本記事でいう高齢者との会話ネタとは、ご本人が答えやすく、その方の経験や好み、今の関心について無理なく話せるきっかけとなる話題や質問のことです。
話しかけても「うん」で終わってしまう、何を話せばいいのか分からない。介護の現場で、そんなもどかしさを感じたことはないでしょうか。たくさん話していただくことがゴールではありませんが、ご本人のペースで言葉が続くと、その日の関わりはぐっと楽になりますよね。
この記事では、ジャンル別の質問例を50個、1問ずつ「こう返ってきたら、次はこう聞く」という広げ方つきでご紹介します。返事が続かないときの引き出しとして使っていただけます。
あわせて、職員側から持ち出さないほうがよい話題や言葉、ご利用者の状態に合わせた話しかけ方もまとめました。
【ジャンル別】高齢者との会話が盛り上がるネタ・質問例50選

ご本人の暮らしや経験、好きなことに関係する話題は、その方を知るきっかけになります。ここでは会話ネタを、初対面でも使いやすい「きっかけづくり」、時間のあるときに向く「じっくり聞きたいとき」、今の関心を伺う「今を知る」の3つに分けて、10ジャンル50個の質問例をご紹介します。
それぞれの質問には、返ってきた答えをどう広げるかも添えました。どのジャンルにも共通してお伝えしたいのは、返事が短いときや表情が曇ったときは、答えを求め続けないということです。
話したくないことは誰にでもありますので、そのときはいったん間を置き、必要であれば別の話題へ移りましょう。
高齢者との会話ネタと広げ方の早見表|まずはここから
まずは全体像から見ていきましょう。10のジャンルについて、最初の一言と、返ってきたときの広げ方をひとつずつまとめました。
気になるジャンルがあれば、そのまま下の解説に進んでみてください。
| ジャンル | 最初の一言 | 返ってきたら |
| 天気・季節 | 今日は暖かいですね | 暑いのと寒いの、どちらが苦手ですか |
| 食事・好きな食べ物 | 今日のお昼はいかがでしたか | 好きなおかずや味つけはありますか |
| テレビ・音楽・有名人 | 最近よく見ている番組はありますか | どんなところがお好きですか |
| 近所のお店・買い物 | よく行かれていたお店はありますか | どんなものを買われていましたか |
| 生まれ育った土地・故郷 | こちらのご出身ですか | そちらで有名な食べ物はありますか |
| 子どもの頃の遊び・学校 | どんな遊びをしていましたか | どんな場所で遊んでいましたか |
| 仕事・地域活動 | 長く続けてこられた仕事や役割はありますか | どんなときがいちばん忙しかったですか |
| 家事・暮らしの工夫 | お料理はよくされていましたか | 得意だったお料理はありますか |
| 趣味・得意なこと | 長く続けてこられたことはありますか | どんなところが面白いのですか |
| 最近の楽しみ・日課 | 最近、楽しみにしていることはありますか | どんなところを楽しみにされていますか |
きっかけづくりに使える会話ネタ
まずは、目の前の状況からすぐに始められる、初対面でも切り出しやすい4つのジャンルです。
天気・季節の話題
天気や季節の話は、目の前の状況を手がかりにできるため、比較的切り出しやすい話題です。
・今日は暖かいですね。暑いのと寒いの、どちらが苦手ですか
→「寒いのが苦手」と返ってきたら、「冬はどんなふうに暖をとっていましたか」と伺います
・桜がきれいな季節になりましたね。お花見に行かれたことはありますか
→行き先の話が出たら、「どなたと行かれたのですか」と広げます
・この時期になると思い出す風景はありますか
→言葉が少ないときは促さず、「私は雪かきを思い出します」と自分の話を短く添えます
・子どもの頃の冬は、どのように過ごしていましたか
→暮らしの話が出たら、「今と比べていかがですか」と続けます
・雨の日は、どんなふうに過ごしていましたか
→「家にいた」と返ってきたら、「家では何をされていましたか」と一つ先へ進みます
食事・好きな食べ物の話題
食べ物の話は日々の経験に結びつけやすく、料理や地域の食文化へも広げていけます。
・今日のお昼ごはん、いかがでしたか
→「おいしかった」と返ってきたら、「どのおかずがお好きでしたか」と伺います
・甘いものはお好きですか
→「好き」と返ってきたら、「おまんじゅうとおはぎでは、どちらがお好きですか」と広げます
・朝はごはんとパン、どちらが多かったですか
→「ごはん」と返ってきたら、「おかずは何がお好きでしたか」と続けます
・よく作っていたお料理はありますか
→料理名が挙がったら、「どんな味つけでしたか」と伺います
・子どもの頃、ごちそうといえば何でしたか
→答えが出たら、「どんなときに食べられたのですか」と場面を尋ねます
テレビ・音楽・好きな有名人の話題
テレビや音楽の話は、好みが分かるとその後の会話を広げやすくなります。「高齢の方だから昔の歌手が好きなはず」といった思い込みは避け、今楽しんでいるものから伺いましょう。
・最近よく見ているテレビ番組はありますか
→番組名が挙がったら、「どんなところがお好きですか」と理由を伺います
・ドラマ、歌番組、スポーツ中継では、どれをよくご覧になりますか
→どれも見ないと言われたら、「そうなのですね。普段はどのように過ごすのがお好きですか」と、過ごし方の話へ切り替えます
・若い頃によく聞いていた音楽はありますか
→曲名や歌手名が出たら、「どんなときに聞かれていましたか」と広げます
・好きな俳優さんや歌手、力士の方はいますか
→名前が挙がったら、「今もご覧になりますか」と現在の話へつなぎます
・ラジオを聞かれることはありますか
→「聞く」と返ってきたら、「どの時間帯がお好きですか」と伺います
近所のお店・買い物・お出かけの話題
買い物やお出かけの話からは、ご本人の生活圏が見えてきます。
・よく行かれていたお店はありますか
→店名が出たら、「どんなものを買われていましたか」と伺います
・買い物は歩いてでしたか、自転車でしたか
→「歩き」と返ってきたら、「どのくらいの道のりでしたか」と続けます
・商店街で楽しみにしていたものはありますか
→答えが出たら、「どなたと行かれることが多かったですか」と広げます
・お出かけするなら、海と山どちらがお好きですか
→どちらでもないと言われたら、「では、どんな場所が落ち着きますか」と聞き直します
・旅行で印象に残っている場所はありますか
→地名が挙がったら、「そこで何が心に残っていますか」と伺います
じっくり話を聞きたいときの会話ネタ
ここからは、少し時間が取れるときに向いた、ご自身の言葉でゆっくり語れる4つのジャンルです。
生まれ育った土地・故郷の話題
生まれ育った場所の話は、食べ物や季節、お祭りなど、さまざまな方向に広げられます。どんな環境で育ってこられたのかが分かると、ほかの話題を選ぶ手がかりにもなります。
・こちらのご出身ですか
→地名が出たら、「そちらで有名な食べ物はありますか」と暮らしの話へつなぎます
・海や山、町の中など、どのような場所でしたか
→情景が語られたら、「どんな景色が印象に残っていますか」と伺います
・故郷で有名な食べ物はありますか
→食べ物が挙がったら、「ご家庭でも作られていましたか」と続けます
・子どもの頃、よく遊んだ場所はどのあたりでしたか
→場所が出たら、「どなたと行かれていましたか」と広げます
・お祭りや行事は、どのような様子でしたか
→表情が曇るようなら、そこで質問を止めます。しばらく間を置き、様子を見て負担の少ない話題へ移します
疎開や転居など、話しにくい事情が背景にあることもあります。言葉が少ないと感じたら、それ以上は掘り下げないでください。
子どもの頃の遊び・学校の話題
子どもの頃の遊びや学校の話は、具体的な場面を思い出すきっかけになることがあります。ただし記憶の残り方や話しやすさには個人差がありますので、思い出しにくい様子であれば早めに切り上げましょう。
・子どもの頃は、どんな遊びをしていましたか
→「外で遊んでいた」と返ってきたら、まず「どんな場所で遊んでいましたか」と伺い、答えが返ってから「どなたと一緒でしたか」と進めます
・外で遊ぶのと家の中、どちらが多かったですか
→「家の中」と返ってきたら、「どんな遊びをされていましたか」と続けます
・学校へは、どのように通っていましたか
→「歩き」と出たら、「どのくらいかかりましたか」と広げます
・学校に通っていた頃、お昼はどのようにしていましたか
→答えが出たら、「何がいちばんうれしかったですか」と好みを伺います
・得意だった科目はありますか
→科目が挙がったら、「どんなところが面白かったですか」と理由を尋ねます
仕事・地域活動など担ってきた役割の話題
これまで担ってきた役割の話は、その方が大切にしてきたことや得意分野を知る手がかりになります。勤めに出ていた方だけでなく、農作業や商売、地域活動、ご家庭で担ってきたことまで幅広く伺うと、その方が話しやすい入り口を見つけやすくなります。
・長く続けてこられた仕事や役割はありますか
→答えが出たら、「どんなときがいちばん忙しかったですか」と伺います
・どのような場所で、どんな役割を担っていましたか
→場所が語られたら、「どなたと一緒に働かれていましたか」と広げます
・一日のうちで、いちばん忙しい時間帯はいつでしたか
→時間帯が出たら、「そのあとは何をされていましたか」と一日の流れを尋ねます
・地域の行事や活動に参加されていましたか
→「していない」と返ってきたら、それ以上は掘り下げず、別のジャンルの話題に切り替えます
・仕事や暮らしの中で、「これは得意だった」ということはありますか
→短い返事のあと表情が曇るようなら、それ以上は尋ねません。少し時間を置いてから、ご本人が話しやすい話題に戻ってみてください
家事・暮らしの工夫の話題
暮らしの工夫の話では、日々の知恵を教えていただけます。性別を理由に料理や裁縫、仕事の経験を決めつけたり、ご家族の構成やお子さんの有無を職員側から前提にしたりしないようにしましょう。
・お料理はよくされていましたか
→「していた」と返ってきたら、「得意だったお料理はありますか」と伺います
・洗濯は、どのような道具や方法でされていましたか
→洗濯板などの話が出たら、「今と比べていかがでしたか」と広げます
・縫い物やお繕いはされていましたか
→「していない」と返ってきたら、ほかの家事を重ねて尋ねず、そこで区切ります
・節約で工夫していたことはありますか
→工夫が語られたら、「どなたに教わったのですか」と続けます
・忙しいときの段取りで、コツはありましたか
→答えにくそうであれば、無理に答えを求めず、いったん間を置きます
子育てやご家族の話は、ご本人から出てきたときに、当時大切にされていたことなどを無理のない範囲で伺ってください。
ご利用者の「今」を知る会話ネタ
最後は、今の関心を伺う2つのジャンルです。次の会話や、その方に合った活動を考える手がかりにもなりますよ。
趣味・得意なことの話題
趣味や得意なことは、職員が教わる側にまわれる話題です。教えていただく形にすると、その方の得意分野や大切にしてきたことが見えてきます。
・何か長く続けてこられたことはありますか
→答えが出たら、「どんなところが面白いのですか」と理由を伺います
・歌うことと聴くこと、どちらがお好きですか
→「聴くほう」と返ってきたら、「どんな曲をよく聴かれますか」と広げます
・育てていた植物はありますか
→植物名が挙がったら、「育てるコツはありますか」と教わる形にします
・手先を使うことはお好きですか
→「好き」と返ってきたら、「どんなものを作られていましたか」と続けます
・「これなら人に教えられる」ということはありますか
→答えが出たら、「またお話を聞かせていただけますか」と、次回の会話につなげます
最近の楽しみ・日課の話題
今の暮らしの中の楽しみは、その方の状態や気持ちを知る手がかりにもなります。体調の話をすべて避ける必要はありませんが、痛みや食欲、睡眠などケアに関わる内容が出た場合は、雑談だけで終えず、必要に応じて状態を確認し、事業所のルールに沿って記録・共有につなげましょう。
・最近、楽しみにしていることはありますか
→答えが出たら、「どんなところを楽しみにされていますか」と伺います
・朝起きて、最初にすることは何ですか
→日課が出たら、「いつごろからされているのですか」と広げます
・一日の中で好きな時間はいつですか
→時間帯が挙がったら、「その時間は何をされていますか」と続けます
・窓の外やお部屋の中で、最近気になったものはありますか
→気になるものが出たら、「どんなところが気になりましたか」と、その場で感じたことを伺います
・今日、やってみたいことはありますか
→「特にない」と言われたら、「そうなのですね」と一度受け止め、無理に答えを求めません
普段と比べて意欲や様子に変化がある場合は、必要に応じて、事業所のルールに沿って職員間で共有しましょう。
高齢者との会話を広げる5つのコツ

会話を続けるには、話題だけでなく、質問の仕方や返答を待つ姿勢も大切です。50個の質問をすべて覚えていなくても、聞き方のコツをいくつか持っておけば、その場で会話をつなげやすくなります。
ここでご紹介するのは、答えやすい質問から入り、返ってきた言葉を手がかりに一つずつ広げていくという流れです。ただし、どのように聞いても話したくないときや、体調がすぐれないときはあります。
そのようなときは無理に続けず、ご本人の様子を見ながら、改めて声をかけましょう。
答えやすい「2択の質問」から始める
広い質問に答えにくそうなときは、2択の質問が役立ちます。「何かお好きな食べ物はありますか」と尋ねるより、「甘いものとしょっぱいもの、どちらがお好きですか」と示したほうが、選ぶだけで答えられます。
ただし、2択がいつも最善とは限りません。「甘いものはお好きですか」のように、はい・いいえで答えられる質問のほうが負担の少ない方もいますので、反応を見ながら使い分けてみてください。
どちらにも当てはまらないこともあるため、「ほかにお好きなものはありますか」と添えて、無理に選んでいただかないようにしましょう。
なお、2択ばかりを続けると一問一答になり、会話が広がりにくくなります。あくまで最初のきっかけとして使い、答えが返ってきたら次のコツへ進んでみてください。
相手の答えに含まれる言葉を拾って質問する
会話を広げる手がかりは、返ってきた言葉の中にあります。新しい話題を探すのではなく、ご利用者が口にした言葉をそのまま次の質問に使ってみましょう。
たとえば「朝はごはんでした」と返ってきたら、「おかずは何がお好きでしたか」と、ごはんという言葉から一歩進めます。「畑をやっていた」と伺えたら、「何を育てていらっしゃったのですか」と続けられますね。
この方法なら、次の話題を一から考える負担を減らせます。ご本人が口にしたことに沿って進むため、関心から外れにくいのも利点でしょう。ただし、口にされた言葉が、必ずしも広げてほしい話題とは限りません。
「いつ・どこで・誰と」などを一つずつ聞く
質問は複数をまとめず、基本的には一つずつ尋ねましょう。「どこで、どなたと、どんなことをされていたのですか」と一度に聞くと、どれから答えればよいのか迷うことがあります。
まずは「どちらでされていたのですか」と場所だけを伺い、答えが返ってきてから「どなたと一緒でしたか」と次に進みます。遠回りに思えるかもしれませんが、聞きたいことを小分けにするほうが答えやすくなります。
自分の話を短く添えて質問攻めを避ける
職員が質問を重ねるだけになると、会話というより聞き取りのようになってしまいます。そう感じたときは、自分の話も短く添えてみましょう。
「私は寒いのが苦手で、冬はいつも厚着をしています。〇〇さんはいかがですか」といった形です。質問だけが続く印象がやわらぎ、答え方の例を示すこともできます。
なお、自分の話に合わせていただく必要はありません。違う答えが返ってきたら、そのまま受け止めてください。添えるのはひとことで十分で、長くなると今度はご利用者が聞き役にまわってしまいます。
前回話した内容を次の会話につなげる
一度伺ったことを覚えておくと、次にお会いしたときの入り口になります。「この前、畑仕事をされていたと伺いました。どんなものを育てていたのですか」と切り出せば、話題を一から探さずに済みますね。
ご本人が前回の会話を覚えていないこともあります。そのときは確認を求めず、初めて伺うときと同じように聞きましょう。
覚えておくと役立つのは、好きな食べ物や長く続けてこられたこと、避けたい様子が見られた話題などですが、その日の体調や気分で反応は変わります。
伺った内容を記録に残す場合は、ケアに必要な範囲に限り、事業所のルールに沿って取り扱います。ご利用者が特定できる内容を、事業所が認めていない私物の手帳や個人の端末に書き留めるのは避けましょう。
何をどこまで、どの方法で残すのかは、ご自身の職場の決まりを確認しておいてください。
高齢者との会話で避けたい話題・言葉
避けたいのは、話題そのものというより、職員側から不用意に持ち出したり、詳しく尋ねすぎたりすることです。
ここでは、職員から切り出さないほうがよいこと、ご本人から話されたときの受け止め方、そして雑談で終わらせずに専門職へつなぐべき内容を整理しました。
ご家族や過去の経験については、話すかどうかをご本人が選べるようにすることが大切です。一方、個人情報や安全に関わる内容は、事業所のルールや法令に沿って扱いましょう。
ご家族の事情に踏み込みすぎる質問
ご家族の話が、すべて避けるべき話題というわけではありません。お孫さんの写真を見せてくださる方もいますし、ご家族の思い出が会話の中心になることもあります。
気をつけたいのは、ご本人が話していないご家族の事情を、雑談として職員側から掘り下げることです。面会の調整やケアに必要な確認ではない場面で、「息子さんはいつ来られるのですか」「おひとりでお住まいでしたか」と尋ねると、面会が途絶えている方やご家族と疎遠になっている方には答えづらいことがあります。
雑談では、ご本人が触れたところまでを一緒にたどるくらいの距離感がちょうどよいですね。
病気・死・つらい経験を職員側から不用意に持ち出すこと
病気や死別、戦争や災害の経験を、雑談のきっかけとして職員側から持ち出すことは避けましょう。その経験がご本人にとってどれほど重いものなのか、こちらには分からないからです。
一方で、ご本人から話されることはあります。そのときは、すぐに話をそらしたり無理に励ましたりせず、まずは気持ちを受け止めましょう。そのうえで表情や反応を見ながら、話を続けてもよいかを確かめます。
「話題を変えないほうがよい」と決めてしまうと、休みたいときにも会話が続いてしまいます。つらそうであれば無理に掘り下げず、そこで区切って構いません。
病名や障害、身体機能について、興味本位で詳しく伺うことは避けます。一方、体調確認や安全なケアのために必要な場合は、何のために確認するのかを伝えたうえで、必要な範囲で伺いましょう。
なお、健康法や治療法を職員個人の判断で勧めることはしません。
雑談で終わらせず、報告・相談につなぐべき話
死にたいという発言や強い落ち込み、虐待をうかがわせる話、痛みや食欲・睡眠の変化など医療職への相談が必要と思われる訴えが出た場合は、雑談として終わらせず、事業所の手順に沿って速やかに管理者や専門職へ報告しましょう。
特に虐待が疑われる場合は、事業所内だけで抱え込まないでください。高齢者虐待防止法では市町村への通報について定められています。養介護施設従事者等が、自分の勤務先などで、ほかの従事者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、通報義務があります。
参照:「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(第7条・第21条)」
ご本人や周囲の安全に関わる切迫した状況では、安全を確保しながら、通常の申し送りを待たずに事業所の緊急対応手順に従ってください。
ほかのご利用者の個人情報やうわさ話
ほかのご利用者の話を、会話のネタにすることは避けましょう。「〇〇さんも同じ病気なんですよ」といった一言は、その場を和ませるつもりであっても、話題にされた方の信頼を損ないます。
個人情報はお名前だけではありません。ご家族との関係、病気、これまでの暮らし、施設内での出来事なども、組み合わせるとどなたのことか分かってしまいます。
ご本人が話してくださった内容も同じです。ケアに必要のないご家族の事情や私生活を、ほかのご利用者との会話に使わないようにしてください。
子ども扱いする言葉や年齢を決めつける話し方
ご本人の意向を確認しないまま、「〜ちゃん」と子ども扱いするように呼んだり、赤ちゃん言葉で話しかけたりすることは避けましょう。厚生労働省の資料では、子ども扱いするような呼称で呼ぶことが、心理的虐待にあたる「侮辱的な発言、態度」の具体例として挙げられています。
参照:「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について(令和8年3月改訂)第Ⅰ章 高齢者虐待防止の基本」
ただし、呼び方だけで一律に判断できるものでもありません。ご本人が望んでその呼び方をされている場合もありますので、呼び方はご本人の希望と事業所の決まりに沿って決めましょう。
親しくなったから構わない、という話ではないところに注意が必要です。
「お年だから仕方がないですよ」といった言い方も控えます。年齢だけを理由に、できることや望んでいることを決めつけてしまうからです。
高齢者との会話が続かないときは?状態に合わせた話しかけ方

話しかけても返事が返ってこないと、自分の聞き方が悪かったのかと気になってしまいますよね。けれど会話が続かない背景には、性格や会話の好みだけでなく、聞こえ方、体調、疲労、痛み、言葉の出にくさ、周囲の環境などが関係している場合があります。
同じ話題でも、ご本人の状態に合わせて話しかけ方を変えると、届き方が変わることがあります。
ここでは、口数が少ない方、耳が聞こえにくい方、言葉が出にくい方、認知症のある方について、それぞれの関わり方を見ていきましょう。
会話の基本となる関わり方|相手のペースに合わせ、気持ちを受け止める
ご本人の状態にかかわらず、多くの場面で土台となる関わり方があります。
まずは急に近づかず、ご本人の視界に入る位置から声をかけましょう。会話するときは、お互いの表情を確認しやすく、ご本人が負担に感じにくい距離や向きを探ってみてください。
返答を急かさないことも大切です。言葉が出てくるまでに時間がかかる方もいますので、声の大きさや話す速さを相手に合わせ、間を待ちましょう。出てきた言葉をすぐに否定しないようにします。
言葉で伝わりにくいときは、場面に合った表情やうなずき、穏やかな声の調子なども、気持ちを伝える手がかりになります。なお、手を取るなど身体に触れる場合は、ご本人の意向や反応を確かめ、嫌がる様子があれば行わないでください。
口数が少ない・会話を好まない様子のご利用者
あまりお話しにならない方に対して、「人見知りだから」と一括りにしないようにしましょう。体調がすぐれない、疲れている、痛みがある、周囲がにぎやかで落ち着かない、ほかの方との関係が気になるなど、理由はさまざまです。
沈黙を無理に埋めようとせず、静かに同じ空間で過ごすことも、関わりの一つになり得ます。
ただし、ご本人が一人で過ごしたい様子のときは、必要な見守りを行いながら距離を取ってください。
耳が聞こえにくいご利用者
聞こえにくさは、決して珍しいことではありません。厚生労働省の資料によると、加齢に伴って聴力は低下する傾向があり、75歳以上では約半数の方が聞こえにくさを感じているともいわれています。
難聴は周囲とのコミュニケーションを難しくし、社会的な孤立や認知機能に影響する可能性も指摘されています。
参照:「加齢性難聴とは?」
同省では、聞こえにくい方への心がけとして次の4点を挙げています。
・ゆっくり、言葉をはっきりと話す
・正面から、口の動きを見せて話す
・聞き取りやすい言葉に言い換える
・テレビを消して話をするなど、聞きやすい環境を心がける
参照:「「聞こえにくさ」感じていませんか?」
なお、大きな声で繰り返しても、うまく伝わらないことがあります。声量だけに頼らず、上の4点もあわせて意識してみてください。
筆談や身振りが役立つ場面もありますが、どなたにも合う方法とは限りませんので、ご本人が使いやすい方法を確かめてみてください。
言葉が出にくい・意思を伝えにくいご利用者
言葉が出にくい原因も、使いやすい方法も、人によって異なります。ご本人が得意とする方法やケア計画、言語聴覚士など専門職からの助言を確認したうえで、選択肢、写真、絵、実物、身振りなどを組み合わせましょう。
たとえば失語症では、話すことだけでなく、話を聞いて理解すること、読むこと、書くことにも支障が生じる場合があります。
参照:「意思疎通支援」
そのため、筆談が必ず適しているとは限りません。ご本人の状態に応じて、言葉以外の手段も組み合わせていきましょう。
先回りして答えを決めてしまわず、伝えようとしていることを待ちましょう。一度に複数のことを尋ねるのも避けてください。
認知症のあるご利用者
認知症のある方との会話では、受け止め方と伝え方に工夫の余地があります。
同じ話を繰り返されたときは、訂正だけに偏らず気持ちを受け止める
同じ話が何度も続くと、つい「さっきも聞きましたよ」と返したくなるかもしれません。けれど間違いを正すことだけに偏らず、ご本人が何を伝えようとしているのか、どのような気持ちでいるのかに目を向けてみてください。
国立長寿医療研究センターの資料でも、「また忘れたの?」「さっき言ったでしょ」といった言葉は、ご本人の心を傷つけることがあると説明されています。「前にも言いましたよ」という言葉も、記憶を責められたように感じさせる可能性があります。
もちろん、服薬や外出、安全の確認など、事実をはっきりさせる必要がある場面もあります。事実を確かめてはいけない、という話ではありません。
一度に一つの内容を短く伝える
職員から何かを伝えるときは、内容を一つに絞りましょう。「あれ」「それ」といった曖昧な言葉は避け、短く、はっきり、具体的に話します。必要に応じて身振り手振りを加えると、伝わりやすくなりますよ。
伝わっていないと感じたら、言い方を変えて繰り返したり、紙に書いて示したりする方法もあります。ただし、読み書きや視力の状態によって合う方法は異なりますので、ご本人の反応を見て選びましょう。
高齢者との会話ネタが尽きたときに使えるきっかけ
話題を用意していても、続けているうちに何を話せばよいか分からなくなることはありますよね。そんなときは、言葉だけで質問を重ねるのではなく、写真や物、音楽、季節の行事などを会話に取り入れてみましょう。
目の前に写真や物があると、話題を具体的にしやすくなります。「これ、懐かしいですね」の一言から始められるので、職員にとっても、次は何を話そうかと考え続ける負担が軽くなりますよ。
写真・音楽・昔の道具を会話のきっかけにする
写真や音楽、昔使っていた道具は、会話のきっかけとして活用しやすい素材です。洗濯板や火鉢、古い写真を一緒に見たり、懐かしい歌を聴いたりすると、言葉だけに頼らずに話を進められます。
専門的な方法としては、回想法が知られています。回想法では、昔の写真や道具などを手がかりに、過去の経験や思い出を語り合います。認知症の非薬物療法のひとつですが、科学的根拠は十分に強いとはいえず、効果の大きさや現れ方は実施方法や場所によって異なります。
参照:「認知症に対する回想法」
ただし、写真や道具を見ながら雑談することが、すべて専門的な回想法にあたるわけではありません。
なお、昔の話がいつも楽しい記憶とは限りません。死別や災害、戦争、ご家族との関係など、つらい記憶が呼び起こされることもあります。
ご本人の表情や反応を確かめながら、無理に思い出を尋ねないようにしてください。
懐かしい話題をもう少し用意しておきたい方は、「高齢者向け昭和クイズ30問」もあわせてご覧ください。
クイズや連想ゲームから思い出話に広げる
手元に何もないときは、クイズや連想ゲームから入るのもひとつの方法です。複数人で取り組みやすく、答えをきっかけに参加者同士の会話が生まれることもあります。
答えが出たら、そこで終わらせずに一言添えてみてください。「使ったことはありますか」「ご家庭ではどのようにされていましたか」など、答えに関連づけて伺うと、そのまま思い出話へつなげやすくなります。
・【介護レク】高齢者が盛り上がる言葉遊びゲーム14選 ホワイトボード1枚でできる脳トレ
・【高齢者向け】盛り上がる「私は誰でしょう」クイズ40選
・【保存版】高齢者向け連想ゲームのお題一覧100選
・道具なしでできるレクリエーション
季節の行事や風物詩を「話題のカレンダー」として使う
一年の行事を頭に入れておくと、毎月の話題に困りにくくなります。お正月、節分、ひな祭り、花見、七夕、お盆、お月見、紅葉、年の暮れなど、季節ごとにさまざまな話題があります。
これらは多くの地域や家庭で親しまれてきましたが、過ごし方には地域差や家庭ごとの違いがあります。「そちらではどのように過ごしていましたか」と伺えば、その方の暮らしや地域の話へ広げやすくなります。
事業所で行事を予定している場合は、準備の話題にもつなげられますよ。壁のカレンダーや飾りを一緒に見ながら話すと、目の前の季節から会話を始めやすくなります。
高齢者との会話ネタに関するよくある質問
最後に、介護現場でよく聞かれる質問をまとめました。
初対面の高齢者にはどのような話題から始めればよいですか?
天気や季節、その日の食事など、目の前の状況から始めるのがおすすめです。その場で共有しやすい話題なので、初対面でも切り出しやすいでしょう。
「暑いのと寒いの、どちらが苦手ですか」のように、2つの選択肢から選んでいただく聞き方も入口として使いやすいでしょう。広い質問と2択の使い分けについては、「高齢者との会話を広げる5つのコツ」をご覧ください。
高齢者が話したくなさそうなときも声をかけるべきですか?
無理に雑談を続ける必要はありません。ただし、挨拶や必要な体調確認・ケアは行い、ご本人が落ち着いて過ごせる距離で見守ります。
話したくない理由は、その日の体調や疲れ、周囲の環境などさまざまです。今日は言葉が返ってこなくても、別の日には話してくださることもありますので、焦らず関わってみてください。
高齢者との会話内容は記録や申し送りに残すべきですか?
すべての雑談を記録する必要はありません。ご本人の希望、体調や生活状態の変化、不安や困り事、安全上の懸念など、ケアの継続や安全確保に必要な内容を、事業所のルールに沿って記録・共有します。
判断に迷ったときは、自分だけで決めず、事業所の基準に照らして確認しましょう。そのうえで、今後のケアや安全に関わる内容かどうかを目安にしてみてください。
私的な会話を必要以上に詳しく残さないことも、ご本人との信頼を守るうえで大切です。
まとめ
高齢者との会話ネタは、たくさん覚えておく必要はありません。早見表からひとつ選んで持っていくだけでも、その日の関わり方は変わります。
大切なのは、話題を探し続けることよりも、返ってきた言葉を拾うことです。「朝はごはんでした」と伺えたら「おかずは何がお好きでしたか」と、目の前の一言から次の質問をつくれば、会話を広げやすくなります。
思うように言葉が返ってこない日もあるでしょう。そんなときは聞き方を変えたり、写真や昔の道具を間に置いたりと、いくつかの引き出しを持っておくと気持ちが楽になります。
会話を重ねると、その方の好きなものやこれまでの歩みが少しずつ見えてきます。それは日々のケアを考えるうえでも、大切な手がかりになります。
今回ご紹介した50の質問例と広げ方、明日の勤務からぜひ活用してみてください。
この記事の執筆者![]() | Shift Life編集部 介護現場での実務経験を持つライターと、介護報酬・制度に精通した編集スタッフが連携し、現場で役立つ情報をお届けしています。 制度・加算に関する情報は、厚生労働省・自治体などの公的機関が発行する一次情報を優先的に参照し、掲載前にファクトチェックを実施しています。 |
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