特別養護老人ホームでは、高齢者を対象に24時間の介護が提供されています。病院と違い、「医療」というより「生活の場」を提供している施設ですが、介護職員だけではなく、看護職員も配置することが義務付けられています。
また夜間は、看護師は常駐せずにオンコール体制を取っている施設も多いです。高齢者が暮らしているため、夜間に急変することも考えられます。その場合は、夜間の介護職員のみでどのように対応しているのでしょうか。
この記事では、特養での看護師の配置基準、夜勤やオンコールに関して詳しく解説します。特養への転職を考えている看護師の方や、特養での夜間の医療体制について知りたい方の参考になれば幸いです。
目次
特別養護老人ホーム(特養)とは
特別養護老人ホームとは、要介護3以上の方を対象に24時間にわたって「入浴、排泄、食事などの介護、その他の日常生活の世話、機能訓練、健康管理及び療養上の世話」を提供する施設です。省略して「特養」と呼ばれるのが一般的です。
社会福祉法人や地方自治体の運営による公的な施設で数も多く、比較的費用が安いのが特徴です。そのため入所希望者も多く、申し込みをしても入居まで時間がかかることも多いです。
また、特養は看取り対応をしている施設も多く、重度の要介護状態になっても住み続けられる「終の棲家」としての特徴もあります。
特養の看護師の配置基準
人員配置基準とは、介護保険法と老人福祉法で定められている、介護保険サービスを提供するために必要なスタッフの基準です。この基準を満たさないと介護報酬の返金や指定取り消し等、さまざまな処分があります。
特養には介護職員だけでなく看護師の配置も義務付けられています。
特養には大きく分けて「従来型」と「ユニット型」の2種類のタイプがあります。それぞれの看護師の配置基準について見ていきましょう。
従来型の特養の場合
従来型特養とは、1つの部屋を1~4人ほどの利用者が使用する多床室タイプの特養です。入居者3人に対して介護職員か看護師が1人以上必要です。
そして看護師の場合は、利用者が30人以下の施設では1人以上、31人から50人の場合は2人以上、51人から130人の場合は3人以上が配置されていなければなりません。
ユニット型の特養の場合
ユニット型特養とは、10人以下の少人数グループを生活単位(ユニット)として区分けした、全室個室タイプの特養です。ユニットごとに個室や食堂などの共用スペースが設けてあります。
従来型特養での配置基準に加えて、昼間は、1ユニットごとに常時1人以上の介護職員か看護職員を配置、夜間は、2ユニットごとに1人以上の介護職員か看護職員を配置しなければいけません。
特養の看護師 夜間の配置基準は?
特養の場合、看護師の24時間の配置は必須ではありません。そのため、基本的に特養の看護師に夜勤はありません。その代わり、夜間の緊急時対応のため、ほとんどの施設では夜間のオンコール体制を取っています。
特養の看護師は夜勤をすることもある?
前述の通り、特養では24時間の看護師の配置は義務ではないため、特養の看護師が夜勤をすることはほとんどありません。ですが、夜間はオンコール対応が必要である場合が多いです。
そのため特養に勤務する看護師は、日勤帯だけの募集がほとんどです。
( 早出や遅出など、日勤帯の変則勤務はあります )
特養で看護師を夜間も配置する施設の割合
日本看護協会の「特別養護老人ホーム・介護老人保健施設における看護職員実態調査」によると、特養の看護師で夜勤・当直があるとの回答はわずか5.2%で、91.8%の施設は夜間オンコール体制となっています。
参考:特別養護老人ホームにおける看護提供体制について
ほとんどの特養では最低基準を上回る看護職員配置を行っていますが、夜間に看護職員が常駐可能な施設は極めて少ないため、ほとんどの施設がオンコール体制を取っているといえるでしょう。
特養看護師の夜間オンコールについて
それでは、特養で働く看護師は、どのように夜間のオンコールに対応しているのでしょうか。項目に分けて解説していきます。
夜間オンコールについて
オンコールとは、緊急を要する際に、すぐ対応ができるように待機する勤務形態のことです。緊急時に駆けつけられるように、基本的には自宅などで待機することになります。自宅でなくても、一般的には職場まで30分程度で駆けつけられる距離にいる必要があります。
また、いつオンコールがあっても対応できるように、飲酒などの判断能力が損なわれる行為は避けます。
オンコールは、私用のスマートフォンで対応している場合もありますが、施設によってはオンコール用の携帯電話が支給されます。待機中は連絡にすぐに対応できるように、常に持っておく必要があります。
夜間オンコールの手当について
夜勤や当直勤務とは異なり、オンコール待機中は勤務時間外のため、給料は発生しません。その代わりに「オンコール手当」が支給されます。一般的には介護施設ではオンコール手当は、1,000〜2,000円/回が相場とされています。
実際に、オンコールで出勤した場合は、時間外労働として別で支給されるか、定額の手当が支給されます。
夜間オンコールの頻度について
オンコールでは、夜勤の介護職員からの問い合わせや相談に対応します。オンコールがあっても必ずしも出勤するとは限らず、電話での指示で解決することもあります。
日本看護協会の「特別養護老人ホーム・介護老人保健施設における看護職員実態調査報告書」によると、オンコール待機中の電話対応の平均回数は、特養では「2.4回/月」となっており、オンコール待機中に出勤した回数は「0回」と回答した施設が多い結果となっています。
また、オンコール当番の頻度は、その施設のオンコール対応可能な看護師の人数によって変わります。特養では配置されている看護師の数が少ないので、一人当たり月に5~10日ほど当番が回ってきます。
看取り対応を行っている施設では、夜間に入居者が亡くなることも多いです。その場合にはオンコールを受けて出動し、家族対応・医師への連絡と対応・エンゼルケア・お見送りまで行う必要があります。
夜間に医療行為が必要になったらどうする?
現状では、夜間は看護職員が不在のため、施設内での医療的な緊急対応は困難です。そのため夜間に急変し、施設で様子を見ることができないと判断した入居者については、病院へ救急搬送することになります。
それぞれの施設によって普段から行うことができる医療行為は様々ですが、酸素吸入や点滴を行わないとする施設も多いです。そのため、夜間に呼吸状態が変化したりした際は、病院へ搬送するしか方法がない場合があります。
しかし、呼吸状態が変わらなかったり、他の症状を伴わない発熱の場合は、看護師へオンコールし指示を受けた上で、解熱剤やクーリングで様子を見て、翌朝に看護師が出勤してから搬送するということもあります。
また、高齢者施設では、夜間の転倒や転落による外傷も多いです。止血できる程度の傷であれば様子を見ることができるケースもありますが、血が止まらなかったり頭部を激しく打撲したりした場合は、オンコールし搬送します。
夜間の搬送については、夜勤の介護職員が救急車へ同乗する場合もありますし、オンコールを受けた看護師が施設に到着次第、同乗し搬送する場合もあります。
いずれにせよ、夜勤の介護職員だけで判断するのではなく、オンコールを行い看護師から指示を受けて対応することで、入居者の安全が保たれています。
夜間オンコールに向いているひと
「飲酒や外出を控えることに抵抗がない」「夜間の呼び出しに抵抗がない」といったひとは、オンコール勤務に向いているでしょう。
オンコール当番のときは、基本的には普段通りの過ごし方で問題ないですが、すぐに対応できるように、飲酒や遠くへ行くような外出を控えなければいけません。また、オンコールで指示を求められたときでも冷静に、適切な指示を出さなければいけないため、責任感が求められます。
夜間オンコールに向いていないひと
「育児や介護で急な対応が難しい」「仕事とプライベートの時間はきちんと分けたい」「夜間に電話が鳴っても絶対に気がつかない」といったひとは夜間オンコールは向いていないかもしれません。
子育てや介護などで忙しく、急な出勤や電話対応が難しい方には、オンコールを採用している職場はおすすめしません。また、オンコール当番のときには、急な連絡にも備えておく必要があるため「仕事が終わったら好きなことをして仕事のことを考えたくない」という方には向いていないでしょう。
「寝ていたら電話に気づかない」と思う方もいるかもしれませんが意外と起きられます。それでも電話に出られないと意味がないため、一度試してみてはいかがでしょうか。
まとめ
特養では、看護師は夜勤をせずにオンコール体制をとっている施設がほとんどです。夜間にオンコール対応ができないとなると、正職員としての採用が難しいといわれるケースもあります。
しかし、オンコールは頻繁にあるものではありませんし、電話を受けても出動が不要なケースも多いです。夜間ひとりで判断することにプレッシャーを感じることもあるかもしれませんが、就職後仕事に慣れるまでは、すぐにオンコール対応とはならないですし、他のスタッフと相談しながら対応すれば問題ありません。
しかし、オンコール当番のときは、飲酒や遠出は控えなければいけないため、プライベートの時間を確保するのが難しいのも事実です。
特養への転職を考えている看護師の方は、まず自身がオンコールに対応できるのか考えてみましょう。オンコール対応が必要ない施設もありますが、オンコール対応ができれば職場の選択肢が広がりますよ。
この記事の執筆者 | 槇野りっか 保有資格: 看護師 急性期病院で看護師として2年勤務、その後特養で介護士として半年、看護師として5年勤務、介護業界で仕事をしてきました。 現在は介護・福祉系ライターとしても活動中。 |
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