令和6年度介護報酬改定にて、「自立支援・重度化防止に向けた対応」として、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組等や自立支援・重度化防止に係る取組の支援といった内容が挙げられています。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護において、「個別機能訓練加算Ⅲ」が新設されることとなり、個別機能訓練の実施のみならず、口腔、栄養に関しての一体的な取組が評価されるようになりました。
今回は介護老人福祉施設等における個別機能訓練加算および、新設された個別機能訓練加算(Ⅲ)について解説していきます。
目次
個別機能訓練加算とは
介護老人福祉施設の概要として、
・要介護高齢者のための生活施設
・入浴、排泄、食事等の介護その他日常生活の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行う
とされており、三大介助と呼ばれる入浴、排泄、食事の支援に加えて、施設にて提供する内容として機能訓練が挙げられています。
個別機能訓練は入居者それぞれの心身の状態や居室の環境などをふまえた個別機能訓練計画を作成し、その計画に基づき計画的に機能訓練を行うことで、出来る限り自立した暮らしを続けていくことを目的とされています。
個別機能訓練加算(Ⅲ)が2024年介護報酬改定で新設された背景
リハビリテーション・個別機能訓練と栄養管理、口腔衛生管理の一体的な実施の基本的な考え方として、以下の内容が挙げられます。
リハビリテーション・個別機能訓練と栄養管理の連携においては、筋力・持久力の向上、活動量に応じた適切な栄養摂取量の調整、低栄養の予防・改善、食欲の増進等が期待されています。
栄養管理と口腔管理の連携においては、適切な食事形態・摂取方法の提供、食事摂取量の維持・改善、経口摂取の維持等が期待されています。
口腔管理とリハビリテーション・個別機能訓練の連携においては、摂食嚥下機能の維持・改善、口腔衛生や全身管理による誤嚥性肺炎の予防等が期待されています。
これらのように、リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理および口腔管理の取り組みは一体的に運用されることで、
・リハビリテーション・個別機能訓練の負荷または活動量に応じて、必要なエネルギー量や栄養素を調整することによる筋力・持久力の向上およびADLの維持・改善
・医師、歯科医師等の多職種の連携による摂食嚥下機能の評価により、食事形態・摂取方法の適切な管理、傾向摂取の維持等が可能となることによる誤嚥性肺炎の予防および摂食嚥下障害の改善
など、効果的な自立支援・重度化予防に繋がることが期待されています。
令和6年度の介護報酬改定にて、リハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理および口腔管理の一体的な実施を推進するべく、個別機能訓練加算(Ⅲ)が新設されることとなりました。
個別機能訓練加算の算定要件
介護老人福祉施設における個別機能訓練加算の算定要件は以下の通りです。
個別機能訓練加算(Ⅰ)
①機能訓練指導員の職務に従事する常勤の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士看護職員、柔道整復師またはあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師を1名以上配置していること。
※入所者の数が100名を超える場合は、常勤専従の機能訓練指導員を1名以上配置し、加えて機能訓練指導員として常勤換算法で入所者の数を100で除した数値以上配置していること。
※はり師、きゅう師に関しては、機能訓練指導員として6ヵ月以上の経験があり、かつ事業所では、はり師およびきゅう師以外の資格を持つ機能訓練指導員を配置している場合のみ
②指定介護老人福祉施設として都道府県知事に届け出をすること。
③機能訓練指導員、看護職員、介護職員、生活相談員その他の職種の者が共同して、入所者ごとに個別機能訓練計画を作成すること。
④計画に基づき、機能訓練を行っていること
参考:指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成十二年厚生省告示第二十一号)(抄)【平成二十七年四月一日施行】
個別機能訓練加算(Ⅱ)
個別機能訓練加算(Ⅰ)を算定している入所者について、個別機能訓練計画の内容等を厚生労働省に「科学的介護情報システム(LIFE)」を用いて提出し、機能訓練の実施にあたって当該情報やその他機能訓練の適切かつ有効な実施のために必要な情報を活用すること。
個別機能訓練加算(Ⅲ)
①個別機能訓練加算(Ⅱ)を算定していること。
②口腔衛生管理加算(Ⅱ)および栄養マネジメント強化加算を算定していること。
③入所者ごとに、機能訓練指導員が、個別機能訓練計画の内容等の情報、その他個別機能訓練の適切かつ有効な実施のために必要な情報、入所者の口腔の健康状態に関する情報および入所者の栄養状態に関する情報を相互に共有していること。
④共有した情報を踏まえ、必要に応じて個別機能訓練計画の見直しを行い、見直しの内容について機能訓練指導員等の関係職種間で共有していること。
個別機能訓練加算の単位数
個別機能訓練加算の単位数は以下です。
・個別機能訓練加算(Ⅰ):12単位/日
・個別機能訓練加算(Ⅱ):20単位/月
・個別機能訓練加算(Ⅲ):20単位/月 ※令和6年度改定より新設
※個別機能訓練加算(Ⅰ)、(Ⅱ)、(Ⅲ)は併算定可
個別機能訓練加算の算定の流れ
個別機能訓練加算を算定するにあたり、入居者それぞれの個別機能訓練計画書の作成が必要となります。流れとしては以下の通りです。
①生活状況についての情報収集
②基本動作、ADL、IADLなどについてのアセスメント(評価)
③アセスメントに基づいた個別機能訓練計画書の作成
④入居者またはご家族への説明と同意
⑤個別機能訓練の実施
⑥モニタリング・アセスメントを行い、個別機能訓練計画書の見直しを実施
個別機能訓練を行うにあたり、機能訓練指導員や看護師、介護士、ケアマネジャー、生活相談員など多職種が共同して利用者毎の生活における目標や訓練内容、実施職員、実施時間などの内容の個別機能訓練計画を作成します。
個別機能訓練を行う場合は、開始時およびその後3ヶ月に一回以上、入居者またはそのご家族に対して、個別機能訓練計画の内容を説明し、同意を得たことを記録する必要があります。
個別機能訓練加算のポイント・注意点
機能訓練指導員は、入居者本人やご家族から生活におけるニーズを聞き取ったり、ケアマネジャーなど施設職員と情報共有を行いながら、提供されるケアプランに沿って設定される目標に対して必要となる訓練を提案します。
施設の入居者数によっては、一人の機能訓練指導員が担当する入居者の数は多くなることもあり、機能訓練指導員が個別に機能訓練を提供するというよりは、入居者それぞれの生活に合わせて、着替えや排泄、入浴、移動など生活に即した訓練、いわゆる「生活リハビリ」の提案を行っていくことが多いです。
生活リハビリの観点による機能訓練を行う際には、介護士をはじめとする施設職員の協力も必須となるため、サービス担当者会議や日頃のコミュニケーションの中で、入居者それぞれの評価や機能訓練の内容を多職種にて共有しておく必要があります。
それらの実施内容を踏まえて、機能訓練指導員がモニタリングやアセスメントを行い、個別機能訓練計画書の見直しを行っていきます。また、機能訓練指導員だけでなく、多職種を交えて計画書を作成していくことで、利用者の生活に寄り添った個別機能訓練計画となるでしょう。
まとめ
最近は特別養護老人ホームでも機能訓練指導員を配置していることが多くなっています。令和元年に発出された厚生労働省「介護給付費実態統計」において、個別機能訓練加算を取得している事業所は約46%となっています。
(参考:介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) の報酬・基準について P50)
令和6年度改定において、「自立支援・重度化防止に向けた対応」として、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組が挙げられているように、特別養護老人ホームでも口腔・栄養に関する専門職をはじめとする多職種間で情報共有を行いながら、機能訓練を実施することのニーズは高まってきているでしょう。
皆さまの事業所でも、個別機能訓練加算の取得や上位加算の算定にむけて、今回の記事が参考になれば幸いです。
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この記事の執筆者 | こまさん 所有資格:作業療法士 経歴:作業療法士として医療分野では病院でのリハビリテーション業務に従事、介護分野では訪問リハビリテーション事業所を経て、現在は特別養護老人ホームの機能訓練指導員として従事。 入居者へ多職種で行う機能訓練の提供や、介護士への介護技術指導、LIFEや介護報酬改定に関わる業務などを担っている。 |
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