介護現場では、利用者とのコミュニケーションは必須のスキルと言えます。しかし、新人や経験の浅い介護職の方は、次のように難しく感じる人もいるのではないでしょうか。
「利用者から怒られたが、何が悪かったのかわからない」
「介助をしたら、なぜか嫌がられてしまった」
介護拒否などがあると悩んでしまう介護職も多いのではないでしょうか。しかし、そうした場合も解決策を見つけるために大切なのは、丁寧なコミュニケーションであったりします。
本記事では、介護現場で大切なコミュニケーションのポイントを解説します。
相手を理解し、適切な対応をすれば、高齢者とのコミュニケーションもスムーズにできるでしょう。ぜひ参考にしてみて下さい。
目次
介護現場におけるコミュニケーションの重要性
介護の仕事は、人と関わることが基本です。
コミュニケーションは利用者と信頼関係を築く上で欠かせないスキルであり、これが欠けると適切な介護をするために必要な利用者の情報が得られず、介護の質の低下を招いたり、利用者やご家族とのトラブルが発生する可能性があります。
このように、介護職にとってコミュニケーションを円滑に取ることは、とても重要なことです。まず最初に、介護現場でのコミュニケーションの重要性について解説します。利用者やご家族、職員同士とに分けて見ていきましょう。
利用者とのコミュニケーション
介護の仕事では、利用者との信頼関係には特に気を配る必要があります。
なぜなら、介護職員は日々のコミュニケーションを通じて、利用者の心身の状態や日常生活におけるニーズを把握することで、適切なケアを提供できるからです。また、利用者にとっても介護職員との関わりが、自尊心の向上や安心感の獲得につながります。
信頼関係が築けていない場合、利用者は周囲に体調や気持ちをうまく伝えることが難しくなる恐れがあります。そうなると介護職員による適切なケアが難しくなり、利用者への介護の質の低下、それに伴い身体状況の悪化が懸念されます。
介護職員と利用者のコミュニケーションが良好であることで、適切なケアを提供するための情報が得やすくなります。つまり双方にメリットが生まれ、より良い環境が整うのです。
利用者のご家族とのコミュニケーション
利用者のご家族と直接関わる機会は少ないかもしれませんが、だからといって軽視すべきではありません。なぜなら、ご家族は「大事な家族を預けている」という強い意識を持ち、利用者の状態に常に気を配っているからです。
もし、ご家族とのコミュニケーションがうまくいかなかった場合、どうなるのでしょうか?
たとえば、久しぶりに会った際に自分の親が怪我をしていた場合、施設や介護職員に対する不信感が生じるでしょう。ご家族と信頼関係が築けていないと、介護に対する理解や協力を得られず、結果的にケアの質が低下するリスクがあります。場合によっては訴訟のリスクも考えられます。
このような問題を避けるためにも、日頃からご家族と連絡を密にし、信頼関係を築くことが大切です。
職員同士とのコミュニケーション
職員同士のコミュニケーションは、介護現場での業務を円滑に進めるために重要です。
その理由は、介護はチームで行うことが基本であり、職員間で連携が取れていないと業務分担や引き継ぎがスムーズにいかず、ミスや業務効率の低下につながる可能性があるからです。場合によっては事故につながる可能性もあるでしょう。
たとえば職員間での情報共有が不十分だと、利用者の健康状態やケアの状況が正確に伝わらず、結果的に利用者に負担がかかることになります。
一方で、職員同士がしっかりとコミュニケーションをとることで、業務分担や情報共有がスムーズに行われ、悩み相談や協力を得やすくなるでしょう。
したがって、日常的に職員同士でコミュニケーションをとることは、介護の質の向上に欠かせない要素と言えます。申し送りも情報共有に重要な時間です。とはいえ介護施設によってはシフト勤務で働くため、1日の中で会うタイミングが無い職員もいるでしょう。
その場合には、介護記録なども上手く活用して情報伝達、コミュニケーションを取ることも大切です。
コミュニケーションの種類
介護現場で使われるコミュニケーションには、主に二つの種類があります。それぞれの特性を理解し、相手に応じた方法を選択、または併用することが大切です。
・言語的コミュニケーション
・非言語的コミュニケーション
それぞれについて解説します。
言語的コミュニケーション
言語的コミュニケーションとは、言語を使って情報を伝える方法です。代表的なものとして以下などがあります。
・会話
・メール
・手紙
・筆談
この方法は、具体的な情報を迅速に伝えられるため、最も多く使われるコミュニケーション手段です。
ただし、言葉の選び方によっては誤解が生じやすい、情報量が多いと相手に負担をかける、といったデメリットがあるため注意しましょう。
非言語的コミュニケーション
非言語的コミュニケーションは、言語を用いずに情報を伝える方法です。代表的なものとして以下などがあります。
・ジェスチャー
・表情
・視線
・声のトーンや抑揚
・うなづき、あいづち
直感的でわかりやすいのが特徴で、耳が遠い方や理解力が低下している方に対しては、情報が伝わりやすくなるため、これら非言語的コミュニケーションが効果的です。
難聴の方には大声で「はい」と言うよりも、大きく頷く方がよりスムーズに意思を伝えられるでしょう。以上のことから、介護現場でよく使われる手法です。
コミュニケーションが苦手、という介護職は多い
まず最初に、介護現場におけるコミュニケーションの重要性や手法について解説しました。
実際の介護現場では「コミュニケーションが苦手」と感じる職員も少なくありません。それは知識として持っていても、実践するのはまた別の話だからです。
特に、入職したばかりの職員や経験の浅い介護職員は、利用者との信頼関係が築けていないため、コミュニケーションが難しく感じる場面も多いでしょう。信頼関係は一朝一夕で築けるものではありません。先輩職員が利用者と仲良くしているように見えるなら、それは日々の積み重ねの結果です。
大切なのはポイントを抑えつつ、練習と実践を繰り返すことです。次の項目では、介護職が円滑にコミュニケーションをとるための具体的なポイントを紹介します。
介護職が円滑にコミュニケーションを取るポイント
コミュニケーションが苦手な介護職でも、少しの工夫でスムーズにやり取りができるようになります。
ここでは、介護現場で円滑にコミュニケーションを取るために押さえておきたいポイントを解説しますので、ぜひ参考にして実践してみて下さい。
自分のことを知る(自己覚知)
介護現場でコミュニケーションをとる前に、自分自身の状態を見直してみましょう。これを「自己覚知」といい、性格や価値観、感情などを理解することで、他者との関わり方を考えることができます。
介護現場では、無意識に感情的な反応が出てしまう場面があります。自己覚知ができていないと、ストレスやイライラしていても気づかず、言葉や態度に表れて利用者に悪い印象を与える可能性があります。
気分が優れない時などは無理をせずに、気持ちを落ち着かせたり、他職員を頼ったりするなどの対策をとることが大切です。
自己覚知を意識し、利用者に接する前に自分の状態を整えることで、円滑なコミュニケーションが可能となります。
介護職にとって重要と言われる自己覚知については、以下の記事で詳しくまとめていますので、参考にしてみてください。
傾聴・受容・共感
利用者とのコミュニケーションでは、利用者が主体的に話をし、介護職員は聞き役に回ることが重要です。利用者は健康面や孤独などの不安を抱えており、話を聞いてもらいたいと感じていることが多いためです。
介護職員が相手の話を聞き、信頼関係を築くためには「傾聴」「受容」「共感」といったスキルを習得すると良いでしょう。
・傾聴…相手の話に耳を傾け、相槌や目線で「しっかり話を聞いている」ことを伝える
・受容…相手の言動や感情を否定せず、そのまま受け入れることで、相手が安心して話せる環境を作る
・共感…相手の感情に寄り添い、その感情に理解を示す
以上を実践するだけでも、利用者は「自分のことを尊重してくれる」と感じ、信頼関係の構築につながります。
相手を理解する
コミュニケーションを円滑にするには、相手を理解することが欠かせません。介護現場でも、利用者一人ひとりの性格や状態、生活背景などを把握することで、コミュニケーションの幅を広げることができます。
例えば、食事の声掛け一つとっても、対応の仕方は相手によって異なります。自立されている方には、「食事の時間になりましたので、ホールにいらして下さい」と丁寧に伝えるのが良いでしょう。
一方で耳の遠い方には、近づいて耳元で「ご飯の時間よ」と短く伝え、手招きなどジェスチャーを使うことで、よりわかりやすく伝えられます。
このように、相手を理解したコミュニケーションをとることで「自分のことを理解してくれる」と感じてもらえれば、利用者と良好な関係を築くことができるでしょう。
相手に興味を持って質問する
相手のことを理解するためには、「質問をする」ことが最も簡単で効果的な手法です。なぜなら、質問をすることは「あなたに興味があります」ということを示しているともいえるからです。
コミュニケーションが上手な人は、質問上手ともいわれます。質問を上手く重ねていくことができれば、利用者「その人」をさらに知ることができます。
普段の様子から相手が興味を持っていること、得意にしていたことなどが把握できている場合には、そうした事柄から質問を始めてみると良いでしょう。
そうした情報を持っていない場合には、
「どんなお仕事をされていたのですか?」
「どんな食べ物がすきですか?」
「好きな季節はいつですか?」
といった質問から始めてみて、答えにさらに興味を持って質問をしてみる、といったやり方も良いでしょう。
ただし、根掘り葉掘り質問してしまうのは避けましょう。また様子を見て、あまり質問に答えたくないように見える場合などは、無理に質問を続けない、といった配慮が必要です。
利用者とのコミュニケーションでやってはいけないこと
次は、利用者とのコミュニケーションで避けるべき行為について解説します。日々の業務の中で、無意識にやってしまってはいないか、ぜひ確認してみてください。
否定する
利用者は、同じ話を繰り返したり、事実と異なる話をしたりすることがあります。しかし、「その話はさっき聞いた」や「それは違います」といった否定、相手を叱りつけるような口調は避けましょう。
なぜなら、発言を否定されると、利用者は自身が否定されたと感じてしまうことがあるからです。
どんな発言でも、まずは「そうだったのですね」と受け入れ、安心させてあげましょう。共感することが大切です。そうすることで、自分の話も相手に伝わりやすくなります。
スピーチロックをする
スピーチロックとは、言葉で利用者の行動を制限することを指し、コミュニケーションをとる上では控えるべき発言です。
理由なく行動を制限されると、信頼関係が損なわれるだけでなく、行動意欲の低下など悪影響を受けることがあります。
「危ないので座っていてください」や「ちょっと待って」といった声掛けや、威圧的な言い方が該当します。
代わりに「次に迎えに行きますので、座って待ってもらえませんか?」や「今、他の方のお手伝いをしているので、次に迎えに来るので待ってもらえませんか?」などの、柔らかい表現を意識しましょう。
こうした言い方なら、相手の意見も尊重しつつ自分の意見を伝えられます。普段から意識し、適切な声掛けをしていくことで、利用者との信頼関係がより深まるでしょう。
スピーチロックについては意識せずに使ってしまっているケースもありますから、定期的に振り返ってみることが大切です。スピーチロックや介護のスリーロックについては以下の記事を参考にしてみてください。
敬意を払わない
利用者に対し敬意を払わない言動は適切ではありません。介護職員にとって利用者は年上の方であり、介護サービスのお客様にもあたる存在です。敬意を払わないと、相手も不快に感じるでしょう。
よくある例として、友達口調やあだ名で呼ぶフランクな言い方が挙げられます。たとえ利用者本人は気にしなくても、他の利用者やご家族が不快に感じる場合もあるので控えるようにしましょう。
また、丁寧な言葉でも「早くしてください」といった命令的に受け取られる表現も避けるべきです。最も重要なのは利用者に対して「敬意を持つ」ことです。それができれば、自然と適切な言葉遣いが身につくでしょう。
コミュニケーションが難しい時どうする?
介護現場でコミュニケーションをとる時、相手が必ず落ち着いているとは限りません。今回は、介護現場でよくみられる対応が難しい3つのケースと、それぞれの適切な対応方法ついて解説します。
これまでのポイントを踏まえながら、利用者とのコミュニケーション・関わり方の参考にしてください。
認知症の方との関わり
認知症には様々な症状があり、症状に合わせたコミュニケーションをとることが必要です。
例えば、物忘れがある方には、知りたいことをメモにして渡したり、ホールに貼り紙をしておくなどの対応が考えられます。「言語障害や理解力の低下」のある方には、「閉ざされた質問」を用いることで、スムーズな対話が可能になります。
一方、相手を「否定する」ことは避けましょう。不安を抱えやすい認知症の方を否定すると、さらに不安を増幅させる恐れがあります。認知症だからと特別視せず、相手に合わせた対応が大切です。
「認知症の人にやってはいないこと」について理解しておくことはとても大切です。下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
興奮している場合の関わり
相手が興奮している場合は、まずは落ち着いてもらうことが最優先です。興奮の原因を取り除けない時は、安全を確保しつつ、一旦距離を置いて冷静になる時間を与えることも有効です。
なぜなら、無理に関わると、興奮が増したり拒絶される恐れがあるからです。相手が落ち着くのを待ち、再度声をかけると良いでしょう。
例え怒りが残っていても、会話ができるようなら少し落ち着いた証です。その後は傾聴し、寄り添いながらコミュニケーションを再開しましょう。
不安や焦っている場合の関わり
利用者の中には、「家に帰りたい」や「持病が治るのか」といった不安や焦りを訴える方もいます。
このような時は、まずしっかりと傾聴し、可能なら根本的な原因を探りましょう。根本的な解決が難しい場合でも、発言の背景にある思いを理解することが重要です。
例えば「家に帰りたい」という言葉の背景には、「今いる施設では自宅のように安心して過ごせない」という思いがあることが考えられます。この場合、施設の環境を改善し、安心感を与えることが有効です。
また、「持病に関する不安」の訴えは、完治を求めているのではなく「苦しみを理解してほしい」という気持ちが隠れていることが多いです。この場合は寄り添いながら話を聞くことが求められます。
不安や焦りを訴える利用者には、まずは傾聴し、発言の背景に寄り添うことが信頼関係を築くポイントです。
介護現場でのコミュニケーションは聞き上手になることが大切
介護業界には「話し上手よりも、聞き上手であれ」という言葉があります。これは、利用者が体調や気持ちに不安を抱えていることが多く、誰かに話を聞いてもらいたいと感じる場面が多いためです。
介護職員が聞き上手になることで、利用者に安心感を与え、また介護職員も利用者の声を聞くことで、利用者の体調や気持ちの変化などにいち早く気づくことができます。このように、聞き上手である介護職員がいる施設は、自然と信頼される良い施設になるでしょう。
まとめ
本記事では、介護現場でのコミュニケーションの大切さについて解説してきました。ポイントをまとめると以下のようになります。
・介護現場では、利用者、ご家族、職員同士とコミュニケーションが重要なスキル。
・状況に応じて言語的・非言語的コミュニケーションを使い分ける。
・円滑にコミュニケーションをとるには、自分を知り、相手を知り、傾聴・受容・共感すること、そして質問をすること。
・否定、スピーチロック、敬意の欠如は避けるべき行為。
・困難な状況でも、相手を理解し適切な対応を取れば、スムーズなコミュニケーションが可能。
コミュニケーションには正解はありませんが、介護職として利用者と信頼関係を構築し、感謝されることは大きなやりがいにつながるでしょう。
利用者とのコミュニケーションにおいて難しさを感じた場合、状況を改善する一助として、本記事の内容がヒントになれば幸いです。
この記事の執筆者 | ソテツ 保有資格:実務者研修、ユニットリーダー研修修了 ショートステイに約8年勤務、デイサービスで約半年勤務、サ高住で約1年半勤務、と約10年ほど介護業界で仕事をしてきました。 ショートステイでは1年ほどユニットリーダーをさせて貰いました。 短い期間でしたがそのわずかな期間で、施設内での稼働率NO.1のユニットを作り上げることに成功してます。 現在は介護・福祉系ライターとしても活動中。 |