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介護現場のヒヤリハット事例集【10事例】介護事故を防止するために

介護現場のヒヤリハット事例集

介護現場での事故防止は、入所者や利用者を守ると同時に施設や従業員を守る大切な課題です。日々の業務の中で起こる小さなヒヤリハットが、重大な事故やリスクを未然に防ぐための鍵となります。
 
この記事では、実際に起こった介護現場のヒヤリハット事例10例ピックアップし、それぞれの事例から学ぶべき教訓と対策を探ります。
 
介護職の皆さんが日々の業務で直面するリスクや課題について理解を深め、安全なケアの実践につなげる一助となることを目指しています。

介護現場のヒヤリハットとは

食事でむせる高齢者

介護現場におけるヒヤリハットとは、日常業務の中で起こる事故やトラブルなど、大きな事故に至る前の状況を指します。

例えば、入所者や利用者のいつもと異なる体調変化、転倒や転落などが起こりそうな状況、設備の不具合、コミュニケーションの不足などが考えられます。これらの小さなサインが、事故や健康リスクを未然に防ぐための重要な手掛かりとなります。

介護職員は、日常業務の中でこうしたヒヤリ・ハットに敏感に対応し、早期に適切な対策を取ることが求められます。

事故防止やヒヤリハットについて、ハインリッヒの法則というキーワードが登場します。ハインリッヒの法則は、労働安全に関する経験則で、「事故の根本原因は多くが安全でない行動や状況に起因する」という理論です。

具体的には、重大事故が1件発生する前に、軽微な事故や違反行動が30件、事故に至らなずにヒヤリとする状況が300件発生すると言われています。この法則により、事故防止や安全管理が重要で、早期の小さな事故やヒヤリハットの対応が重大事故を未然に防ぐ効果があるとされています。

介護現場のヒヤリハット事例集

介護現場では、いつどこで事故が起こってしまっても不思議ではありません。インターネットで検索すると様々な事故の集計や調査結果を見ることができますが、居室や食堂など滞在時間が長い場所や、トイレや浴室などの普段とは異なる動作を行う場所で事故やヒヤリハットが多いことがわかります。

また、事故の統計を見て概ね毎年同じような傾向があり、転落や転倒事故、服薬に関する事故などが多いことがわかります。昨今は感染症による事故が増加していますが、コロナウイルスの拡大による影響と考えられます。

参考:青森県南部町「令和3年度介護事故・ヒヤリハットの発生状況調査の集計・分析結果」 P11

介護事故の発生場所

参考:福岡市「令和4年度福岡市 介護サービス事業所事故報告統計」 P2

介護事故の種別別

介護現場のヒヤリハット事例【転倒・転落関連】

介護施設での高齢者の転倒

介護現場の事故やヒヤリハットで最も多いのが、転倒や転落による事例です。高齢者は足腰の筋力が弱まっていることや視力の低下、認知症状などにより思わぬ転倒や転落が起こります。

実際にどのような事例で、事故やヒヤリハットが起こっているのかを見てみましょう。

事例1【トイレ内での転落】

・内容
排泄介助中に尿取りパッドを取り行こうとして側を離れたところ、利用者が立ち上がろうとして便座から転落しそうになりました。

・原因
トイレ内の床が濡れて滑りやすくなっていたため、利用者がバランスを崩して転倒した。また、手すりの設置が不十分であった。

・対策
定期的に床の乾燥状態を確認し、滑り止めマットを設置する。また、トイレ内に手すりを増設し、利用者が安全に利用できるように環境を整える。
尿取りパッドを予め用意するなど、目を離さないで介助できるようにする

事例2【椅子やベッドからの転倒】

・内容
利用者が椅子から立ち上がろうとした際にバランスを崩し、床に転落しました。腰部に軽い打撲を負いましたが、幸いにも重大な怪我には至りませんでした。

・原因
椅子やベッドの高さが利用者に適していなかったため、立ち上がる際に不安定になった。また、介助が不十分であった。

・対策
利用者ごとに適切な高さの椅子やベッドを選定し、立ち上がる際は介助を徹底する。また、転落防止のためのベッドレールや椅子の肘掛けを活用する。

事例3【車椅子からの転落】

車椅子からの転倒は介護施設の中でも最も多い事故のひとつと言えます。

・内容
ブレーキを掛けずに立ち上がりそのまま転落してしまった。

・原因
高齢者の力では、ブレーキを掛けづらい車椅子がある
麻痺のある利用者の場合、患側のブレーキを掛けにくく、しっかりとブレーキがかからない場合がある
認知症等によりブレーキを掛けることを忘れてしまい立ち上がってしまう

・対策
利用者の体格やADLに合わせた車椅子の選択
転倒防止バーの設置や自動ブレーキ機能の車椅子の選択
車椅子利用時の見守りや普通の椅子に腰を掛けてもらうなどの対応

事例4【浴室内の転倒】

・内容
介護施設の利用者が浴槽に入ろうとした際に足を滑らせて転倒し、膝を強打しました。幸い、骨折などの重傷は避けられましたが、痛みと腫れが生じました。

・原因
浴槽の縁が高く、また浴室の床が濡れて滑りやすくなっていたため、バランスを崩した。補助具の使用が不十分であった。

・対策
浴槽の縁に滑り止めを設置し、浴室の床に滑り止めマットを敷く。また、利用者が浴槽に入る際には必ず補助具や手すりを使用するように指導する。入浴中は服を掴んで支えることができないため、特に注意が必要となる。

介護現場のヒヤリハット事例【食事・嚥下介助関連】

配膳をする介護士

介護施設において、利用者の食事は日々のケアの中で非常に重要な役割を担っています。食事中の誤嚥や嚥下障害に関連する事故は、命に関わる事故にも繋がります。

これらの事故を未然に防ぐためには、利用者一人ひとりの嚥下機能を的確に評価し、適切な食事形態や介助方法を提供することが不可欠です。

事例5【食事中の誤嚥】

・内容
介護施設の利用者が食事中に誤って食べ物を飲み込み、咳き込みました。すぐに対応したため、大事には至りませんでしたが、窒息の危険がありました。

・原因
食事の形態が利用者の嚥下能力に適していなかったため、誤嚥が発生した。また、食事中の見守りが不十分であった。

・対策
利用者の嚥下機能を定期的に評価し、それに応じた食事形態を提供する。また、食事中は必ず介護スタッフが見守り、適切な食べ方を確認する。体調が悪い時など、いつもと様子が異なる場合は特に注意して見守りを行う。

事例6【入歯を付け忘れる】

・内容
利用者が入歯を付け忘れたまま食事を開始し、食べ物をしっかりと噛むことが出来ずに誤嚥の危険が生じました。幸い、スタッフが早期に気付き大事には至りませんでした。

・原因
介助スタッフが入歯の装着を確認せずに食事を提供したため、利用者がそのまま食事を摂ってしまった。

・対策
食事前に入歯の装着を確認するチェックリストを作成し、介助スタッフ全員に周知徹底する。また、利用者にも食事前に入歯を確認するよう促す。

memo

 
以前、介護老人保健施設で働いていた際に、「入れ歯の紛失」という事例を何度も見てきました。ご利用者様が食べ残しの汁物椀に入れ歯を入れてしまったり、ティッシュペーパーに包んで居室内のゴミ箱に破棄してしまったり、その度に職員と一緒にゴミ庫を探したり…ということもありました。入歯は高価なものなので、破損や紛失にも十分気をつける必要があります。

事例7【熱いお茶がこぼれ、身体にかかってしまった】

・内容
利用者が熱いお茶を誤ってこぼし、腕にかかって軽い火傷を負いました。応急処置を行い、大事には至りませんでした。

・原因
利用者が安定した姿勢でお茶を飲んでいなかったため、手元がくるってこぼしてしまった。また、お茶を入れすぎたことでカップが重く、うまく持つことができなかった。

・対策
利用者が安定した姿勢で飲み物を摂取できるよう、サポートする。また、取っ手付きの安定したカップを使用し、温度を適切に調整する。高齢者は握力が弱まっている場合があるため、飲み物の量を調整し入れすぎないようにする。

介護現場のヒヤリハット事例【服薬関連】

介護施設での服薬管理

介護施設における服薬管理は、利用者の健康維持と医療の一環として非常に重要な役割を果たしています。しかし、高齢者は複数の種類の薬を飲んでいたり、服用時間が人によってことなったり、誤薬や服薬忘れなどのヒヤリハット事例が発生するリスクも高まります。

これらの事例は、利用者の体調を悪化させるだけでなく、命に関わる重大な問題となり得ます。

事例8【朝食後と夕食後の飲み間違え】

・内容
利用者が朝食後に飲む薬と夕食後に飲む薬を誤って服用しました。幸い、大きな副作用はなく、体調にも影響はありませんでした。

・原因
薬の管理が不十分で、朝食後と夕食後の薬が混在していたため、利用者が誤って服用した。

・対策
服薬カレンダーを導入し、薬の時間帯ごとに分けて管理する。また、スタッフが二重確認を行い、利用者に適切な服薬を徹底する。
薬を一包化することで、服薬が誤らないように徹底する。

事例9【利用者が隣の利用者の薬を飲もうとした】

・内容
介護施設の利用者が間違えて隣の利用者の薬を取り、飲もうとしました。スタッフが間一髪で防ぎ、被害はありませんでした。

・原因
利用者同士の薬の位置が近く、混同しやすかったこと。利用者が口に入れるまで見守らなかったこと。

・対策
各利用者ごとに明確な薬の収納場所を設け、間違いを防止する。薬の管理と配布は厳格に行い、スタッフが定期的に確認を行う体制を整える。しっかりと服薬が出来たか、口に入るまで見て、飲み込んだことを確認してから別の利用者の対応を行う。

食事関連

食事関連のヒヤリハットは、食事形態や食べ物の適温管理、アレルギーや禁食など様々な事例で起こります。食事関連の事故やヒヤリハットは、利用者の安全を脅かす可能性があるため、スタッフの正確な見守りと適切な対応が求められます。

事例10【食事形態の制限があるが普通食を食べそうになった】

・内容
利用者が食事形態の制限(例:嚥下障害での流動食)を忘れ、普通食を食べようとしました。幸いスタッフが気付くことが出来たので、大事には至らずにすみました。

・原因
食事制限の理解不足や、利用者自身の意識の低下が原因となった。また、厨房との連携が不足して厨房に情報が伝わっていなかった。

・対策
配膳時に食事形態が正しいかを毎回チェックする。適切なタイミングで厨房に食事箋を提出し、食事形態を書いたプレートを用意するなど、見た目でわかるような工夫を行う。

介護現場でヒヤリハットを放置するリスク

介護現場でヒヤリハットを放置することは、更に大きな事故に繋がる可能性があります。例えば、利用者が転倒して重篤な怪我を負う、誤嚥によって窒息の危険が生じる、または薬の誤服用が健康に悪影響を与えるなどの事態が起こり得ます。

これらのヒヤリハットが放置されると、利用者の安全や健康に直接影響を及ぼすだけでなく、施設の信頼性や運営の質にも大きな影響を与えかねません。

介護事故を防止するためにもヒヤリハット報告の有効活用を

介護事故を防止するためには、ヒヤリハット報告の有効活用が不可欠です。ヒヤリハット報告は、日常の業務遂行中に気付かれたリスクや問題点を記録し、共有することで、将来の事故やトラブルを予防する役割を果たします。

これにより、スタッフ間での情報共有が促進され、安全対策が効果的に実施されると同時に、組織全体の意識向上にもつながります。

ヒヤリハット報告は、安全な介護環境を維持するための重要なツールであり、積極的に活用されることが重要です。施設によってどの基準がヒヤリハットで、どの基準が事故報告になるのか異なることもあります。

大切なのは、ヒヤリハットや事故報告は職員のミスとして片付けることなく、大切な情報として取り扱うことです。そして、ヒヤリハットを出すことを面倒なことと思わず、しっかりと提出してもらうことも大切です。

特に、ヒヤリハットを書いて上司に提出して終わりにしてしまっては、各スタッフに共有されませんので、常に目を通せるように回覧したり綴って誰でも読めるようにしたり、介護システムで共有してみんながみられるようにするなどの工夫も必要です。

自分たちの身を守るための記録の重要性

最近では、介護施設での事故により施設が訴訟に巻き込まれるケースが増加しています。現実的には限られた人員の中で最善を尽くしても、事故を完全にゼロにすることは現実的に難しいと言わざるを得ません。

しかし、家族からすれば、介護のプロに任せているのに事故が起こることに納得がいかない面もあるでしょう。特に最近では、感染症の拡大により面会が制限されている施設があり、家族は利用者の具体的な状態を把握しづらくなっています。

遠方に住む家族などは、まれにしか面会に来ないため、利用者の健康状態の変化に気付きにくいこともあります。その結果、以前の元気な姿をイメージしてしまうこともありますが、そうした状況で事故が発生し、施設が家族から訴えられるケースも起こり得ます。

そのような場合、施設や職員自身を守るためにも、適切な記録が重要です。日々の業務でヒヤリハットが発生している利用者は、事故の危険性も含んでいます。その際に、普段の記録があれば、客観的な事実として家族にも伝えることができます。

私自身も以前、勤務していた介護老人保健施設に入所中の高齢者が転倒して骨折し、家族から訴えられた経験があります。普段から頻繁に面会に来ていた家族は、利用者の健康状態を理解しており、事故について訴えることはありませんでしたが、遠方の親戚からは慰謝料を求める連絡がありました。

その際には、すべての介護記録を証拠として提出しました。ヒヤリハットや介護記録は、自己防衛のためにも、しっかりと残すべきであると強く感じました。

ヒヤリハット報告書の書き方、例については以下の記事を参考にしてみてください。

ヒヤリハット報告書 関連記事

介護現場のヒヤリハット報告書の書き方を事例でわかりやすく解説!
ヒヤリハットの重要性と報告書の書き方、その利用方法を解説。重大事故を未然に防ぐためにもヒヤリハット報告はとても大切です。

まとめ

ヒヤリハットは、日常の業務で発生する潜在的な危険や問題点を早期に把握し、それに基づいて安全対策を実施するための重要な手段です。これにより、利用者の安全を確保すると同時に、施設の信頼性と介護の質を向上させることが可能です。

積極的にヒヤリハットを報告・分析し、その結果をもとに教育や改善を行うことが、介護事故の未然防止につながると言えます。また、積極的にヒヤリハットを提出させるためには、管理者の意識も重要になります。

ヒヤリハット事例を施設内、職員間でしっかりと共有し対策を行うことによって、よりよい施設運営に繋がっていくことが一番の理想ではないでしょうか。そうした施設の文化を作っていくことも、管理者の大切な役割といえるでしょう。

また当サイト内には、他にも介護施設のリスクマネジメントに関連した記事を掲載しています。
こちらもぜひご覧ください。

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この記事の執筆者伊藤

所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士

20年以上、介護・医療系の事務に従事。
デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。
現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。

 

 

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