この記事では、介護施設のヒヤリハット事例集として、介護現場でよくある17の事例を場面別に紹介します。
転倒・誤嚥・服薬・入浴・送迎・認知症など、日々の業務で起こりやすいケースを、考えられる原因と対策例、ヒヤリハット報告書の例文とあわせてまとめました。
ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、事故につながる可能性があった出来事を指します。
日々の業務で起こる小さなヒヤリハットを見逃さず記録・共有することは、重大事故を未然に防ぐための重要な手がかりとなります。
特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・デイサービスの施設長を務めた経験をもとに、現場で実際に起こりやすい場面を中心に構成しています。ご利用者の安全を守ると同時に、施設や職員を守るための実践的な事例集としてご活用ください。
なお、本記事の内容は、厚生労働省が令和7年11月に公表した「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」を踏まえて整理しています。
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介護現場のヒヤリハットとは

この章では、介護現場におけるヒヤリハットの基本をまとめます。ヒヤリハットの定義、介護事故との違い、そして事故防止の考え方として知られるハインリッヒの法則について、現場で押さえておきたいポイントを整理しました。
ヒヤリハットの定義
ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、事故につながる可能性があった「ヒヤリとした」「ハッとした」出来事を指します。介護現場では、転倒しそうになった、誤嚥しそうになった、薬を飲み間違えそうになった、といった日常的に起こり得るケースが該当します。
ご利用者のいつもと異なる体調変化や設備の不具合、職員間の情報共有不足などは、事故につながるリスクを見つける手がかりになります。こうした変化によって事故につながりかけた場面も、記録・共有することが大切です。
介護職員には、日常業務のなかでヒヤリハットに敏感に気づき、早期に適切な対応をとる姿勢が求められます。
ヒヤリハットと介護事故の違い
一般にヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、事故につながる可能性があった出来事を指します。一方、介護事故とは、介護サービスの提供中に実際に発生した転倒、誤薬、物品の紛失・破損などの出来事を指します。
たとえば、ご利用者が椅子から立ち上がろうとしてバランスを崩し、近くにいた職員が支えて転倒を防げた場合はヒヤリハットに当たります。一方、支えきれず転倒した場合は介護事故となります。
けがの有無だけで一律に区分できるものではなく、ヒヤリハットと事故の区分は施設によって異なります。事故が発生してもご利用者への影響がなかった事例を、ヒヤリハットとして扱う施設もあります。施設内の報告基準に沿って判断しましょう。
なお、市町村への事故報告については、①死亡に至った事故、②医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬・処置等何らかの治療が必要となった事故が原則的な対象とされています。これに加えて、自治体が独自に報告対象を定めている場合もあります。
ヒヤリハットを丁寧に拾い上げることは、介護事故の発生を減らすうえで有効な取り組みです。
ヒヤリハットとあわせて使われる「インシデント」「アクシデント」との区分については、こちらの記事で整理しています。
(参照:介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン|厚生労働省老健局)
ハインリッヒの法則とヒヤリハットの関係
ハインリッヒの法則とは、1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった数十件の小さな事故があり、さらにその背後には事故寸前だった数百件のヒヤリハットがあるという経験則です。アメリカの損害保険会社の安全技師であったハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが、1930年代に提唱した考え方として知られています。
ただし、これは一定数のヒヤリハットを集めれば事故を防げるという因果関係を示したものではありません。小さな気づきを蓄積し、原因分析や対策の見直しに活用するための考え方として捉えることが大切です。
厚生労働省のガイドラインでも、どんな小さなヒヤリハットでも見逃さずに対応することが、ご利用者や職員の安全を守ることにつながるとされています。
なお、報告件数の多さだけで施設の安全性を評価することはできません。必要な事例が隠されずに報告され、実際の改善につながっているかどうかが重要です。
介護施設のヒヤリハット事例集17選【場面別】
この記事で紹介するヒヤリハット事例は以下のとおりです。気になるカテゴリーから確認してみてください。
| 事例番号 | カテゴリー | 場面の概要 |
| 事例1 | 転倒・転落 | ベッドから立ち上がる際にふらついた |
| 事例2 | 転倒・転落 | 歩行器・杖を使った歩行中に転倒しそうになった |
| 事例3 | 車椅子・移乗・移動 | 車椅子上で姿勢を崩し、ずり落ちそうになった |
| 事例4 | 車椅子・移乗・移動 | ベッドから車椅子への移乗中にバランスを崩した |
| 事例5 | 車椅子・移乗・移動 | 屋外移動中に段差で車椅子が傾いた |
| 事例6 | 食事・誤嚥 | 食事中に強いむせ込みが見られた |
| 事例7 | 食事・誤嚥 | 義歯を装着しないまま食事を始めた |
| 事例8 | 食事・誤嚥 | 食事形態を取り違え、普通食を提供しそうになった |
| 事例9 | 服薬・誤薬 | 別の時間帯の薬包を手に取った |
| 事例10 | 服薬・誤薬 | 他のご利用者の薬を服用しそうになった |
| 事例11 | 入浴 | 濡れた浴室の床で足を滑らせた |
| 事例12 | 入浴 | 機械浴のリフト使用中にスリングがずれた |
| 事例13 | トイレ・排泄 | 排泄介助・トイレ移動時に立位を崩した |
| 事例14 | 更衣 | 更衣中にファスナーで皮膚を挟みそうになった |
| 事例15 | 認知症 | 食べ物ではない物を口に入れようとした(異食) |
| 事例16 | 認知症 | 施設外へ出ようとしていた |
| 事例17 | 送迎・乗降 | 送迎車の乗降時に転倒しそうになった |
データで見る介護事故・ヒヤリハットの傾向
全国の介護事故を網羅した統計はまだ整備途上にありますが、限定的なデータからは、重大な事故において転倒・転落が大きな割合を占めることが読み取れます。
厚生労働省の補助事業として2018年に公表された報告書では、消費者庁から厚生労働省老健局に報告された重大事例276件のうち、転倒・転落・滑落が181件(65.6%)、誤嚥・誤飲・むせこみが36件(13.0%)でした。
このデータは、2014年8月から2017年2月に発生した、概ね30日以上の入院を伴う重大事例に限定されたものです。また276件のうち254件が入所サービスでの事例です。対象期間や報告対象が限られている点には注意が必要ですが、重大事故における転倒・転落の多さを示しています。
(参照:介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業報告書|公益財団法人介護労働安定センター)
厚生労働省「令和6年人口動態統計」によると、2024年における65歳以上の「転倒・転落・墜落」による死亡者数は11,175人でした。交通事故による死亡者数2,103人の約5.3倍にあたります。なお、これは介護施設内に限定した統計ではなく、65歳以上全体の死亡統計です。
(参照:令和6年人口動態統計 上巻 死亡 第5.31表|e-Stat)
厚生労働省「2025年国民生活基礎調査」では、在宅の要支援・要介護認定者が介護を必要とするようになった主な原因として、「骨折・転倒」が14.6%で第3位でした(第1位は認知症16.7%、第2位は高齢による衰弱15.6%)。要介護者に限ると14.8%で、認知症に次ぐ第2位となっています。
高齢者の転倒は、死亡や要介護状態につながり得るリスクであることが、国の統計からも読み取れます。
(参照:2025年国民生活基礎調査 介護の状況|厚生労働省)
なお、全国レベルの事故データ整備は途上にあります。厚生労働省は令和6年11月29日付の通知で、電子的な報告・受付を想定した標準報告様式を改訂しました。原則として電子メール等の電磁的方法による報告を求める一方、これまで市町村等で用いられている様式の使用を妨げるものではないとされています。
同通知では、将来的な事故報告の標準化による情報蓄積と有効活用に向け、引き続き検討する方針も示されています。
(参照:介護保険最新情報Vol.1332 介護保険施設等における事故の報告様式等について|厚生労働省老健局)
転倒・転落のヒヤリハット事例

介護現場で特に注意したいのが、転倒・転落に関するヒヤリハットです。高齢者は足腰の筋力が弱まっていることや視力の低下、認知症状などにより思わぬ転倒や転落が起こります。
夜間は暗さや眠気、職員配置などが重なるため、転倒リスクに注意が必要です。居室からトイレまでの足元灯を設置するなど、環境面の備えもあわせて確認しておきましょう。
事例1【ベッドから立ち上がる際にふらついた】
【内容】
夜間、ご利用者がベッドから立ち上がろうとした際にバランスを崩しました。近くにいた職員が支えたため、転倒には至りませんでした。
【考えられる原因】
・ベッドの高さが合わず、立ち上がり時に重心が不安定になった
・身体を支える手すりなどの活用が不十分だった
・夜間の覚醒状態や当日の身体状況を十分に確認できていなかった
【対策例】
・ご利用者ごとに適切な高さのベッドを選定する
・立ち上がり動作を支えられる位置に手すりを配置する
・ベッド柵は、身体状況・動作・挟み込みリスクを評価したうえで必要な位置に設置する
ベッドを柵で囲み、ご利用者が自分で降りられない状態にすることは、身体拘束に該当する可能性があります。また、ベッドと柵の隙間に首や手足が挟まる重大事故も報告されています。転落防止のみを目的にベッド全体を柵で囲むことは避け、多職種で個別に検討しましょう。
(参照:介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き(令和7年3月)|厚生労働省老健局 / 介護ベッドと柵や手すりとの間に首などが挟まれる事故に注意|消費者庁)
事例2【歩行器・杖を使った歩行中に転倒しそうになった】
【内容】
歩行器を使って食堂へ向かっていたご利用者が、廊下のめくれたカーペットにキャスターを取られてバランスを崩しました。職員がとっさに支えたため転倒は避けられましたが、数秒遅れていれば転倒していた状況でした。
【考えられる原因】
・廊下のカーペットがめくれ、キャスターの進行を妨げた
・歩行器のキャスターに髪の毛やほこりが絡み、動きが重くなっていた
・スリッパのかかとが浅く、つま先が引っかかりやすかった
【対策例】
・動線上のカーペット・コード類・段差を定期的に点検する
・歩行器や杖は使用前点検を行い、取扱説明書と施設の保守計画に沿って定期点検する
・かかとのある滑り止め付きの室内履きへの切り替えを家族へ提案する
車椅子・移乗・移動のヒヤリハット事例
移乗介助は、介護職員の動作とご利用者の残存機能が噛み合う必要があり、ヒヤリハットが起こりやすい場面です。ご利用者の体格や身体機能の状態を把握し、施設の手順に沿って行うことが大切です。
事例3【車椅子上で姿勢を崩し、ずり落ちそうになった】
【内容】
車椅子に座っていたご利用者が、ブレーキを掛けないまま立ち上がろうとして姿勢を崩し、そのままずり落ちそうになりました。職員が気づいて支えたため転落は防げました。
【考えられる原因】
・ご本人の握力ではブレーキを掛けづらい車椅子だった
・麻痺があり、患側のブレーキが確実に掛からなかった
・車椅子のサイズが身体状況に合わず、座位が安定しにくかった
【対策例】
・体格やADLに合わせた車椅子を選定し、シーティングを見直す
・自動ブレーキや立ち上がりを検知する機能などの活用を検討する
・見守りを強化し、必要に応じて普通の椅子への座り替えを提案する
立ち上がりを妨げるベルトやテーブルの使用は、身体拘束に該当する可能性があります。導入を検討する場合は、施設の身体拘束防止方針に沿って多職種で判断しましょう。
事例4【ベッドから車椅子への移乗中にバランスを崩した】
【内容】
ベッドから車椅子への移乗介助中にご利用者の膝折れが起きました。職員が支え、別の職員が介助に入ったため、転倒には至りませんでした。
【考えられる原因】
・ご利用者の下肢支持力に対して、介助方法や介助人数の検討が十分でなかった
・ベッドの高さが移乗方法に適しておらず、重心移動が大きくなった
・当日の体調変化(下肢筋力の低下)を事前に把握できていなかった
【対策例】
・フットレスト・ブレーキ・ベッド高の3点を移乗前に指差し確認する
・ご利用者の身体状況と移乗方法に適した高さへベッドを調整する
・体調に応じて二人介助やスライディングボードの活用を判断する
事例5【屋外移動中に段差で車椅子が傾いた】
【内容】
外出支援の際に歩道の段差を乗り越えようとしたところ、車椅子が大きく傾きご利用者が転落しそうになりました。職員が支えて転落は防げましたが、ご利用者は非常に怖い思いをしました。
【考えられる原因】
・段差の高さを事前に確認せずに進んでしまった
・ティッピングレバーの操作に習熟しておらず、対応が遅れた
・段差の大きさに対して介助体制が十分でなかった
【対策例】
・屋外移動の前にルート上の段差の場所と高さを確認し、可能な限り段差を避ける
・ティッピングレバーの使い方を定期研修で確認し習熟度を揃える
・車椅子の取扱説明書と施設の手順に沿って必要な介助体制を判断する
食事・誤嚥のヒヤリハット事例

介護施設において、ご利用者の食事は日々のケアの中で非常に重要な役割を担っています。食事中の誤嚥や窒息は、命に関わる事故にもつながります。
これらの事故を未然に防ぐためには、多職種で口腔機能・嚥下機能のアセスメントを行い、ご利用者一人ひとりの状態に合わせた食事形態や介助方法を提供することが不可欠です。
事例6【食事中に強いむせ込みが見られた】
【内容】
食事中にご利用者が強くむせ込み、咳き込みが続きました。職員がすぐに対応したため大事には至りませんでしたが、誤嚥や窒息の危険がある状況でした。
【考えられる原因】
・食事形態がご利用者の嚥下機能に適していなかった
・一口量が多く、嚥下の様子を十分に確認しないまま次の一口を勧めていた
・体調不良により、普段より嚥下機能や覚醒が低下していた
【対策例】
・多職種で口腔機能・嚥下機能を定期的に評価し、食事形態を検討する
・一口量を調整し、嚥下の様子を確認しながら次の一口を勧める
・いつもと様子が異なる日は、食事の可否を含めて看護職員と相談する
咳ができている間は、咳を続けてもらいながら注意深く見守ります。ただし、咳が弱くなる、咳ができない、声が出ない、のどを押さえるしぐさ(チョークサイン)が見られるなど、窒息が疑われる場合は、直ちに119番通報を依頼します。
反応がある場合は、まず背部叩打法を行い、効果がなければ腹部突き上げ法を行います。反応がなくなった場合は、直ちに心肺蘇生を開始します。腹部突き上げ法を行った場合は、異物が除去できても腹部の内臓を傷めている可能性があるため、その旨を救急隊に伝えるか、すみやかに医師の診察を受けてください。
施設の対応手順を平時から確認しておきましょう。
(参照:気道異物の除去|総務省消防庁 / 気道異物除去の手順|日本医師会 救急蘇生法)
事例7【義歯を装着しないまま食事を始めた】
【内容】
食事時に義歯を使用することが個別に決められているご利用者が、義歯を装着しないまま食事を開始しました。噛む力が十分に得られず、職員が早期に気づいて対応しました。
【考えられる原因】
・配膳前に義歯の装着を確認する手順がなかった
・ご利用者自身が装着を忘れたことに気づいていなかった
・洗浄後の義歯の保管場所が定まっていなかった
【対策例】
・食事前に義歯の装着を確認するチェックリストを運用する
・ご利用者にも食事前に義歯を確認するよう声をかける
・義歯の保管場所を一か所に定め、職員間で共有する
以前、介護老人保健施設で働いていた際に、「入れ歯の紛失」という事例を何度も見てきました。ご利用者が食べ残しの汁物椀に入れ歯を入れてしまったり、ティッシュペーパーに包んで居室内のゴミ箱に破棄してしまったり、その度に職員と一緒にゴミ庫を探したり…ということもありました。入れ歯は高価なものなので、破損や紛失にも十分気をつける必要があります。
事例8【食事形態を取り違え、普通食を提供しそうになった】
【内容】
個別にソフト食が決められているご利用者に、普通食を提供しそうになりました。職員が配膳時に気づいたため、大事には至りませんでした。
【考えられる原因】
・配膳時に食事形態を照合する手順が徹底されていなかった
・厨房へ食事箋が届いておらず、変更が反映されていなかった
・見た目で食事形態を判別できる工夫がなかった
【対策例】
・配膳時に食事形態が正しいかを毎回チェックする
・食事箋を適切なタイミングで厨房へ提出し、変更を確実に伝える
・食事形態を書いたプレートを用意し、見た目で判別できるようにする
きざみ食は口の中や喉の奥でばらけやすく、気管に入りやすい面があります。ご利用者の状態に合わせて細かくし過ぎないよう配慮が必要です。誤嚥事例の多さから、きざみ食の提供を廃止している事業所もあります。
服薬・誤薬のヒヤリハット事例

介護施設における服薬管理は、ご利用者の健康維持と医療の一環として非常に重要な役割を果たしています。誤薬や与薬漏れは、思い込み等のヒューマンエラーによって起こりやすい事故であり、ご利用者の生命・身体に直接影響を与えるおそれがあります。
事例9【別の時間帯の薬包を手に取った】
【内容】
朝食後の配薬時、職員が夕食後の薬包を手に取りましたが、氏名と服用時間の確認で気づき、手渡す前に交換しました。
【考えられる原因】
・朝食後と夕食後の薬が同じ場所に混在して保管されていた
・配薬準備の確認が1人で行われ、多段階のチェックがなかった
・配薬と下膳など他の業務を並行して行っていた
【対策例】
・服薬カレンダーを導入し、時間帯ごとに分けて管理する
・配薬準備と配薬時のそれぞれで、多段階の確認を行う
・服薬業務中は他の業務を行わないことを施設のルールとして定める
事例10【他のご利用者の薬を服用しそうになった】
【内容】
ご利用者が間違えて隣の方の薬を取り、飲もうとしました。職員が間一髪で防ぎ、被害はありませんでした。
【考えられる原因】
・ご利用者同士の薬の置き場所が近く、混同しやすかった
・配薬後に口へ入れるまで見守っていなかった
・服薬介助中に他のご利用者の対応が入り、注意が分散した
【対策例】
・ご利用者ごとに明確な薬の収納場所を設ける
・本人・薬・時間・量・方法を施設の手順に沿って確認してから手渡す
・飲み込んだことを確認してから次の方へ移る
入浴のヒヤリハット事例
浴室や脱衣所は床や皮膚が濡れて滑りやすく、衣服や履物の状態、段差、移動方法も居室内とは異なるため、転倒に注意が必要な場所です。
入浴中は皮膚や床面が濡れて滑りやすく、身体を支える際も不安定になりやすいため、ご利用者の身体状況に合った介助方法を事前に確認しておく必要があります。
事例11【濡れた浴室の床で足を滑らせた】
【内容】
ご利用者が浴槽に入ろうとした際に足を滑らせましたが、職員が支えたため転倒には至りませんでした。一歩間違えば強打していた状況でした。
【考えられる原因】
・浴槽の縁が高く、またぐ動作で重心が大きく移動した
・浴室の床が濡れて滑りやすくなっていた
・手すりや補助具の使用が不十分で、身体を支えられなかった
【対策例】
・浴室内の床や浴槽周辺の滑りやすさ、段差を点検する
・身体状況と動作に合わせて、手すり・浴槽台・滑り止め用品などを個別に選定する
・床の水分をこまめに除去し、脱衣所も滑りにくい状態に保つ
事例12【機械浴のリフト使用中にスリングがずれた】
【内容】
座位保持が困難なご利用者の入浴にリフト付きの特殊浴槽を使用した際、スリング(吊り具)の装着位置がずれており、吊り上げた後に身体が不安定な状態になりました。職員が気づいてすぐに下ろしたため事故には至りませんでしたが、落下の危険がありました。
【考えられる原因】
・スリングの装着確認が十分に行われていなかった
・ご利用者の身体状況に適したスリングが選定されていなかった
・リフト操作の研修がなく、職員によって習熟度に差があった
【対策例】
・吊り上げ前にスリングの装着位置と接続部を確認する
・スリングの選定・装着方法・必要な介助人数・操作方法は、メーカーの取扱説明書と施設の手順に従う
・操作手順をマニュアル化し、定期的な研修で技術を確認する
トイレ・排泄のヒヤリハット事例
トイレは滞在時間こそ短いものの、立ち座りや方向転換など普段とは異なる動作が集中する場所です。介助者が一時的にそばを離れるタイミングでもヒヤリハットが発生しやすくなります。
夜間に頻尿があるご利用者には、居室へのポータブルトイレ設置を検討し、移動距離を短くすることも有効です。
事例13【排泄介助・トイレ移動時に立位を崩した】
【内容】
排泄介助中に尿取りパッドを取りに離れたところ、ご利用者が便座から立ち上がろうとして転倒しそうになりました。夜間に自力でトイレへ向かおうとしてふらつくケースもあります。
【考えられる原因】
・介助中に物品を取りに行き、そばを離れる時間が生じた
・トイレの床が濡れ、手すりの位置が立ち上がりに合っていなかった
・「呼ぶと迷惑」との遠慮から、夜間に一人で動こうとした
【対策例】
・必要な物品は介助前に手元へ用意し、そばを離れない運用にする
・立ち上がり動作を評価し、手すりの位置や形状が適切かを見直す
・遠慮なく呼べる雰囲気をつくり、廊下の足元灯で視認性を確保する
更衣のヒヤリハット事例
高齢者の皮膚は柔軟性が低下して薄く、乾燥しやすいため、わずかな摩擦でも内出血や皮膚剥離が起こりやすい状態にあります。更衣介助では、着脱動作による転倒だけでなく、衣類による皮膚トラブルにも注意が必要です。
事例14【更衣中にファスナーで皮膚を挟みそうになった】
【内容】
更衣介助でファスナーを閉める際、ご利用者の腹部の皮膚を巻き込みそうになりました。職員が気づいて手を止めたため、挟み込みには至りませんでした。
【考えられる原因】
・衣類にファスナーや金属パーツがあることを確認していなかった
・高齢者の皮膚が薄く傷つきやすいことへの意識が不十分だった
・時間に追われ、素早く着替えさせようとした
【対策例】
・更衣介助前に衣類のファスナーや金属パーツの有無を確認する
・皮膚に触れる部分を手で覆いながら、焦らず丁寧に介助する
・マジックテープや紐タイプの衣類への切り替えを家族へ依頼する
血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬・抗血小板薬等)を服用している方は、内出血が生じやすい傾向があります。服薬状況も含めてリスクを把握しましょう。
認知症のあるご利用者のヒヤリハット事例

認知症のあるご利用者は、記憶障害や見当識障害、判断力の低下などにより、一般的な注意では予測しにくいヒヤリハットが起こりやすいという特徴があります。
認知症の症状や行動特性を理解したうえで、なぜその行動が起きるのかをアセスメントし、環境の整備や見守り体制を検討することが求められます。
事例15【食べ物ではない物を口に入れようとした(異食)】
【内容】
食事中に認知症のあるご利用者がティッシュペーパーを食べ物と間違えて口に入れようとしました。職員が気づいてすぐに止めたため、誤飲には至りませんでした。
【考えられる原因】
・認知症により、食べられないものを食べ物と誤認する状態だった
・テーブル上にティッシュなど誤食のリスクになる物が置かれていた
・異食のリスクが職員全員に共有されていなかった
【対策例】
・食事中はテーブルまわりから食べ物以外の物を事前に片付ける
・異食すると生命に関わる物品を明確にし、手の届かない場所に管理する
・リスク情報を職員全員で共有し、居室内の小物管理にも配慮する
異食をすべて防ぐことは難しく、過度な対策はご利用者の生活の制限につながります。塩素系漂白剤・アルカリ性洗浄剤・防虫剤・殺虫剤・電池類など、生命に関わる物品の管理を優先しましょう。
事例16【施設外へ出ようとしていた】
【内容】
認知症のあるご利用者が「家に帰る」と言いながら玄関から出ようとしているところに職員が気づき、施設外へ出る前に対応しました。
【考えられる原因】
・帰宅願望が強く出やすい夕方に見守りが手薄になっていた
・外へ出ようとする理由や背景が把握できていなかった
・出ようとした時点で職員が気づける仕組みがなかった
【対策例】
・外へ出ようとする理由や時間帯、生活歴を個別に確認する
・声かけや活動内容、帰宅願望が出やすい時間帯の職員配置を見直す
・センサーやGPS等を導入する場合は、本人の意思やプライバシーに配慮し、施設の身体拘束防止方針に沿って多職種で検討する
本人が自分の意思で開けられない場所に隔離することは、身体拘束に該当する可能性があります。施錠や機器の導入を検討する場合は、目的と必要性を多職種で十分に検討しましょう。
送迎・乗降時のヒヤリハット事例
デイサービスをはじめとする通所系サービスでは、施設内だけでなく送迎の場面でもヒヤリハットが発生します。乗降時は普段と異なる足場や段差があり、複数のご利用者へ短時間に対応する場合には、見守りが手薄になるおそれがあります。
厚生労働省のガイドラインでは、外出・送迎時に起こりうる事故として、送迎車両の交通事故、乗降時の転倒、ドア開閉時の挟み込み、車内への置き去り、送迎直後の玄関先での転倒などが挙げられています。細かなマニュアル作成によるルール化が有効とされています。
事例17【送迎車の乗降時に転倒しそうになった】
【内容】
送迎車が施設に到着し、添乗員が別のご利用者の降車を介助していたところ、一部介助が必要なご利用者が自ら降りようとしてステップに足をかけ、バランスを崩しました。とっさに支えたため転倒には至りませんでしたが、頭を打つ危険がありました。
【考えられる原因】
・降車の順番や待機の必要性が、ご利用者に伝わっていなかった
・長時間の乗車で同じ姿勢が続き、立ち上がり時にふらつきやすかった
・複数台の送迎車が同時到着し、介助にあたる職員が不足していた
【対策例】
・降車の順番と待機の必要性を、車内で一人ひとりに伝える
・声かけの内容と方法をマニュアル化し、反応を確認してから次の動作に移る
・送迎車の到着時間をずらし、受け入れ側の職員を確保する
自宅へ送り届ける際は、玄関先で引き渡した直後に転倒するケースもあります。どこまで見届けるかを契約時に確認し、安全なところまで介助することが推奨されています。
ヒヤリハット報告書の書き方と例文
ヒヤリハット事例を施設全体の安全対策に活かすためには、報告書に正確かつ具体的な情報を記録し、職員間で共有することが欠かせません。ここでは、報告書に書く項目と記入のポイントを解説します。
報告書に書く6つの項目(5W1H)
以下は、施設内で使用するヒヤリハット報告書の基本的な整理方法です。市町村へ提出する事故報告書とは異なるため、実際には施設の様式や自治体の取扱いを確認してください。
| 項目 | 記載内容 | 記入のポイント |
| いつ(When) | 発生した日時 | 日付・時間帯(例:食事介助中、夜間巡回時)まで具体的に記載する |
| どこで(Where) | 発生した場所 | 居室番号・フロア・トイレ・浴室など場所を特定して記載する |
| 誰が(Who) | 関係者(ご利用者・職員) | ご利用者の状態(認知症の有無・ADLなど)も補足すると対策を考えやすい |
| 何を(What) | 起きた出来事・状況 | 起きた事実を客観的に書く。感情的な表現は避ける |
| なぜ(Why) | 発生した原因・背景 | 個人の「不注意」で終わらせず、環境・手順・体制など構造的な原因を探る |
| どのように(How) | その後の対応・対策 | その場の対応だけでなく、再発防止のための対策まで記載する |
【場面別】ヒヤリハット報告書の記入例
記入例1:転倒・転落
発生日時:○○年○月○日(月) 14時30分ごろ
発生場所:2階 トイレ(102号室隣)
関係者:ご利用者 ○○様(80代・女性)/担当職員 ○○
内容(何が起きたか):
排泄介助中に尿取りパッドを取りにその場を離れたところ、ご利用者が立ち上がろうとして便座から転倒しそうになった。すぐに駆け寄り体を支えたため転倒には至らなかった。ご利用者の体調に変化はなし。
考えられる原因:
介助中に目を離してしまった。尿取りパッドを事前にトイレへ持参しておらず、その場を離れる必要があった。また、トイレ内の手すりの位置が立ち上がりに合っていなかった。
対応・再発防止策:
今後は排泄介助前に必要な物品をすべてトイレに持参し、ご利用者のそばを離れないようにする。手すりの設置位置については施設長へ報告し、環境改善を検討する。
記入例2:むせ込み
発生日時:○○年○月○日(水) 12時15分ごろ
発生場所:1階 食堂
関係者:ご利用者 ○○様(90代・男性)/担当職員 ○○
内容(何が起きたか):
昼食の主菜を摂取中に強いむせ込みが起こった。食事介助をいったん中止し、自発的な咳を妨げないよう見守った。看護職員へ報告し、意識・呼吸状態や口腔内残留などを確認したうえで、食事を再開するか判断した。
考えられる原因:
前日から軽い発熱があり、普段より覚醒状態が低かった。一口量が多く、嚥下の様子を十分に確認しないまま次の一口を勧めてしまった可能性がある。
対応・再発防止策:
体調と嚥下機能を多職種で再評価し、食事形態、一口量、姿勢、介助ペースを見直す。体調不良時の食事提供の可否について、看護職員と相談する手順を確認した。
記入例3:誤薬
発生日時:○○年○月○日(金) 8時00分ごろ
発生場所:2階 食堂
関係者:ご利用者 ○○様(80代・女性)/担当職員 ○○
内容(何が起きたか):
朝食後の配薬時、隣席のご利用者の薬包を手に取り口へ運ぼうとした。職員が気づいて制止し、服用には至らなかった。
考えられる原因:
配薬時に複数名分の薬包をトレイにまとめて運んでいた。配薬後、口に入るまで見守らずに次のご利用者の対応に移っていた。
対応・再発防止策:
薬包は一人分ずつ運び、本人・薬・時間・量・方法を施設の手順に沿って確認してから手渡す。飲み込みを確認してから次のご利用者の対応に移る手順を徹底する。
事実と推測を書き分ける
報告書は、職員個人の責任を追及するためではなく、施設全体の安全を高めるために活用するものです。職員の行動も含め、起きた事実を省略せず客観的に記録し、推測や評価とは明確に区別しましょう。
「〜だと思われる」「〜の可能性がある」といった推測は、事実と分けて記載します。原因は「環境・手順・体制」の視点からも探ることが重要です。
報告が集まらないときの対処
報告書を提出したあと、情報が上司の手元にとどまったままでは再発防止につながりません。書いて終わりにしないことが大切です。
報告が集まらない施設では、次のような原因が考えられます。
・書式が複雑で、記入に時間がかかる
・報告すると責任を問われるという空気がある
・報告しても何も変わらないと感じられている
書式を簡易にする、報告の目的は個人の責任追及ではなくケアの改善であると周知する、対策として何が変わったかをフィードバックする。この3点を整えることが、職員が報告しやすい環境づくりにつながります。
ヒヤリハットを事故防止に活かすには
ヒヤリハットは、報告書を集めるだけでは事故防止につながりません。集めた事例の傾向を分析してリスクを特定し、対策を実行し、一定期間後にその効果を検証する。この流れを継続することで、重大事故の予防につなげやすくなります。
その際に押さえておきたいのが、厚生労働省のガイドラインが示す「対策を取り得る事故」と「防ぐことが難しい事故」という考え方です。介護施設等はあくまで生活の場であり、ご利用者が自由に生活している以上、防ぐことが難しい事故は起こりえます。特に転倒については、日本老年医学会と全国老人保健施設協会が2021年に発表した「介護施設内での転倒に関するステートメント」でも、転倒すべてが過失による事故ではないことが明言されています。防ぐことが難しい事故があるという事実を、ご本人やご家族にあらかじめ説明し、認識を共有しておくことも大切です。
ヒヤリハットを書いて上司に提出して終わりにしてしまっては、他の職員には共有されません。回覧する、掲示する、介護システムで共有するなど、必要な職員が目を通せる仕組みをつくりましょう。その際は、氏名など個人を特定できる情報を除き、業務上必要な職員だけが閲覧できるようにします。報告したこと自体を評価し、実際にケアの改善につながったことを職員が実感できると、報告への意欲も高まります。
同様のヒヤリハットが繰り返される場合は、事故につながる可能性を踏まえ、個別のリスク評価と対策を見直す必要があります。日々の記録は、事故前後の状況や施設が講じていた対策を客観的に確認し、ご本人・ご家族への説明や原因分析を行うための重要な資料になります。
私自身も以前、勤務していた介護老人保健施設に入所中の高齢者が転倒して骨折し、家族から訴えられた経験があります。普段から頻繁に面会に来ていた家族は、ご利用者の健康状態を理解しており、事故について訴えることはありませんでしたが、遠方の親戚からは慰謝料を求める連絡がありました。
その際には、すべての介護記録を証拠として提出しました。ヒヤリハットや介護記録は、自己防衛のためにも、しっかりと残すべきであると強く感じました。
リスクの特定から対策・評価までの具体的な進め方や、事例をもとにした職員研修の方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
・介護施設のリスクマネジメント プロセスを分かりやすく解説!
リスクの特定・分析・対応・コントロールの4プロセスを、具体例を交えて解説。
・介護現場のリスクマネジメントとは?事例から学ぶ対処法や目的・重要性
介護現場での事故発生時における対処法や目的、リスクマネジメントの重要性について。
・介護施設における危険予知トレーニング(KYT)とは?どんな効果が期待できる?
実際の場面を題材に「どこに危険が潜んでいるか」を考える訓練。経験の浅い職員の危険予知力を高めます。
夜間帯は職員数が限られ、ヒヤリハットが起こりやすい時間帯です。公平で無理のない人員配置は、職員の負担軽減と事故防止の両面につながります。
→ 介護事業者が開発したシフト管理システム【シンクロシフト】詳細はこちら
サービス種別ごとに注意したいヒヤリハット
ここまで場面別に事例を見てきましたが、サービスの種別によって起こりやすいヒヤリハットには違いがあります。自施設の特性に合わせて、重点的に備えるべきポイントを確認しておきましょう。
デイサービスのヒヤリハット事例
通所系サービスのご利用者は、自宅と施設を行き来します。施設では他のご利用者との交流や機能訓練・レクリエーションなど、自宅では行っていない活動に取り組むため、環境の変化がリスクとなります。
厚生労働省のガイドラインでは、通所系サービスにおいては家族等との情報共有が最も重要とされています。前日の体調不良、薬の変更、福祉用具の変更などは事故につながりやすい変化であり、事前に伝えてもらえるよう日頃からコミュニケーションをとることが求められます。
送迎時も注意が必要な場面です。乗降時は普段と異なる足場や段差があり、複数のご利用者へ短時間に対応する場合には、見守りが手薄になるおそれがあります。
訪問介護のヒヤリハット事例
訪問系サービスでは、職員が基本的に一人でサービスを提供する点が施設と大きく異なります。一人でケアを行っているときに誤嚥・転倒等が発生すると、焦って適切な対応ができないケースがあります。起こりうるリスクへの対応方針を事業所で定め、職員が事故発生時の対応方法を身につけておくことが重要です。
また、居宅ごとに段差やコード類、浴室の滑りやすさなどのリスクが異なるため、事前の把握が欠かせません。作業前に動線上の物を整理しておくことは、ご利用者の転倒防止と物品の破損防止の両方につながります。
自宅で暮らす方は複数の事業者のサービスを受けていることも多く、他事業所との情報連携も重要です。たとえばデイサービスで食事形態が変更されたことが訪問介護事業所に伝わっていないと、誤嚥につながるおそれがあります。
グループホームのヒヤリハット事例
グループホームは認知症のある方が共同生活を送る場です。転倒・転落のリスクに加え、異食、他のご利用者の居室への入室、施設外へ出ようとする行動などにも注意が必要です。
少人数のユニットで職員数が限られる時間帯もあるため、見守りの体制を時間帯ごとに確認しておくとよいでしょう。帰宅願望が出やすい時間帯を把握し、その時間に合わせた職員配置を検討することが有効です。
介護施設のヒヤリハットに関するよくある質問
Q1:ヒヤリハットと介護事故の違いは何ですか?
A: 一般にヒヤリハットは、事故には至らなかったものの、事故につながる可能性があった出来事を指します。一方、介護事故は、介護サービスの提供中に実際に発生した転倒、誤薬、物品の紛失・破損などの出来事を指します。けがの有無だけで一律に区分できるものではなく、ヒヤリハットと事故の区分は施設によって異なり、事故が発生してもご利用者への影響がなかった事例をヒヤリハットとして扱う場合もあります。施設内の報告基準に沿って判断しましょう。なお、市町村への事故報告は、死亡に至った事故、医師の診断を受け投薬・処置等の治療が必要となった事故が原則的な対象で、その他の取扱いは自治体によって異なります。
Q2:介護現場で最も多いヒヤリハットは何ですか?
A: 全国のヒヤリハットを網羅した統計は整備途上ですが、重大事故のデータからは転倒・転落が大きな割合を占めることがわかります。公益財団法人介護労働安定センターの報告書によると、消費者庁から厚生労働省老健局に報告された重大事例276件(概ね30日以上の入院を伴う事例、2014年8月〜2017年2月発生分)のうち、転倒・転落・滑落が181件(65.6%)、誤嚥・誤飲・むせこみが36件(13.0%)でした。なお、276件のうち254件が入所サービスでの事例です。
(参照:介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業報告書|公益財団法人介護労働安定センター)
Q3:ヒヤリハット報告書は月に何件書けばいいですか?
A: 明確な基準はありません。ハインリッヒの法則では、1件の重大事故の背後に数十件の小さな事故と数百件のヒヤリハットがあるとされていますが、これは一定数を集めれば事故を防げるという因果関係を示すものではありません。報告件数の多さだけで安全性を評価することはできず、必要な事例が隠されずに報告され、改善につながっているかが重要です。件数を競うのではなく、「ヒヤリとした」「ハッとした」と感じた場面を気軽に共有できる職場の雰囲気づくりを優先しましょう。
Q4:デイサービスで多いヒヤリハットは何ですか?
A: 全国一律のヒヤリハット統計は整備途上であるため、デイサービスで最も多いヒヤリハットを断定することはできません。厚生労働省のガイドラインでは、通所系サービスの特性として、自宅と施設の環境の違いがリスクとなる点が挙げられています。機能訓練やレクリエーションなど自宅では行わない活動、送迎車への乗降など、施設内外の場面に注意が必要です。また、前日の体調不良や薬の変更といった情報を家族等から事前に伝えてもらうことが最も重要とされています。
Q5:訪問介護のヒヤリハットにはどんな特徴がありますか?
A: 職員が基本的に一人でサービスを提供する点、慣れない居宅環境でケアを行う点が施設と異なります。参考データとして、介護労働安定センターの福祉共済制度における賠償事故676件のうち、訪問サービスに分類された142件では、訪問先の物品の紛失・破損が80件、転倒・転落・滑落が33件でした。ただしこれは保険事故に限定された古いデータであり、訪問介護全体の発生割合を示すものではありません。作業前に動線上の物を整理しておくことが、破損防止とご利用者の転倒防止の両方につながります。
まとめ
ヒヤリハットは、日常の業務で発生する潜在的な危険や問題点を早期に把握し、それに基づいて安全対策を実施するための重要な手段です。これは、ご利用者の安全確保や介護の質の向上に役立ちます。
積極的にヒヤリハットを報告・分析し、その結果をもとに教育や改善を行うことが、介護事故の未然防止につながります。また、積極的にヒヤリハットを報告してもらうためには、管理者の意識も重要になります。
一方で、介護施設等は生活の場であり、防ぐことが難しい事故も存在します。対策を取り得る事故を徹底的に防ぎつつ、そうでない事故についてはご本人・ご家族と認識を共有しておくことも、リスクマネジメントの大切な要素です。
ヒヤリハット事例を施設内、職員間でしっかりと共有し対策を行うことによって、よりよい施設運営に繋がっていくことが一番の理想ではないでしょうか。そうした施設の文化を作っていくことも、管理者の大切な役割といえるでしょう。
| この記事の執筆者 | 伊藤 所有資格:社会福祉施設長認定講習終了・福祉用具専門相談員・介護事務管理士 20年以上、介護・医療系の事務に従事。 デイサービス施設長や介護老人施設事務長、特別養護老人ホーム施設長を経験し独立。 現在は複数の介護事業所の経営/運営支援をしている。 |
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