしれません。

介護ロボット、ICT機器の導入や利用についての課題

公益財団法人介護労働安定センターの調査では、介護ロボットやICT機器の導入の一番の課題は、導入コストが高いこととされています。※

以前と比較すると介護ロボットなどの価格は下がったとはいえ、一般的には施設の場合だと一台だけ購入ということはなく、複数台が必要になります。

一方で、それを導入したからと言って職員数を大きく減らせることもなく、収入が上がるという訳でもありません。
よい機器が多く出ているのはわかっていても、なかなか導入に至らないのはこのような理由が一番大きいと感じます。

ここ数年、地域医療介護総合確保基金で、介護ロボット導入支援やICT導入支援事業が行われています。

都道府県によって要件が異なりますが、恒久的に実施される補助事業ではありませんので、興味があれば行政や福祉用具販売店などに相談してみるとよいでしょう。

※参考 公益財団法人介護労働安定センター 令和4年度介護労働実態調査306ページ

介護現場でICT化が進まない理由、課題とは

ICT化が進まない理由は、コストが高いことや職員の苦手意識、これまでの仕事のやり方を変えたくないと思う人が多いからなど、複数の事情が考えられます。

その他にも、介護が人間を相手にした仕事だからという理由が大きい気がしています。

施設では限られた職員人数で、多くの高齢者を見守り、介護を行っています。

パソコンやタブレット端末で記録を行うとしても、見守りを行いながら記録をするというケースも多くあるでしょう。

事務員とは異なり、じっくりとパソコンの前で腰を据えて記録を行う、といったことが難しい環境の施設も多くあると思います。

また、入浴介助や排泄介助などに入らなくてはいけませんので、感染管理などを考えればみんなが使う端末は、清潔な状態で使用しなくてはいけません。

さらには介護現場の大きな問題のひとつに、サービス残業が常態化していることがあげられます。

本来であれば記録は業務のひとつなので、勤務時間内に終わらせる必要がありますが、業務時間内は利用者に向き合い、勤務が終わった後にパソコンに向き合うなどという職場もあるのではないでしょうか。

IT機器、ICTツールへの苦手意識

統計によると、介護業界で働く職員の年齢は40歳以上が全体の7割以上を占めています。

最も平均年齢が高いのは居宅介護支援で53歳、最も低いのは施設系で44.3歳です。

インターネットやSNSに慣れて育った、デジタルネイティブは少数派です。
そのためIT機器やICTがツールに対する苦手意識から、導入が進まないという背景もあると考えられます。

また、2000年にはじまった介護保険制度により、数多くの施設や事業所が開設されました。

当時は、IT機器やICTツールは今よりも少なく、決して使い勝手のよいものばかりではありませんでした。

施設の開設からICT化が導入されていれば、それが当たり前として業務が組まれますが、これまでアナログで業務をしていた施設にデジタルを導入するということはとてもハードルが高いものです。

そのような現状維持バイアスにより、やり方が変えられないという点もあると考えられます。

ICTツール導入のコスト

ICTツールは、絶対にないと仕事ができないというものではありません。

そのため、導入のためのコストは施設が持ち出すことになるため、それが導入のハードルになっています。

実際、アンケートではICT機器の導入で一番の課題は、コストが高いことという結果がでています。

介護ロボットなどは、日進月歩で技術が進歩して新しいものが発売されています。

管理者や経営者の本音としては、よいものなのは分かっていても費用対効果やタイミングを考えると導入に踏み切れないということではないでしょうか。

今後、診療報酬のように一定の機器を入れることで報酬に評価がされるなどすれば、導入も進むのかもしれませんし、小さい法人でも導入が可能なよう補助金を充実させるなども必要になるのではないでしょうか。

どのようなICTツールを選べばよいか

最近では、数多くのICT機器が出ています。

例えば介護システムだけを見ても、請求業務のみに特化したシステム、施設系で記録を重視したシステム、単一のサービスに特化したシステムなど、どれを選んでよいかわからないということもあるでしょう。

介護システムの場合は、一度導入すると毎日記録が増えていくので、途中から別のシステムに入れ替えるのはとても労力が必要になります。

私も数多くの介護システムを操作したことがありますが、Aのシステムではできるのに、Bのシステムではできないなどシステムごとの違いを多く経験しました。

全てが万能なシステムはなかなかないので、その事業所で何が本当に必要なのか、現場の意見を取り入れて選定する必要性を感じます。

介護現場をICT化するための課題解決方法

介護現場のICT化

介護現場にICTツールを導入するためには、従業員への適切な教育や説明、施設が一体となり導入を決断することが不可欠です。

ICTツールや機器を使いこなせる職員だけが業務を担わされたり、使いこなせない職員は使わなくてもよいなど、均一でない対応は行ってはいけません

介護現場では、パソコンやIT機器が苦手な人も多くいます。

私も過去、「文字が打てない(ローマ字入力がかな入力になっていた)」、「画面が出てこない(画面が最小化されている)」など何度も何度も同じことを説明したことがあります。

使いこなせる人から見たら、「なんでこんなことも分からないのだろう」ということでも、苦手な人にとってはアレルギー反応があるのも仕方がありません。

ICT機器の導入には、説明会や勉強会を実施することや、マニュアルの整備も必要でしょう。

そして管理者が、ICTの導入は職員にとってメリットがあるということを理解して、それを職員に伝えていくという覚悟も必要になると思います。

介護現場のICT化は働き方改革にもつながる

ICT化の一番の目的は、業務の効率化であり知識や情報の共有ではないでしょうか。

例えば、紙の記録であれば必要な情報を探そうと思うと、記録をさかのぼるか場所を覚えておく必要があります。

しかし、介護システムなどを利用すれば「検索機能」や「ソート機能」など自由に情報を選択することができます。

今は昔と比べて、日々接する情報が遥かに増えており、その全てを記憶しておくことは不可能です。
ICT化は、目的ではなく業務を円滑に進め、よりよいケアを行うための手段でしかありません。

今後、今まで以上に介護職員の採用は困難を極めると思いますし、超高齢化で介護職員に期待される役割や責任は増大します。

サービス残業などを無くし、働きやすい職場環境をつくることは経営者や管理者の役割です。

そのためにも介護現場にICTを導入することは、職員が働きやすい職場づくりにつながると考えます。

まとめ

ここまで、介護現場におけるICTの課題について見てきました。

今後は、ICT機器の導入は特別なものではなく、今まで以上に当たり前のものになってくるでしょう。
職員の採用や定着においても、働きやすい職場環境づくりは必須になっています。

介護業界の悪い点として、自己犠牲の精神で業務にあたる人が多いことが見受けられます。

サービス残業や過重労働など今の時代には馴染みませんが、残念ながら悪しき習慣として残っている介護施設もあります。

介護現場のICT化を進めれば、全てを解決できるとは思いませんが、少しでも介護現場に職員が定着して、よりよいケアに繋がると思います。

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この記事の執筆者伊藤

所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士

20年以上、介護・医療系の事務に従事。
デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。
現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。

2024年8月 住まい介護医療展 出展告知

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