令和6年度にはトリプル改定と呼ばれる「医療」「介護」「障害福祉」の報酬制度が見直しされる年となりました。その中で「リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理の一体的取り組み」という言葉を耳にすることが多くなってきています。
しかし、実際の介護事業所の現場ではリハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理の一体的取り組みとはどのように取り組めば良いのか、計画書はどのように運用すれば良いのか、疑問に感じている事業所も少なくないはずです。
本記事ではリハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理の一体的取り組みとは?一体的計画書とは?などについて解説します。参考にしてみてください。
目次
機能訓練・口腔管理・栄養管理の一体的取り組みの重要性が増している背景
機能訓練・口腔管理・栄養管理の一体的取り組みによって、利用者のより効果的な自立支援・重度化防止に繋がることが期待されています。それぞれの連携において期待されることは以下です。
《リハビリテーション・個別機能訓練と栄養管理の連携》
筋力・持久力の向上、活動量に応じた適切な栄養摂取量の調整、低栄養の予防・改善、食欲の増進などが期待
《栄養管理と口腔管理の連携》
適切な食事形態・摂取方法の提供、食事摂取量の維持・改善、経口摂取の維持などが期待
《口腔管理とリハビリテーション・個別機能訓練の連携》
摂食嚥下機能の維持・改善、口腔衛生や全身管理による誤嚥性肺炎の予防などが期待
このように、リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理および口腔管理の取り組みは一体的に運用されることで、
・リハビリテーションの負荷や活動量に応じて、必要なエネルギー量や栄養素を調整することで筋力・持久力の向上やADLの維持や改善
・医師や歯科医師などの多職種による連携による摂食嚥下機能の評価により、食事形態・摂取方法の適切な管理し、経口摂取の維持などが可能となり、誤嚥性肺炎を予防および摂食嚥下障害の改善
などそれぞれの単独的な介入より、多職種により複合的に介入することで、利用者へ効果的な自立支援や重度化防止に繋がることが期待されています。
このため、自立支援や重度化防止のための効果的なケアを提供する観点から、医師、歯科医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士などの多職種による一体的な取り組みが実施されることが望ましいとされています。
機能訓練・口腔管理・栄養管理などに関連する加算
機能訓練・口腔管理・栄養管理などに関連する加算を紹介します。
個別機能訓練加算
個別機能訓練加算とは、通所介護などの介護サービスにおいて、個別機能訓練指導員を配置し、利用者毎に個別機能訓練計画書を作成し、その計画を基に機能訓練を提供した際に算定できる加算です。
個別機能訓練加算を算定する利用者については、住み慣れた地域や居住する環境で可能な限り自立して暮らし続けることを目的とし、生活機能の維持・向上を図るために、個別機能訓練を実施することが求められています。
目的・主旨はそれぞれで異なり、個別機能訓練加算(Ⅰ)は身体機能、個別機能訓練加算(Ⅱ)は生活機能の維持・向上を図ることとしています。
リハビリテーションマネジメント加算
リハビリテーションマネジメント加算は、調査、計画、実行、評価、改善のサイクルの構築を通じて、「心身機能」、個人として行う食事などの日常生活動作(ADL)や買い物など手段的日常生活動作(IADL)といった「活動」を行うための機能、家庭で役割を担うことや地域の行事に関与するといった「参加」をするための機能について、バランスよく働きかけるリハビリテーションが提供できているかを継続的に管理することを評価する加算です。
リハビリテーションマネジメント加算は、利用者毎にリハビリテーション実施計画書を作成し、リハビリテーション会議を通して利用者の状況等に関する情報を多職種で共有し、利用者やご家族に説明・同意を得ることが必要となります。
口腔機能向上加算
口腔機能向上加算は、口腔機能の向上に関するサービスの提供(口腔の健康状態の評価や口腔機能改善管理指導計画の立案、サービス提供の実施、口腔の健康状態の再評価など)について、言語聴覚士、歯科衛生士、看護職員、介護職員、生活相談員などの多職種で効率的に行うための体制をとる必要があります。
口腔機能向上に関する成果を評価し、改善すべき課題を設定し、継続的なサービスの提供内容の改善に努めることが求められる加算です。
栄養改善加算
栄養改善加算は、介護事業所において低栄養状態または低栄養状態のおそれのある利用者に対して、栄養相談などの栄養管理を行い、低栄養状態の改善や心身の状態の維持・向上に資する取り組みの実施を評価する加算です。
栄養ケアに関わるサービスは利用者毎に作成される栄養ケア計画に基づいて実施されます。
口腔・栄養スクリーニング加算
口腔・栄養スクリーニング加算は、利用者の口腔・栄養に関するスクリーニングの実施によって算定できる加算です。
介護事業所にて、利用者の口腔の健康状態・栄養状態について利用開始時および利用中6ヶ月毎に確認を行い、それらの情報を口腔・栄養スクリーニング様式に記載し、利用者を担当するケアマネジャーに提供することが求められます。
個別機能訓練・口腔管理・栄養管理の一体的計画書とは?
一体的計画書とは、リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理および口腔管理に関する各種計画書(リハビリテーション計画書、個別機能訓練計画書、栄養ケア計画書、口腔機能向上サービスの管理指導計画・実施記録)について、重複する内容は整理され、それぞれの実施計画を一体的に記入できる様式となっています。
リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理および口腔管理に関する評価や計画の内容を多職種で情報を共有することで、利用者の自立支援や重度化防止を目的に計画を作成します。
一体的取り組みは今後も重要性が高まることが想定される
令和4年度老人保健健康増進等事業におけるリハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取り組みに関する調査研究では、
・入所者の新たな課題やニーズを早期に把握できるようになった
・日常の職種間の情報連携の頻度が増えた
・ケアプランで共通した目標設定ができるようになった
などの一体的取り組みによるメリットを感じる意見が挙がっています。
これらのように実際に取り組んだ介護事業所の意見からもリハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理、口腔管理の一体的な取り組みは、利用者の自立支援や重度化防止に繋がるため重要であることがわかります。
また、一体的取り組みを行うことで、日々の業務における情報共有が緊密になり、早期からの課題の把握につながり、目標が計画に反映できているという良い循環が生まれている結果もわかっています。
他には調査結果からは、
・栄養のアウトカムがよくなった
・歯科口腔のアウトカムがよくなった
といった効果も見られることから、取り組みによって利用者自身にも効果が表れることが期待できます。
一体的取り組みは利用者のみならず、チームメンバー間での情報共有や、コミュニケーションの活性化により、職員間の目標達成に向けての結束力や一体感をもたらすことにも繋がります。
参考:https://www.j-ncm.com/wp-content/uploads/2024/05/r5-25-tebikisho-1.pdf
まとめ
令和6年度介護報酬改定では、通所・訪問リハビリテーションや介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院において、リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理、口腔管理の一体的取り組みの推進を図るために、加算として新たな評価の枠組みが設けられています。
このように、厚生労働省からも利用者の自立支援や重度化防止のために、リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理、口腔管理の一体的取り組みが推進されていることが推察されます。
リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理、口腔管理の一体的取り組みは多職種での情報共有・連携が必要となります。そのため、取り組みが上手く進んだ際にはチーム全体のモチベーション向上に繋がることも期待されます。
また、科学的介護情報システム(LIFE)にて、厚生労働省からのフィードバックデータを活用することも必要となります。多職種での連携や、LIFEのフィードバックデータを基に、利用者の自立支援や重度化防止に向けた質の高い支援を行っていけるよう取り組んでみましょう。
この記事の執筆者 | こまさん 所有資格:作業療法士 経歴:作業療法士として医療分野では病院でのリハビリテーション業務に従事、介護分野では訪問リハビリテーション事業所を経て、現在は特別養護老人ホームの機能訓練指導員として従事。 入居者へ多職種で行う機能訓練の提供や、介護士への介護技術指導、LIFEや介護報酬改定に関わる業務などを担っている。 |
---|
・【シンクロシフト】無料で試せる介護シフト自動作成ソフト
シフト作成の負担を軽減!スタッフに公平なシフトを自動作成!希望休の申請も、シフトの展開もスマホでOK!「職員の健康」と「経営の健康」を強力にサポートする介護業界向けシフト作成ソフト。まずは無料期間でお試しください。
・介護シフト管理 作成ソフト・アプリ10選!料金やメリットを紹介
介護業界向けシフト作成ソフト・アプリを紹介。シフト作成にかかる負担を減らしたいのなら、介護施設のシフト作成に特化したソフトやアプリの導入がおすすめです。
・介護施設でのシフト作成(勤務表の作り方)のコツを詳しく解説!
シフト作成に数十時間をかけている介護現場もあります。シフト作成業務を効率的に進めるコツを解説しています。
・介護・福祉現場のICT化 活用事例・導入事例5選
人手不足が深刻となる中、介護現場のICT化による業務効率化は待ったなしです。介護福祉現場における活用事例や導入事例、メリット・デメリットを解説します。